断言しよう。テントかと思うほど巨大で、裂けたり、穴が開いたりしたヴィンテージTシャツを、ゾーイ・クラヴィッツほどシックに着こなせる人間を私はほかに知らない。色あせたピンクのトラックパンツと合わせているのだが、それがまたよれっとしていて、クロップド丈で、ありえないほど格好いいのだ。さりげなくつけたアニータ コーのダイヤモンドネックレスふたつが(片方は1個のエメラルドが組み合わされたもの)そのスタイルをいっそうスタイリッシュに見せており、彼女がブルックリンのウィリアムズバーグにあるガレージを改装したシンプルモダンな自宅玄関を開けるのに合わせてキラキラと輝いている。彼女には、お金やスタイリストによって手に入れることのできない、生来のクールさがある。
彼女はグラミー賞受賞歴のあるロックスター、レニー・クラヴィッツと、女優リサ・ボネットのあいだの一人娘であり、そのようなすばらしい遺伝子の出会いがこの顔を生み出したのはまさに必然に思える。ゾーイの猫のようなアーモンド形の瞳は、濃くまっすぐな眉によって強調され、その優美な骨格はふっくらとした肉感的な唇と奇跡のように絶妙に散ったそばかすの存在によってやわらかな雰囲気になっている。彼女は半分アーティスティックなボヘミアンスタイルで、半分レトロロック調の人もうらやむワードローブを譲り受けているが、そのスタイルは完全にゾーイ自身のものだ。「昔から母からも父からも服を借りていたの」とゾーイは言う。「父のものをよくパクってた──父はすごく素敵なTシャツを持っているのよ」
ゾーイは裸足で、私のためにジャム用ジャーに水を注いでくれてから、深いアイボリーカラーのソファに座り、午後のお昼寝のために丸くなる満ちたりた猫のように両脚を折って横座りする。彼女からは幸せオーラがあふれているが、それも当然である。最近のゾーイには微笑むべき理由がたくさんあるのだ。たとえば、HBOのヒットシリーズ「ビッグ・リトル・ライズ」のシーズン2が始まるときにこのインタビューが行われた。このドラマで、彼女はニコール・キッドマン、リース・ウィザースプーン、シャイリーン・ウッドリーらと共演している。そして同じ時期に、彼女は俳優のカール・グルスマン31歳と結婚(フランスで6月29日に家族や豪華ゲストを招いた結婚式を挙げた)。カールの出演映画にはトム・フォード監督の『ノクターナル・アニマルズ』(16)などがあり、このインタビュー中は2階でビデオゲームをしている。
「彼ってすばらしいの」とゾーイはそう力説し、結婚するのが待ちきれないし、そうすれば「フィアンセ」という言葉をこれ以上使わなくてすむという理由も大きいとつけ加える。「あの響きってすごく鼻につくと思わない? なんか、俗っぽいっていうか......言ってる自分がバカみたいに思えてくるの。だからといってまったくそれを口にしないのも、そのことを認識していないみたいだし。『夫』と言うのが待ちきれないわ。というわけでいまはあの人のことを『私の彼』と呼ぶわ。いい?『私の彼』よ」。彼のことを話すときのゾーイの顔は輝いている。パリで結婚するこの二人は、つき合ってもう3年になる。「いっしょにいて、こんなに長いあいだどこかに逃げ出したくならなかった相手は彼が初めてなの」
二人は共通の友人を通じてバーで出会ったという。「私たちの出会いがアプリでもなく、映画の撮影現場でもなかったということが気に入ってるの。その友達は私が出会いを求めていることを知っていた──たとえ真剣な交際ではなくても、たとえば寝るだけでもいいみたいなところがあったのよ、包み隠さず言えばね──そして、その友達が連れてきたのがカールだったの。私は即座に何かを感じた──なのに彼ったらくるりとあっちを向いて隣にいた金髪の女の子と話し始めちゃって、私は『ちょっと、なんなの?』って思ったけど、緊張していたんだとあとから教えてくれたわ」
ゾーイの婚約指輪はローズカットされたダイヤモンドが5個並んだ1700年代由来のもので、カールは彼女のインスタグラムフィードで見た@theoneilovenycを通じて購入。彼女がそれを気に入っているとわかっていたそうだ。その指輪はこれ見よがしではなく洗練され、絶対に見落としようがない存在感がそなわっている。ゾーイのたくさんのタトゥー、つまり両手や両腕に躍る繊細なインク文字や模様のように。
「じつのところ、私にはずっと結婚願望があったの」いっそう話に熱を入れてゾーイはそう言う。「だけど、だれかとずっといっしょにいるというのが私にはあまりピンとこなかった。失敗するとわかっている道をわざわざ進むようなものだと思っていたのよ」。ゾーイの両親は、彼女がよちよち歩きのときに別れている。「だけどそんなときにカールと出会って、結婚も悪くないのかもしれないと心から思ったの」
