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サプライズ受賞や名スピーチが続出! エミー賞のハイライトをD姐が総括。

第71回エミー賞が2003年以来、16年ぶりに司会者なしで9月22日(現地時間)に開催された。多くの人気セレブたちがプレゼンターとして登場し、受賞者たちが感動的なスピーチで拍手喝采を浴び、授賞式は華やかに幕を閉じた。LA在住のD姐が、受賞結果から見えてくるアメリカのテレビ界の“今”を詳報する。
コメディ部門脚本賞のプレゼンターとして登場したのは、人気ナイトショーのホストを務めるスティーブン・コルベアとジミー・キンメルという豪華な組み合わせ。Photo: Amy Sussman/WireImage

9月22日(現地時間)にロサンゼルスで開催された第71回エミー賞。今年は受賞も演出もサプライズいっぱいの斬新な授賞式になった。まず、昨年との最も大きな違いは司会者がいないこと。今年2月のアカデミー賞は司会に抜擢されていたケヴィン・ハートが、過去の暴言を問題視されて急遽降板し、代役を見つけられなかったために止むを得ず、司会なしで臨んだが、エミー賞の場合は当初から今年は司会者なしで開催すると発表されていた。その分、プレゼンターとして登場するセレブたちの出番が長くなり、それぞれが凝ったトークで楽しませてくれるという手法で観ている側を飽きさせなかったのは大成功。

なかでも、過去にアカデミー賞やエミー賞の司会を務めたジミー・キンメルとスティーブン・コルベアがプレゼンターとして登場した時には、受賞者の発表をAmazonのアレクサがしてしまうというオチに会場が爆笑。またコメディ俳優のトーマス・レオンが、受賞者に対して副音声的にブラック・ジョークの効いたコメントをするという試みもあった。

一番キワどかったジョークは、娘の大学入試不正問題で有罪判決を受けて2週間の禁固刑が言い渡された女優フェリシティ・ハフマンいじりだ。ハフマンは過去に「デスパレートな妻たち」でエミー賞を受賞しているが、エンディングでレオンは「最後にプロデューサーから刑務所で見ている主演女優賞受賞のあの人に特別なメッセージを言ってほしいと言われているんですが、早く2週間が過ぎるといいですね。どうぞ元気を出してください!」と辛口コメント。この旬なジョークに視聴者は、「面白い。今日イチのジョーク」「いくら何でもかわいそう」と賛否両論だった。

賞レースを制したのは?
Photo: Kevin Winter/Getty Images

さて気になる受賞の行方だが、ドラマ部門では大方の予想通り、最終回を迎えた大ヒットシリーズの「ゲーム・オブ・スローンズ」が有終の美を飾り、1週間前に発表のあったクリエイティブ・エミーの分も含め12部門で受賞し、トータル最多受賞を更新するなどの記録的受賞で幕を閉じた。“ゲースロ”はドラマ部門の作品賞の他にも、ピーター・ディンクレイジが4度目の助演男優賞を受賞し、こちらも助演男優部門の最多新記録を塗り替えた。

Phoro: FREDERIC J. BROWN/AFP/Getty Images

しかし、コメディ部門は大波乱。前年に、作品賞に輝いた「マーベラス・ミセス・マーゼル」、受賞常連だった「Veep/ヴィープ」を抑えて、作品・主演女優・監督・脚本の4部門を制したのはAmazonの「Fleabag フリーバッグ」だった。毒舌でゲスい女性主人公フリーバッグを演じ、脚本・プロデュースも手がけるフィービー・ウォラー=ブリッジは、第2シーズンにして初ノミネート&3冠というサプライズの大金星。

9部門ノミネートの政治コメディ「Veep/ヴィープ」は最終シーズンだった今年、まさかの受賞なしに終わった。また秀作揃いで混戦だったミニシリーズ部門も、本命と言われ“ゲースロ”に次ぐ11のノミネート数を稼いだ「ボクらを見る目」が主演男優賞のみの獲得で、Netflixはまたも三大部門作品賞ならず。あのチェルノブイリ原発事故の真実に迫ったドラマ「チェルノブイリ」が、作品賞を含む3部門を制した。

受賞スピーチにスタンディン・グオベーションの嵐。
ビリー・ポーターが着用したマイケル コース(MICHAEL KORS)のカスタムスーツには、13万個ものクリスタルビーズが施されていた。Photo: Amy Sussman/WireImage

何と言っても話題なのが、「POSE」のビリー・ポーターの主演男優賞受賞! 黒人俳優として、そしてゲイを公表している俳優として、初の受賞という歴史的な快挙となった。大きなアシメトリーのカウボーイハットとマイケル コース(MICHEAL KORS)のツーピースを着こなしたビリーは、興奮気味にスピーチで「(僕が受賞した)カテゴリーは愛! そうでしょ、みんな!」とキャラクターの口癖を捩りながら喜びをシャウト。さらに50歳のビリーは、「この日が来るまで長生きしていてよかった」と語り、小説家で戯曲家、黒人活動家でもあったジェームズ・ボールドウィンの言葉を引用しながら「私にもあなたにも私たちすべてに権利がある。真実を語ることをやめちゃダメ」とジェンダーや人種での平等を訴えて、スタンディング・オベーションを浴びた。

