再びよみがえる、“キャラ立ち”アイコンネイル
SNSを開けば、自然と目に触れることも多いネイルアート。 さまざまなトレンドが生まれては消える中で、ここ数年はオーガニックでナチュラルなデザインが主流だったように見受けられる。いっそ何もしない、シックなネイルポリッシュでしどけ なく……という人がかなり多かった印象だ。まるで、コロナ禍 によって見直されたライフスタイルとのシンクロニシティさえ感じるが、クリーンでシンプルだったファッションが次なるフェーズに向かうと同時に、指先にも“第二勢力”が台頭。それは圧倒的なインパクトを放つ、ド派手でアイコニックなネイルだ。
長いシェイプに、こぼれ落ちそうなほど盛られたビジューやパーツと、まさに2000年代を想起させる懐かしさにあふれている。その変化について、世界的なネイルアーティストとして知られるTOMOYA NAKAGAWAさんはどう見ているのだろう。「やはり個人的には、Y2Kブームの影響を受けているように感じます。特に20 代の方たちに多いのですが、スカルプチュアで長さ出しを希望される方が増えてきていたり。SNSでは“#スカルプ狂”というハッシュタグまで誕生していて、 リアルにその時代を生きていない世代だからこそ、新しいものとしてキャッチし、自然とやってみたいと感じたんじゃないでしょうか」
ネイルで武装する、という自己肯定感アップ方法
日本よりも一足早く、5〜6年前からアイコニックなネイルが台頭していた韓国・ソウル。その理由を、ITZYやLE SSERAFIMなど数多くのアイドルのネイルを手がけるSUJI KIMさんに聞いてみた。「80〜90年代のファッションに注目が集まり始めたことをきっかけに、当時のヴィンテージアイテムにもフォーカスが。その結果、ネイルだけでなくメイクアップやヘア等にも影響を与え、新たなビューティートレンドが生まれたのだと思います」
注目したいのは、単純に過去のデザインをリメイクしているのではなく、現代版としてアップデートされ、アーティスト個々にオリジナルの進化を遂げているということ。「僕は3Dプリンターを使ったりもしますが、中学生の頃からネイルアート自体には面白さを感じていて、ずっとトレンドを見続けてきました。その上で、まだ見たことのない新しいものを生み出したいという思いでネイルに向き合っていますが、日本はネイルアート一つとってもジャンルが豊富で、かつ新しいものが次々と誕生し続けているのが特徴的。特に“痛ネイル”(漫画やアニメ等のキャラクターをモチーフに模写するアート)は、完全にオリジナルの文化ですよね。とは言え、材料の進化も相まって、全世界のレベルが上がっています」(NAKAGAWAさん)
またKIMさんは「最近の韓国ではY2Kを超えた新しい波が起こっていて、主張のあるロングネイルはもちろん、柄も色もノールールで、よりバリエーションが豊富に。また、レトロを新解釈した“ニュートロ”(新しいレトロを表現する造語)な雰囲気がトレンド」と、語ってくれた。
今後ますます世界を席巻しそうなアイコニックネイルの魅力とは、一体何だろう。「ネイルを通して自分の個性を自由に表現できること。それによって、シックな雰囲気や自信をもたらしてくれることですね」(KIMさん)。「ある種、武器のような強さが感覚として手に入ることや、所作にまで影響する女性らしさが宿ること。間違いなく、自己肯定感を後押ししてくれるものだと思います」と、NAKAGAWAさん。懐かしさと新しさが共存するエナジェティックな風を指先にのせて、この時代をポジティブに駆け抜けたい。
話を聞いたのは……
TOMOYA NAKAGAWA
ネイルアーティスト。コロナのパンデミックでできた時間をきっかけに、約2年前からネイルアートを始める。3Dプリンターを用いたデザインが話題を呼び、ビョークやスウィーティーをはじめ、数々のアーティストから依頼が絶えない。
SUJI KIM
ネイリスト。中学生の頃、偶然美容学校の見学に行ったことでネイルアートと出合う。韓国のネイルサロン「HYPNOZY」のオーナーを務めながら、ITZYやTWICE、LESSERAFIMやVIVIS、IVEのウォニョン等、多くのスターのネイルを手がける。
Coordination (Korea): Shinhae Song Text: KAZUKO MORIYAMA Editor: Toru Mitani
※『VOGUE JAPAN』2022年12月号「再燃、ネイル・クラッシュ」転載記事。