ゾーイはカリフォルニア州トパンガキャニオンで母親に育てられ、牧歌的な幼少期を過ごした。つまり、アウトドアで過ごすのに適した土地で、大部分において菜食主義的な食事をし、週末の映画以外はテレビを見ることもなく、父親はときおりやってきては、またいなくなるという生活だったという。
「『フライ・アウェイ』がリリースされたときのことはよく覚えているわ。父が迎えにくるたび、学校中の人々が駐車場に押し寄せてきたものよ。私はいつもこう思ってた。『私がパパに会えてワクワクしているのは、パパが迎えにきてくれるのはめったにないことだからだけど、みんなはどうしてそんなに興奮しているんだろう?』とね」。
11歳のとき、ゾーイは父親と暮らすためにマイアミに引っ越した。「それまでは生まれてからずっと母と暮らしていたから、父のことをもっとよく知りたかったの」と彼女はそう語る。ゾーイは父のワールドツアーに──家庭教師とともに──同行し、ヨーロッパ史の授業で勉強していた都市を訪れた。「私はエネルギーや新しい出会いに飢えていて、父のまわりにはそういったものがあふれていた。父との暮らしのほうがキラキラしていたわ」
しかし、「~の娘」であることのさまざまな恩恵にあずかっていても、彼女はのけ者のように感じることが多かったという。「私にとって学校は居心地のいいところではなかった。学校の子たちはみんな裕福な白人の子で──運動選手だとかチアリーダーとか──私はまったく周囲になじめなかったの」そう彼女は言う。「ティーンエイジャーになろうっていうとき、人は自分が何者であるかを見つけようとするわ。そんなときに、どこにも自分の同類を見つけられないと、自分が異物であるかのような気がするのよ」
この時期が、13歳から結局10年間もつき合うことになった摂食障害の一因だったことはまちがいない。「あれはさまざまな要因から起こったと思う。母はとても美しくて小柄だったから、いっしょにいるときはいつも自分がみっともないように感じたし、父は父でいつもスーパーモデルたちに囲まれていた......私は背が低かったし、あの年ごろはどうしたってありのままの自分が居心地悪く思えるものでしょう」
15歳になったときゾーイはニューヨークで暮らしていた。母親とは離れていたし、父親は行ったりきたりだったから、過食症を隠すのは簡単だった──当時の恋人がそれに気づき、ゾーイの母親に話すまでは。ゾーイはセラピストに診てもらい、そのことは彼女の助けにはなったが、過食症を治してはくれなかった。
「ストレスを感じたり、不安になったりするたび、私はドカ食いをして嘔吐を繰り返してた。だけど、そのうち過食症でエネルギーを消耗しすぎてへとへとになった。食べたり吐いたりするだけじゃなく、それを隠すのに必要なエネルギーのせいでね。そうこうするうちに今度は胃酸の逆流で声が出なくなって、私はこう思ったの。『私は何をしているんだろう。こんなことはもうやめなければ』とね。それでそうしたってわけ」
回復後まもなく、ニューヨーク州立大学のコンサバトリー・オブ・シアター・アーツや、その前にはマンハッタンのルドルフ・シュタイナー校で学んだあと、彼女は2014年の映画『The RoadWithin』で拒食症の役にキャスティングされ、40㎏近くまで体重を落とさなくてはならなかった。「母は私がその役を、また体重を落とす口実にしていると思っていたし、いま考えるとあれは自分自身で認めていた以上に複雑な状況だったと思う。だけど、あのキャラクターを外からの視点で理解するのは興味深かった。そのおかげで完全に摂食障害から抜け出せたんだと思うわ」
そして2015年の大ヒット映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が彼女の出世作となった。しかし女優として大躍進を遂げたいまでも、これは完全に自らの実力で手に入れた成功なんだとはなかなか思えずにきたという。「演劇学校に入ったとき、私はいつもこれは自分のオーディションの出来がよかったのか、それともクラヴィッツの名前のおかげなのかわからなかった。
だけどいま、クラヴィッツという名前だから私を雇おうとする監督などいないんだとゆっくりと学んでいるところよ。この仕事を始めてから10年間は、自分自身を証明することが目的だった。だけどいまはようやく『私はこの役に値する』とか『私はほんとうに一生懸命がんばった』とか言える場所にいると思えるし、そういう言葉がすっと出るようになってきたわ」
