60歳、進化するビューティーを体現
スクリーンデビューからすでに40年。これまで多くの作品の中で“確実”な演技を魅せてきた彼女が、この度見事にゴールデン・グローブの頂点に輝いた。映画、コメディ&ミュージカル部門の主演女優賞である。先日、映画館で『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は予告を観たばかりではあるが、すでにその数分だけでもそのカオスっぷりが伝わってくる、非常にエキセントリックな役を演じている。
多面的な世界が入り組む“マルチバース”に飲み込まれてしまった、コインランドリーを経営する主婦、エヴリン。その主人公に憑依したのがミシェルだ。崖っぷちの人生、やや強引に起死回生へのストーリーへと巻き込まれ、日本でも公開前から「今年一番の傑作!」との声が多数寄せられている。高いアート性やヴィジュアルをベースにしながらも、“剥き身の人間”をさらすようなドラマ性で高い人気を誇る「A24」が手がけたコメディというだけあり、観る価値は多いにあるだろう。
人々を魅了する、多面的なブラックアイ
ミシェル・ヨーといえば、その黒々とした瞳と切れ味がいいシェイプの瞼、シャープな眉を思い出す。毎回、彼女の奥行きある眼差しは記憶として刻まれる。『グリーン・デスティニー』(2000年)や『SAYURI』(2005年)などでは、出演シーンは強烈なインパクトを刻み、『クレイジー・リッチ!』(2018)では、残酷さを持ちながらも、その瞳の奥に情熱を愛を秘めた複雑な表現を魅せた。
紐解くと、黒い瞳とツヤめくロングヘアーのバランスをとっているのが、アイブロウであることがわかる。ミシェルのアイブロウはあえて抜け感を持たせつつ、やや強めのアーチを描くことが多い。長さも比較的揃えてカットし、ストロングにならないようなグレーやブラウンのアイブロウで仕上げるのが彼女の定番だ。すべてを漆黒にせず、額縁は抜く。そのさりげない引き算で、豊かな表情を持つ目、瞳がより美しく、力強くスクリーンを彩るのだろう。
アジア人、女性の俳優がきちんと才能を認められることは素晴らしいことだ。さらに、エイジズムのない世界で60歳という年齢において頂点に立つことは、これからの映画界が明るくなるサインとも捉えられる。3月、我々をエンパワーするに違いない『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を観て、ミシェルの美しさを改めて目撃したい。