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ブラピやホアキンも! 今年のゴールデン・グローブ賞を沸かせた受賞者たち、総まとめ。

2020年の賞レースのトップバッターとなった第77回ゴールデン・グローブ賞は、才能とユーモアにあふれる受賞者たちによって感動と笑いの渦に包まれた。そんな雰囲気を作り上げたのは、辛口ジョークを連発したホストの功績だろう。映画界のスターが集結した華やかな一夜を、ハリウッド在住のD姐が振り返る。
オスカーへの期待が高まる、賞レースの開幕。
ブラッド・ピットの自虐ジョークを元妻ジェニファー・アニストンは笑って聞いていたそうだ。Photo: Paul Drinkwater/NBCUniversal Media, LLC via Getty Images

初っ端からネガティブな話をして申し訳ないが、アカデミー賞の視聴率は年々下降傾向にあって、レディー・ガガとブラッドリー・クーパーの超接近デュエットがお茶の間を騒然とさせた昨年こそ前年からやや上昇したが、これは5年連続の下降で2018年に史上最低視聴率を叩き出したおかげでもあった。

理由はテレビ離れ、ノミネート作品と人気作品とのギャップ、数々のスキャンダル・人種差別論争、また最近は年明けから毎週のように賞レース授賞式がテレビ中継されるようになってオスカーの頃には新鮮味がなくなってしまう……と想定される理由はさまざま考えられる。だが、前哨戦と言われて久しいゴールデン・グローブ賞は今年、その長い賞レースシーズンの幕開けにふさわしい豪華な顔ぶれが揃い、「今年のアカデミー賞は面白そうだ!」と言うお披露目の役割をしっかり果たした。

何しろ、ブラッド・ピットが助演男優賞(映画部門)を受賞! 過去3度俳優としてアカデミー賞にノミネートされているブラピが、念願のオスカー俳優部門受賞に一歩近付いた!と思わせてくれた。トム・ハンクス、アンソニー・ホプキンス、アル・パチーノ、ジョー・ペシという誰が受賞してもおかしくない大御所を抑えての受賞は大きい。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のスタッフ・キャスト陣。Photo: Kevin Winter/Getty Images

クエンティン・タランティーノ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』での共演者であるレオナルド・ディカプリオとともにひときわ目を引くオーラを放っていただけではなく、受賞スピーチでは「LDC(レオ)に感謝しなきゃ。『レヴェナント:蘇えりし者』(でレオがオスカーを受賞する)前までは、共演者が受賞スピーチで必ず彼に感謝しているのを見てきた。なぜだかわかるよ。彼は大スターだしジェントルマン、彼がいなかったら僕は受賞していない。どうもありがとう」とコメント。

さらにレオのコメントの最後には「俺ならライフボートを差し出すね」とタイタニック・ジョークで締め、「母を今日は同伴したかったけど、連れてこられなかった。僕は隣に女性がいると、その人と交際してるって必ず噂になるから、母親っていうのは気まず過ぎるし」とジョークも端々に交え、スベり知らずで明るく軽いノリに「ニュー・ブラピ、最高」とカッコいいだけじゃないブラピが大絶賛された。

レオナルド・ディカプリオも標的に。キレッキレの毒舌司会。
ビールのグラスを手にオープニングに登場したリッキー・ジャーヴェイス。辛辣で容赦ないモノローグはSNSでも絶賛の嵐だった。Photo: Paul Drinkwater/NBCUniversal Media, LLC via Getty Images

こんな自虐ネタでもセーフにした雰囲気を作ったのは、他でもない過去に4度の司会を務めた英コメディアン・俳優のリッキー・ジャーヴェイス。今年のオープニングトークは、ハリウッドを一刀両断する歯に衣着せぬ毒舌で大好評だった。事前に「これが最後の司会」と言っていたのは、「もうやりたくない」ではなくて「もうオファーが2度とこないのを覚悟の毒舌」だったと思う切れ味だった。