エミー賞8冠の「ビッグ・リトル・ライズ」は、ゾーイのハリウッドやそれ以外の場所での地位を不動のものとするのに貢献した。オーストラリアの作家リアーン・モリアーティのベストセラーとなった小説が原作のこのドラマは、カリフォルニア州の静かな海辺の町モントレーが舞台となっており、一見パーフェクトな生活を送る裕福な女性たちが、自らのコミュニティやお互いの不穏な秘密を明るみに出していくさまが描かれている。このドラマで扱われるのは破綻した人間関係、家庭内暴力、レイプ、殺人といった重いテーマだ。
「女性として、私たちはみんななんらかの形で虐げられてきたと思う。それが肉体的なものにせよ、精神的なものであるにせよね。女性はみんな完璧であろう、見くびられないようにしようとたえず努力しているのよ」そうゾーイは言う。世界が「#MeToo」運動を受け入れたとき、同ドラマの最重要テーマである女性の連帯やエンパワーメントはとてもタイムリーだった。「あれが、あのタイミングで起こったのはほんとうに驚異的だった。私たち自身、あのドラマが多くの女性たちにあれほど大きな意味を持つとはわかっていなかったと思う。あの様子を目のあたりにできたのはすばらしい体験だったわ」。そしてシーズン2では、新キャストにメリル・ストリープが登場する。「そうなの、別にどうってことないけどね」ゾーイはわざととぼけて言う。「彼女と同じ部屋にいるっていうのが、私には信じられない状況なのよ」。脚本が彼女の役柄について深く掘り下げていくのに合わせ、登場シーンも増えるとうれしそうである。
次に、ゾーイはテレビ版「ハイ・フィデリティ」での主演が決まっている。これは1990年代にニック・ホーンビーが書いたレコードショップ店主についての人気小説で(2000年の映画版『ハイ・フィデリティ』には母リサ・ボネットが出演している)、彼女はこの作品のエグゼクティブプロデューサーでもある。さらに、彼女は脚本も執筆中であり、いつの日か監督もやってみたいと考えている。「いま私がほんとうに学んでいることは、コーヒーを手に自分がのんきに現場入りする前に、どの作品にもいかに多くの熱意や労力や時間が注がれているかってことなの」彼女は笑いながらそう教えてくれる。
昨年末に30歳になった彼女は、目下、思索的モードにある。「20代が終わるって大ごとよ。自分の年齢についてこんなに深く考えたのってこれが初めてだし。実際、そのことに影響を受けている自分に驚いたわ。鏡をのぞきこみ、自分の顔がどれだけ変化してきたかを見て、もしかしたら私は自分で認めている以上に虚栄心が強いんじゃないかと思ったら落ちこんだわ。そう、その場で一番若い人間でいるということにはそれなりの価値があったというか、私はそれになんらかの価値を見いだしていたらしく......それがある日気づいたら、一番の若手じゃなくなっていたのよ」
そうした思索の過程が──母からの励ましもあって──今年初めに行われた『ヴァニティ フェア』誌主催のアカデミー賞授賞式アフターパーティーに、あのティファニーの18金ゴールドメッシュブラを着ていくことを決意させたのだった。「私って怖いもの知らずなの。いいえ嘘よ、怖いものがないわけじゃない。その状態になるまでに多少は躊躇するわ」ゾーイはそう言う。「あのときはもちろん不安な気持ちがあったし。私のスタイリストのアンドリュー(・ムカマル)があれを取りだしたとき──それも片手で──私はこう思ったの。『あんなふうに片手に収まるようなものを着るなんて無理』とね」彼女はそう語る。どうやらムカマルが考えていたのは、あれをなにかに重ね着するということだったようなのだが、試着してみて、重ね着せず素肌に直接着るという決断をしたのはゾーイだったそうだ。
「私は母に自撮り写真を送り『そんなのを着るのはよしなさい』とかなんとか言われるだろうと思ってたの。だけど母はこう言ったわ。『そういう格好ができるのもあと数年なんだから、私ならいまするわ』とね。母にそう言われたから、私はあれを着たのよ」。私は彼女に、お父さんの意見もファッションの参考にすることはあるのかとたずねる。「このときはそうしなかったけど、父もあれは絶賛していたわ。あの格好の写真を父に送るってヤバいと思われるかもしれないけど、父はあれよりはるかにヤバくて、露出の多い服を散々着てきたから」
