過度な“タンパク質信仰”は危険!?
体の組成の約20%を占めているタンパク質は、細胞やホルモン、体を構成する主成分として欠かせないものだ。ここ数年で必要性が認知されたことで、積極的に摂取する人が多くなってきたが、一日に摂るべきタンパク質の目安は体重1kgあたり0.8〜1.0g、体重50kgの女性なら40〜50g程度。タンパク質不足が言われているが、やみくもに摂れば良いというわけではない。タンパク質摂取に偏りすぎて体調不良になる人もいるなど過度な“タンパク質至上主義”の現象に、警鐘を鳴らす医師も。
そこで今回は、『ディフェンシブ栄養学』の著者でもあるクリニックF院長の藤本幸弘先生に、改めてタンパク質との付き合い方を教えていただいた。
体調が優れないときは、タンパク質を控えるべき?
「疲れているときや体調が優れない感覚があるときは、あえてタンパク質を減らした食事をしたほうがいいと思います。僕も実際にそうしています」。タンパク質の重要性を知っているなら、意外だと捉える人もいるかもしれない。この理由はタンパク質の化学的構造にあるそうだ。
「タンパク質は、他の三大栄養素である脂質や炭水化物と大きく違う点があるのですが、それは構成している元素です。脂質や炭水化物はC(炭素)とH(水素)とO(酸素)の三つの元素で主に構成されているのに対して、タンパク質はアミノ基を含む構造上、CとHとOに加えてN(窒素)が含まれます。CとHとOだけなら、CO2(二酸化炭素)とH2O(水)に分解できるので体外排出にはほとんど負担が無いのですが、N(窒素)を体から排出するのは少し複雑です。タンパク質が分解されて生ずるアンモニアを、肝臓の“尿素回路”で代謝しなければ、体外排出できる尿素にならないのです。つまり、構造上Nが多ければ多いほど、排出時に肝臓に負担がかかってしまうということになります」
藤本先生は、「肝臓=人体の工場」と比喩する。肝臓は本来高い予備力を持つ臓器なので、健康な人は10%くらいの力でその機能を果たすことができる。しかし飲酒のし過ぎで脂肪肝を患っている場合や加齢などによって、予備力はどんどん減ってしまう。そのような状態で大量のタンパク質を分解・排出するために体に負担をかけてしまったら、本来果たさなければならない免疫力を得るたんぱく質や、多くの代謝酵素などの生成機能にまで影響を及ぼす可能性もあるということだ。
「肝臓の予備力は高いので、普段はタンパク質を多く摂取してもそれほど問題ではありません。ただ、これから風邪をひきそうとか、たくさん飲酒してしまったとか、肝臓が体調を維持するために能力を使わなきゃいけないときに、タンパク質を多量に分解・排出させると負担になりますよね。体調が優れないときは、糖(炭水化物)からエネルギーをつくった方が効率いいですし、代謝にも影響がないのでおすすめです。またはもう一つの三大栄養素である脂質を摂取するのも大切です。脂質は糖よりもさらにエネルギー効率が高いですし、新しく細胞を作るためにも重要なので、ぜひ良質な必須脂肪酸を摂取してほしいですね」
何事も節度が大事。タンパク質との適度な向き合い方
高タンパク質な食事を好む人が増えたのはなぜなのだろう?
「タンパク質の構造上、無駄なくエネルギー変換しやすいので、高タンパクな食材を選ぶことで短期間で痩せられるというメリットがあるからでしょうね。タンパク質が分解されると小さなアミノ酸に変わります。アミノ酸は、エネルギーを作る際にさまざまな生成回路で、効率よくエネルギーに変換することができるんです。でも最近周りの人を見ていると、ちょっとやりすぎでは?と思うこともあります。朝はプロテインドリンクで、昼間はプロテインバーとか。朝からステーキとか、間食にゆで卵をいくつも食べるとか……。下手したら、1(炭水化物):1(脂質):8(タンパク質)くらいの割合で摂っている人もいるじゃないですか。これこそまさに“過ぎたるは及ばざるが如し”で、ここまでタンパク質に偏りすぎるのは、体が弱っているときには、あまり良いとは言えません」
プロテインドリンクが主食のようになっている人もチラホラ見受けられるが、それについて先生はどう捉えているのだろう。「プロテインドリンク自体は、必須アミノ酸を中心に構成されているので悪いものではありません。ただ、さすがに主食にしてしまうのは心配ですね。健康な時に通常量を摂取するのなら問題ありませんが、前述のとおりタンパク質を体外に排出する時はN(窒素)を出さなければならず、体が弱っている際には肝臓に負担がかかるということは覚えておいてほしいですね」
「プロテインバーやドリンクなどに偏ってしまうと、食物繊維を摂りづらくなるのも問題です。食物繊維は人間にとってはエネルギーになりにくいですが、善玉の腸内細菌のえさになりますので、腸内フローラの安定に役立ちます。今、腸内細菌が、免疫防御や必須栄養素の生成など、人間の細胞ではできない、多くの役割を果たしていることがわかってきています」
健康にとってのアンサーを知りたければ、自分の体への感受性を高めて
健康を維持する方法と、病気を治療する方法。藤本先生は、二つは根本的に目的も考え方も違うと断言する。
病気の場合は、見つけた病因を薬で「攻める(オフェンシブ)」治療。一方で健康は、どこか弱まっている臓器があったり特定の菌やウイルスに対して免疫が弱まっていたりすると、そこが病気の原因になってしまうので、食やサプリメントなどで防御力を上げておく、「守り(ディフェンシブ)」の考えが必要。個人々々によって持って生まれた遺伝子も生活習慣も違うし、身体の弱いところは年齢によっても変化していく。必要な栄養素も、対処法も、それぞれその時々で違うため、万人に共通する最善の方法はないからだ。
「よく、どんなサプリを飲んだらいいですか?と聞かれるのですが、“万人に合ったものはないので、まずは試してみて、自分の身体に聞くべきです”と答えています」。“汝自身を知れ”という言葉もあるが、要は自分の感性を高めて、自分に良いと思ったものを選択した方がいいということなのだ。
「たとえば、自分が食べてみて調子がいいと思うものを3つ選び、それを毎日順番に、つまり3日おきに摂取してみる。そうすると、もちろんメリットも享受できるし、万が一選択が間違っていてもリスクを回避できます。『バター VS マーガリン』『牛乳が健康に良いか悪いか』に代表されるように、健康に対する食理論は数年おきに変わることもあります。何か一つのことを信じ込んで、やり続けると失敗することがありますから、健康に対してはバランスを見つつ、常にリスクヘッジを想定しておく考え方が良いでしょう」
今回は特にタンパク質について取り上げたが、“盲信”してしまう対象はタンパク質に限ったことではない。他人の意見よりも“汝自身を知れ”。まずは自分の感度を高めることに尽力しよう。
Text: Sayaka Kawabe Editor: Rieko Kosai