「ケヴィン・ハートは昨年、過去のツイート暴言でオスカー司会をクビになったけど、(ツイッターでしょっちゅう炎上している自分がここにいるのは)どういうこと? (GG賞主催の)ハリウッド外国語記者クラブの皆さんは英語がやっとわかる人ばかりのようで、ツイッターも知らないようだ。もちろん司会のオファーもファックスでもらいました」といきなり主催者のディスりからスタート。

さらには大学入試不正事件で有罪となり11日間刑務所暮らしをしたフェリシティ・ハフマン、アメリカで大コケした映画『キャッツ』出演者のジェームズ・コーデンやジュディ・デンチをいじり、そして「『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はおよそ3時間、長い映画だった。長すぎてプレミアで映画を観終わった時には、レオの彼女は年寄りになってしまったとレオはお払い箱にしたようで、これには(未成年女性との性的関係疑惑の)アンドリュー王子でさえ『おいおい』って突っ込んでたらしい」とのギャグにレオも爆笑。

「アップルやディズニー、アマゾン、みんなストリーミング配信を始めたけど、あんたたち節操なく仕事にありつこうとエージェントに電話してるだろ。ISISがストリーミング配信始めたって、エージェントに電話して仕事を取ってこさせようとするに違いない」「受賞スピーチで政治的なコメントなんてするなよ。あんたたちはリアルな世界なんか知らない、そういうコメントをできる資格はないんだ。この会場にいるほとんどの人間がグレタさん以上に学校に行ってないんだから」「あんたたちはハーヴェイ・ワインスタインのことを見て見ないふりしていたんだ!」「……ネタバレですが、主人公は最後には自殺しません。エプステインと同じです」など痛烈。

ノータイでビール片手のこの破天荒な司会ぶり大反響だったのにもかかわらず、1月11日(現地時間)に、来年はティナ・フェイとエイミー・ポーラーの女性2人による司会と発表された。皮肉なことに同日業界誌が発表したSNSランキングで、リッキーは好きな俳優とコメディアン部門の1位を独占というのに。

ホアキン・フェニックス、受賞よりもヴィーガン食のディナーに歓喜?
Fワード連発のスピーチでも注目を集めたホアキンは1月10日(現地時間)、ワシントンで気候変動に関するデモ活動中に逮捕された。Photo: Paul Drinkwater/NBCUniversal Media, LLC via Getty Images

やはりお騒がせNo.1だったのは、最優秀主演男優賞(映画ドラマ部門)を下馬評通り受賞した『ジョーカー』のホアキン・フェニックス。今までにもマスコミとのやりとりで退席したり、「賞レースなんて2度と巻き込まれたくない」「アカデミー賞はクソ」と行った発言(それでも数カ月後に『マスター』でノミネートされた)や全く心ここに在らずの記者会見をしたりとお騒がせの帝王だったホアキンは、受賞スピーチでもFワード連発の放送事故状態。

受賞するやトロフィーをフロアにおき、冒頭、ハリウッド外国語記者クラブに対して受賞のお礼ではなく、提供されるディナーをヴィーガン・ベジタリアン食のみにしたことに関して「みなさん、農産物と地球温暖化の関係について承認し、認知してくれてありがとう。この(ベジタリアン食にした)決断は勇気ある行動で、とても力強いメッセージだ」と感謝した。

続いて「他のノミニーに言いたいんだけど、俺たちの間にファッキン競争なんてないのは分かりきってること。(映画賞なんて)テレビの広告費稼ぎのためなんだ。でも一緒にノミネートされた一人一人が素晴らしくて、心から光栄に思っている。個人的に話した人もいれば、同じエージェントなのに、いまだにあまり知らない人もいる、こんにちはクリスチャン(・ベール)、今日は来ていないけど」と続く。

