9月27日に新シングル「Bad Love」を発表した人気K-POPグループSHINeeのメンバーのキー。現在韓国にいる彼とこのシングルのミュージックビデオについてオンラインインタビューを慣行した。
カメラの前に現れたキーは、完璧にセットされたシルバーヘアにスモーキーなアイシャドウを施していて、まるでミュージックビデオのセットから飛び出したような出で立ちだった。
キーは他人のコンセプトを演じることなく、作品作りにおいても形だけの参加などは一切しない。彼自身のアイディアがミュージックビデオ、楽曲、そしてルックスに至るまでのプロデュースに反映されている。そんな想像力に満ち溢れたキーは、すでに次のミュージックビデオについて想像を膨らませていると語ってくれた。
しかし、今回は新シングルの「Bad Love」に焦点を当てた。ミュージックビデオ全編は、70年代のレトロフューチャーな世界観を軸に、80年代らしいロックスタームード、そして90年代っぽいキッチュなエッセンスが盛り込まれている。キー曰く、それは「今のトレンドをすべてごちゃ混ぜにした、サラダボウル的なクリエイション」だと言う。
オールドハリウッド的なセットは、映画『スタートレック』シリーズ、もしくは『2001年宇宙の旅』(1968)のワンシーンを切り取ったようなイメージで製作されている。約3分半の映像の中でキーは、何着ものスーツを纏うが、どれ一つとして正統派なブラックではない。すべてシークインやプリント、レザーなどの異素材を盛り込んだデザインで、さまざまなバリエーションの手袋とスタイリングされている。さらに、どのルックも眩しい色彩で満ち溢れていた。衣装のインスピレーション源を伺うと彼は、「デヴィッド・ボウイから着想を得ました。彼が大好きです」と答えてくれた。
ミュージックビデオの世界観とキーのインスピレーション源を照らし合わせると、ボウイの5作目のアルバム「ジギー・スターダスト」(1972)的なメイクを想像するかもしれない。しかし彼は、ボウイの初主演映画『地球に落ちて来た男』(1976)のような、透明肌とブリーチブロウ、そしてピンクに染まったチークといったメイクの方向性にした。彼の鋭い一重は、わずかに淡いオレンジのシャドウで彩られ、それがボウイらしいアンドロジナスな雰囲気を醸している。
「僕はいつも、メイクアップ•アーティストにグローではなく、マットな肌感にしてと頼んでいます」とメイクに対するこだわりを明かす。時に潤った肌も好むそうだが、SHINeeとしてのグループ活動、もしくはソロの場合でも、キーのメイクは目もとが一番のポイントになることが多い。その特長を活かすために「ファンデーションはナチュラルめ、もしくはマット肌の方が相性が良いんです」と彼は言う。
ヘアスタイルは、全体にボリュームを出して、毛先に動きを加えることでボウイらしさをもたらした。あるシーンでは、部分的に編み込んだスタイルも披露。これには撮影時のヘアレングスが関係したそうだ。オンライン越しにキーは、自ら髪を掻き上げ、今の長さを見せてくれた。「今、髪の毛を伸ばしていて、とても長いんです。だから編み込みスタイルで捻りを加えて、ロックスター風に仕上げました」
さらに、キーは今回のミュージックビデオのために、眩しいブロンドに髪を染めた。ここ数年間は見せてこなかったヘアカラーだが、今回が初ではない。「僕の髪は最高の状態ではないけど、ケアしようとは心がけています」と彼は言うが、ヘアのメンテナンスよりも勿論のこと、音楽の世界観を表現することが彼にとっては最優先だ。キーは、地毛である黒が一番好きなヘアカラーだが「それはアーティストであることと、音楽作りには関係がありません。ヘアカラーは、アルバムと音楽のコンセプトに深く関わるもので、自分の好みは重要ではないのです」と語る。髪質や好みを犠牲にし、幻想的な世界観を創り出す── それはK-popアイドルの仕事内容のほんの一部に過ぎない。
SHINeeのメンバーとしてデビューして早13年、キーはこれまでにさまざまなコンセプトに挑戦してきた。「Ring Ding Dong」(2009)では堕天使に扮し、「Everybody」(2013)ではハンサムな制服姿にチェンジ。「View」(2015)で親しみやすいスケーター少年になりきったと思いきや、「Atlantis」(2021)では水の王子様に変貌した。キーはどんな設定に対しても、自然と調和し、彼のものにしていく。
それは「Bad Love」のミュージックビデオでの生き生きとした姿からも垣間見える。自らが演出に加わり、世界観を作り上げたからこそ、とてもナチュラルに本作のコンセプトに溶け込むことができた。新曲をリリースするたびに、新しい世界観が演出され、常に新しい一面を求められているK-popアイドルだが、キーはこのように考える。