「ドーソンズ・クリーク」以来、約15年ぶりにテレビ界に復帰したミシェル・ウィリアムズ 。Photo: Kevin Winter/Getty Images

この日は他にもいくつかのスタンディング・オベーションを呼ぶスピーチがあったが、その一つがミニシリーズ部門で主演女優賞を受賞したミシェル・ウィリアムズだ。ハリウッド映画界でギャラの男女格差や#Metooが問題になっていた中で、2017年末に映画『ゲティ家の身代金』の再撮影が行われた際、マーク・ウォルバーグがミシェルより約2億円多いギャラを受け取っていたことが発覚し、物議を醸した。

これを受けてミシェルは受賞スピーチで「本作では女性が声を上げられる環境を作ってくださり、私がもっとダンスや歌のレッスンがしたいというリクエストにも応じてもらい、イーブンなギャラを受けることができて感謝しています。特に有色人種の女性は、白人男性に比べてギャラが低いという状況になっていますが、みなさん、そんな女優たちの声を聞き、彼女たちの要求に応え、信じてあげてください。そうすれば、いつかこうやって皆さんに感謝する日が来るかもしれないのですから」と語り、会場は大きな拍手に包まれた。

パトリシア・アークエットの妹で、トランスジェンダー女優のアレクシス・アークエットは2016年にAIDS(後天性免疫不全症候群)に関連する合併症で逝去している。Photo: Amy Sussman/WireImage

そしてミニシリーズ部門で主演と助演、両方のノミネートを受けていたパトリシア・アークエットは「The Act」で助演女優賞を受賞、スピーチで今は亡き妹の女優アレクシス・アークエットをトリビュートした。「私は妹のアレクシスが亡くなったこと、そしてトランスジェンダーが今でも迫害されていることを悲しく思います。アレクシス、私はあれから自分が死ぬまで毎日あなたのことを思い出します。どこにでも蔓延っている偏見の目を今こそ、なくしましょう」とトランスジェンダーに対する差別や偏見の撲滅を訴えた。

昨年のエミー賞には、元夫で映画監督のジャクソン・ダグラスとの結婚式で着たという、ウエディングドレスを纏っていたアレックス・ボースタイン。今年はケヴィン・ベネット(Kevin Bennett)によるパープルのガウンを着用した。Photo: Kevin Winter/Getty Images

さらに「マーベラス・ミセス・マーゼル」でコメディ部門の助演女優賞を2年連続受賞したアレックス・ボースタインは、「マッドTV」でブレイクしたコメディアン出身らしく、「去年受賞した時は、私がブラをせずに壇上に上がって非難をされたので、今年はまず謝りたいわ。今日はパンティを履いてないから」とジョークでスピーチをスタート。

「私の祖母はホロコーストの生存者だった。銃殺の処刑を待つ列に並んでいた祖母は、看守に『この列から外れたら、私はどうなるの?』と聞いたの。すると看守は、『私はあなたを撃つ気はないが、誰かが撃つだろう』と答えた。そして祖母は列を後にした。ーーそして私はここにいるんです。私の子供たちがいるんです。女性の皆さん、(勇気を持って)列から外れて。列から外れるのよ」と語って大喝采を浴びた。

また主なサプライズ受賞者はこうだ。「オザークへようこそ」のジェイソン・ベイトマンが主演男優賞は逃すも、監督賞を獲得、主演女優賞は「キリング・イブ」で本命のサンドラ・オーではなく対抗のジョディ・カマーが制した。助演女優賞は他の4人の“ゲースロ”女優を抑えて「オザークへようこそ」のジュリア・ガーナーが受賞。このように数多くのフレッシュな顔ぶれとなった。

過渡期を迎えるエミー賞の生中継。
キム・カーダシアンケンダル・ジェンナーが出演する「カーダシアン家のお騒がせライフ」は、シーズン17に突入した長寿番組だ。Photo: Amy Sussman/WireImage

プレゼンターでもキム・カーダシアンケンダル・ジェンナーが登場(ちょっと会場から失笑が起こっていたが)、BGMもクラシックからロックやポップに変更、「ビッグバン★セオリー ギークなボクらの恋愛法則」などの最終回を迎えた人気番組のトリビュートコーナーも設置するなど、さまざまな工夫が施された今年のエミー賞だったが、残念ながら視聴率は前年比30%ダウンという結果になってしまった。

これはそもそもネット配信サービスの台頭で良質なドラマが増えたものの、エミー賞の中継は地上波にも関わらず、ここ数年で地上波のノミネート作品が激減した影響があるだろう。ついに今年は主要カテゴリーにノミネートされた地上波作品は、たった「THIS IS US/ディス・イズ・アス」(NBC)だけという状態。さすがにアメリカのお茶の間の興味をかつてのように惹きつけるのは難しいと予想できたからこそ、冒頭で人気アニメ「シンプソンズ」の主人公ホーマーが出てきたり、カーダシアン姉妹をプレゼンターにしたり、ノミネートされていないけれど人気のあった作品の最終シーズンを紹介するなど、より”ポップ”な演出が行われたのだろう。

さらに作品賞の受賞結果を見ると、なんと全4作品がアメリカ製作の作品でもメインキャストの過半数がイギリス系キャスト(「ゲーム・オブ・スローンズ」、「フリーバッグ」、「チェルノブイリ」、「バンダースナッチ(ブラックミラー)」)だったという点も、アメリカのお茶の間との微妙なギャップを表していたのかもしれない。エミー賞に限らず、アカデミー賞も低視聴率に陥っている(昨年は過去最低視聴率を記録した)。オスカーの場合は司会者なしだった今年の授賞式が昨年を上回ったこともあって、エミー賞の司会なしにも良い効果をもたらすのではないかと期待されていたが、今後一層、授賞式中継のあり方、というものに見直しがされるのかもしれない。