レッドカーペットでは、写真撮影中のルーニーをホアキンが見守る微笑ましいシーンも。Photo: Jon Kopaloff/Getty Images

監督のトッド・フィリップスに対しては「トッド、君は素晴らしい友人でコラボレーターだ。この映画に出演するよう説得し勇気づけてくれた。それに俺のような超厄介な男を辛抱強く見守ってくれた」というと、婚約者のルーニー・マーラに向かって「ルーニー……アイ・ラ…」と言いかけると、話はまたアクティビストとしてのスピーチに。

「世間はそう思っていないみたいだが、俺は荒波を立てるのが好きじゃない。でも荒波はすでに立ってしまっている」と前置きした上でオーストラリア支援の呼びかけとともに、「近距離のプライベートジェットなんてやめてほしい」など地球温暖化への配慮を語った。ほぼほぼ確定と言われているホアキンのオスカー受賞の暁には、ハリウッドの人種差別に抗議し受賞拒否し、代理でネイティブ・アメリカンの女性が受賞スピーチしたマーロン・ブランド並の事件を起こしてくれるのか、今からヒヤヒヤワクワクする。

受賞スピーチでホアキンが述べていたように、今年のゴールデン・グローブ賞で提供されたディナーはプラント・ベースドと最近では呼ばれるようになったヴィーガン食で、これを働きかけたのが、そもそもホアキンだったとか。

ビヨンセとジェイ・Zは、授賞式に約1時間遅れで到着したことでも話題に。Photo: HFPA/PictureLux/AFLO

また『ライオン・キング』で主題歌賞にノミネートされていたビヨンセは、夫ジェイ・Zと来場していたが、提供されているシャンパンをよそにジェイは自前ブランドのアルマン・ド・ブリニャックのボトルをわざわざ持ち込みしたと話題に。これはどんな味か飲んでみたいとセレブにも人気で、ビヨンセとジェイは後日リース・ウェザースプーンにも同商品をプレゼントした。

まだまだある! 記憶に刻まれるスピーチの数々。
ケイト・ブランシェットが授賞式で着用したドレスは慈善オークションに出品される。Photo: Paul Drinkwater/NBCUniversal Media, LLC via Getty Images

今年の功労賞を受賞したトム・ハンクスエレン・デジェネレス、それぞれへのプレゼンター(シャリーズ・セロン、ケイト・マッキノン)によるスピーチは感動を呼んだが、オーストラリア山火事へのコメントにも心打たれるものがあった。

ラッセル・クロウは山火事のために欠席したが、受賞スピーチで「山火事は地球温暖化が原因だ。今すぐ科学的な対応を」との手紙が読まれ、プレゼンターとして出席したケイト・ブランシェットは「山火事と戦っているボランティアの消防隊員に感謝したい」とコメントした。

そして会場入りする直前に山火事のことを聞いたニコール・キッドマンは、式がスタートして15分ほどで泣きながら退室してしまったほどショックが大きく、のちに夫キース・アーバンとともに支援の呼びかけをし、自らも50万ドル(約5400万円)の寄付をすることを発表した。また『オーシャンズ8』のオークワフィナが、『フェアウェル』でアジア系女優として初めて映画部門での最優秀主演女優賞を受賞したのも感慨深かった。

第一次世界大戦中、ある重要なミッションを与えられた若きイギリス人兵士2人の一日を壮大なスケールと深いドラマで描く『1917 命をかけた伝令』。サム・メンデスは監督デビュー作『アメリカン・ビューティー』(99)以来の受賞となった。Photo: Paul Drinkwater/NBCUniversal Media, LLC via Getty Images

最優秀作品賞はコメディ・ミュージカル部門が『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、ドラマ部門が『1917 命をかけた伝令』(サム・メンデスは監督賞も)の受賞となった。『1917 命をかけた伝令』はLAとNYのみの限定公開で、1月17日からの全国公開を前にしての受賞で、ほとんどの観客がまだ見ていない状況での受賞だったために、若干盛り上がりに欠けたが、果たしてこれから映画賞レースにどんな伝説が生まれるのか、今年は特に面白くなりそうだ。