「コンセプトがあることは必ずしも大変だとは思いません。楽曲の根管は常に頭の片隅に入れています。アーティストとして、常にそれを意識していて、自分も何かインプットできないかと想像力を膨らませています。自らアイディアを発信するからこそ、なりきるのはそう難しいことではないのです」
さまざまなコンセプトを具体化するにあたり、一番の試練はアイディアをどのように整理し、落とし込むかだ。「僕の頭の中には、アイディアがたくさん詰まっていますが、すべてを一度に実現することはできません。何を選択して、具体化するかを明確にするのが一番難しい作業です」
キーは、2018年10月にソロデビューした。それまでにもひとりでテレビ番組に出演したり、デュオユニットで活動したりもしたが、2008年にSHINeeの一員としてデビューして以来、グループ活動が軸にあった。しかし、ここ近年彼はソロアーティストとしても着実にキャリアを積み重ねており、日本語の『ホログラム』(2018)を含め、4枚のミニアルバムをリリースしている。彼はSHINeeの活動とソロの決定的な違いは、「何事にも実験的になれること」と語る。
ソロとしての活動時、キーはより幅広いスタイルの髪型、メイク、そしてファッションに挑戦できる。ステージ上に立つのは彼ただ一人のため、より華々しくて大胆な出で立ちで空間を埋めなければならない。一方で、グループではメンバー全員のバランスが重要となる。さらに、ファンの期待値もあり、個人個人の自由度は制限されるという。グループ活動とソロの違いについて、キーはこのように話す。
「ファンは『SHINeeのキー』に対するイメージを抱いていて、僕はそこから大幅に逸脱しないように意識しています。もちろん、異なったスタイルもたくさん試して、新鮮な一面を常に見せるようにしていますが、彼らが親しんでいる自分の姿から、あえて遠ざけようとは思っていません」
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カラーに満ちた「Bad Love」の世界観のように、キーは私服も鮮やかで華やかなテイストを好んでいた。ファンもそういったイメージを抱いているのではないか。しかし最近、彼はより落ち着いた、マチュアなスタイルに惹かれているそうだ。韓国の兵役義務を終え、約2年ぶりに芸能活動に復帰した時、彼は自分の方向性について深く考えたと言う。恐れやセカンドオピニオンに左右されずに、自分の意思を尊重したことで、より洗練で研ぎ澄まされた好みへとシフトした。
「除隊直後、僕はナチュラルなスタイルに惹かれるようになりました」と話すキーは、ラフなヘアスタイルやメイクなしの顔、トーンダウンされた私服を披露するようになり、彼のインスタグラムは、そういったプライベートな姿が垣間見える。ソウルのカフェにいる人々と自然に溶け込むような、“カジュアルなOOTDスタイル”だ。何年間もアイライナーを欠かさずにアイドル活動を行い、兵役中は制服で過ごした彼が、より落ち着いた路線に惹かれるのは無理もないことかもしれない。
しかし、ファンシーなキーに慣れ親しんできたファンは、イメージチェンジした彼の姿に驚いたそうだ。かつて、彼はコントラストの効いた色合いや派手なディテール、個性的なシルエットの衣装を纏い、SHINeeで個性を発揮していた。控えめで落ち着いたスタイルにシフトしたところ、大きな反響があったと言う。「こんなにもリアクションが大きいとは思いませんでした。大胆でボールドな“キー”像があったところに、路線変更を示したことで、人々が抱く僕のイメージがナチュラル、そしてミニマリストにシフトしたのではないでしょうか」
兵役義務を経たことで、キーのなかで何か変わったことがあるかもしれないが、彼のスキンケアに対するこだわりは今も健在だ。アイドル活動と軍隊、どちらも途轍もない運動量が伴い、大量の汗がつきものだ。そのため、兵役中もアイドル時代と同じスキンケアルーティンを継続したという。洗顔、化粧水、保湿── このシンプルな3ステップは欠かさなかった。
マチュアで洗練されたスタイルをプライベートで好むようになったキーだが、彼のクリエイティビティは、今後もさまざまな方法で発揮されるだろう。創造性は決して眠ることはない。たとえそれが、目に見える何かに落とし込まれなかったとしても。それは、キー本人が一番わかっていることだ。「あるコンセプトの仕事を終えた後、僕はすぐに次の音楽とテーマについて考えているんです」と語るキーは、今もK-pop界の最前線を走っている。そして、彼が頂点に君臨する限り、明るくて輝かしいK-popの未来が待っているに違いない。
Photos: Courtesy of SM Entertainment Text: Devon Abelman
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