ロマコメの『恋のからさわぎ』(1999)でブレイクし、アイドル的人気からスタートしながら演技派として実力を発揮、『ブロークバック・マウンテン』(2005)で26歳の若さでアカデミー主演男優賞候補になったヒース・レジャー。2008年1月に急逝した彼が生前、完成させた最後の出演作が『ダークナイト』(2008)だ。バットマンの宿敵ジョーカーを演じて、第81回アカデミー賞助演男優賞を受賞した。本人亡き後の受賞は、『ネットワーク』(1976)のピーター・フィンチ以来のこと。そしてコミック原作のキャラクターを演じての受賞は、史上初の快挙だった。
ジョーカー役といえば、前任はハリウッドの大御所ジャック・ニコルソン。彼はティム・バートン監督の『バットマン』(1989)で演じた役を「ポップアートの作品」と自画自賛していた。プレッシャーも大きかったはずだが、ヒースは全く異なるアプローチで臨んだ。白塗りこそ同じだが、黒く塗りつぶした目の周りも真っ赤な口も滲んだ仕上がりは、さらに不気味。「ジョーカーは自分でメイクしているはず」とヒース自身でメイクしていたという。
スーパー・パワーは一切持たず、武器は狂気と悪意のみ。名前も背景も一切わからず、本人が語る出自は内容が毎回違うというトリッキーなもの。その後に続く作品で明らかにされる予定だったかもしれないが、多くの謎を残したまま、作品の公開を待たずにヒースは28歳の若さで不慮の死を遂げてしまった。
睡眠薬やインフルエンザ治療薬などの併用による急性薬物中毒だったが、ジョーカー役にのめり込み過ぎたのが原因という説も根強かった。これは後に遺族が「彼は演じるのを楽しんでいた」と否定した。バットマン役のクリスチャン・ベールを凌駕する渾身の怪演からも、それは一目瞭然だ。
Text: Yuki Tominaga