ゾーイが両親、とりわけ父のおかげと考えているのは、有名人の子としてめまぐるしい子ども時代を過ごしつつ、お金や名声は明日にも消えてなくなるかもしれないということをずっと忘れずにこられたことだ。「父も母もいつも私に言っていた。『これが我々ではない、こういったものが我々のアイデンティティではないんだ』とね。私はそう言い聞かせてもらったことにとても感謝しているわ」
ゾーイの友人であり「ビッグ・リトル・ライズ」の共演者でエグゼクティブプロデューサーでもあるリース・ウィザースプーンも同意する。「ゾーイはものすごく友達思いなの。絶えず私に連絡をくれるのよ。心から私の子どもたちのことを気にかけてくれて、いろいろな場面に対処する力になってくれるわ。私は有名人の子育てについてたくさん聞きたいことがあるんだけど、ほんとうに献身的で、愛情深い親たちがいれば、その子どもは立派に育ってくれるんだという輝かしい見本がゾーイなのよ」
ゾーイは父とも母とも親しい関係を保っている。「母とは四六時中、話をしているし、父ともよく話してるわ。それこそ毎日のように。父はフェイスタイムが大好きなの。私は父にマナーを教えようとしているところ──たとえば『ちょっと、パパ! 私の領域にずかずか入ってきちゃだめ。私には理想的な環境が必要なんだから!』というようにね」。ゾーイは子どもが欲しいと思っているけれど「いますぐにではない」と言い、母は20歳のときに自分を産んだのだと改めて口にする。想像できる? 私はそうたずねる。
「全然! 20歳のときの私は植物さえ育てられなかったもの。いまでも苦手で、手伝ってもらってる──それでも、こちらはあまり調子がよくないみたい」彼女は笑いながら、明らかに元気のない鉢入りのグリーンを手で示す。「赤ちゃんを育てるって、並大抵のことではないわ。ちゃんと世話しないと死んでしまうんだから」ゾーイはそう続ける。「子を持つというのは大変なことだし、妊婦になるというのも大変なことだわ。食料品の買い出しに行くなんていうのとはわけがちがう。一筋縄ではいかないし、万事に引き裂かれ、血も流れる……」
写真で見る彼女は畏怖の念を覚えるほどクールそのものだが、生身の彼女はやさしく、自然な茶目っ気があってとびきり面白い。「ゾーイはほんとうに私を笑わせてくれるの」とウィザースプーンもそう言う。「彼女はここぞというときに下品な冗談をつぶやいて、みんなの気持ちをほぐしてくれる。それから彼女は、1990年代の信じられないほどダサい髪型の私の写真をアップしては、私が死にそうになるのを面白がっているのよ。彼女は、このままじゃ済まないわよってことを肝に銘じるべきだわ」と冗談まじりに付け足す。
ちなみに、彼女の父親もこのあいだのエイプリルフールの仕返しを計画中であろうことはまちがいない。パリの彼の自宅の玄関ホールには大きなバスキアの絵が飾られていて、ゾーイはそれに傷をつけてしまったというドッキリを仕掛けてやったら面白いだろうと考えたのだ。「私は父に電話して、こう言ったの。『パパ、怒らないでくれる?』そうしたら父は『どうした?』って言って、私が『友達がここに来たんだけど、彼ったらジャケットを着ているときに足を滑らせて転んじゃって、そうしたらあのバスキアにごく小さな穴が開いちゃったみたいで。といっても、実際には目に見えないほど小さいんだけど……でも穴が開いちゃって……』みたいなことを言ったら、父はなんにも言わなくて」
ゾーイはそのときのことを思い出してにんまりする。「なんとも気まずい感じになって、私は父に『クソッたれ!』と叫んでもらいたかったのに、父はとにかく悲しそうでショックを受けてて『なんてことだ、ゾーイ、なんてことだ』と言ってるから、さすがに悪いことしたなって思ったわ。ほんとに」そこまで言うと彼女はしばらく黙りこみ、ちょっと考えてからまたさっきの話に戻った。「だから私はまだ親にはなれないわ。いまだにこんなことやっているんだもの……」
Text: Sarah Harris
Zoë Kravitz
1988年生まれのアメリカ人女優。ミュージシャンのレニー・クラヴィッツと女優のリサ・ボネットのあいだに生まれ、モデルや歌手としても活躍。映画『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』(2011)や『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)にも出演。ドラマ「ビッグ・リトル・ライズ」(2017~)でアカデミー賞受賞女優たちと共演し、高い評価も受けた。今年6月末には俳優カール・グルスマンとパリで挙式。