CELEBRITY / VOICE

「私にとっての幸せは、愛する人がいること」──デビューから25年、2度目となるカバーを飾った冨永愛が輝き続ける理由とは

日本人離れした長い手足と、圧倒的なオーラ。スーパーモデルとして、俳優として、多くの人を魅了する唯一無二の存在──冨永愛。今年でデビュー25周年を迎える彼女の輝きは、衰えることを知らない。23年ぶりにカバーに登場した彼女の、柔らかな素顔を写す。

ドレス ¥462,000/BALENCIAGA(バレンシアガ クライアントサービス)

冨永愛を初めて見たときの衝撃が、今でも脳裏に焼きついている。忘れもしない、ヴォーグ ジャパンのカバーだ。彫刻の如くドラマティックな陰影を描くチークボーン、漆器のようにノーブルな艶を放つ肌、カッパーのアイシャドウを重ねた涼しげな目もと、そしてスパンコールが輝くプラダのドレスから伸びる長い手足。コケイジャンのモデルがランウェイの多くを占めていた時代、彼女のセンセーショナルな出で立ちがファッション業界にどれほどの影響を与えたかは想像に難くない。このカバーをきっかけに、ヴォーグ ジャパンではこれまで幾度となく冨永愛を撮影し、取材してきた。デビュー25周年を迎えた彼女の現在に至るまでの軌跡を、過去のインタビューとともに辿る。

More Stories: 海外、国内セレブのインタビューや、VOGUEエディターのおすすめアイテム、注目のトレンドなどを読むなら、メールマガジンの登録がおすすめ

SDGsに関心を持ち、サステナブルな 取り組みに力を入れている冨永さん。彼女が横たわるテーブルは、廃棄衣類や廃棄レザーの繊維をリサイクルして作った素材「PANECO ®」を採用し、インテリアデザイナーの五十嵐久枝さんがデザインしたもの。ロエベの流れるように美しい純白のドレスが、彼女の持つ純真無垢な一面を引き立てる。ドレス ¥1,249,600(参考価格) シューズ ¥203,500/ともにLOEWE (ロエベ ジャパン クライアントサービス)

まず前述の通り、初めてカバーに登場した2000年12月号。このときまだ高校に通っていた愛は18歳。レイモンド・メイヤーがとらえた、かの有名な制服姿のポートレートの横には「はばたく未来のトップモデル」という見出しが添えられている。インタビューでは「オリエンタルの枠を超えて、活躍できるようになりたい」と語った。その言葉通り、高校卒業後2002年に初めて挑んだNYコレクションでは、見事ラルフ ローレンのショーに抜擢。2004年春夏シーズンには50のブランドのショーに起用され、スーパーモデルとして揺るぎない地位を築き上げた。

今回の撮影に際して、当時の自分にどんな言葉をかけるか聞くと、「今を生きることも大切だけど、もう少しゆっくり歩いてもいいと伝えたい」と語る。しかし実際には、歩を緩めるどころか、休みなく世界中を飛び回り、タレント業にも進出した。華々しい生活を送る一方で、葛藤も蓄積した。その結果、2014年には家庭での時間を優先するために、一時モデル業を休止することを発表する。当時を振り返り「大切なことを見落としていた」と語る。

3年の“スリープ”期間を経て、再びファッションの世界に返り咲いたのが2017年。再起動にあたり、ヴォーグ ジャパンの誌面に登場。息子である章胤との関係性や、休業することで見えてきた母親としての新たな自分の側面について心の内を明かし、さらにはモデルとしての新たな決意について語った。モデルとしてどこまで現役でいられるか、そしてそのキャリアの先をいかにして自ら開拓し、ロールモデルとなるか。有言実行とはこのことか。このインタビューから3年後の2020年には約10年ぶりにパリのランウェイに復帰した。

しなやかで完璧なプロポーションは、ストイックな努力の賜物。自宅に設けたトレーニングスペースでバランスボールやダンベルを使い、ボディを磨き続ける彼女の言葉や眼差しには揺るぎない信念と説得力が宿る。光を反射するスパンコールで覆われたミュウミュウのセットアップが、華やかにボディをハイライトする。トップ ¥968,000 中に着たブラ(参考色) ¥127,600 スカート ¥858,000 重ねてはいたベージュのショーツ(参考色) ¥111,100 ホワイトのショーツ ¥59,400(すべて予定価格)/すべてMIU MIU(ミュウミュウ クライアントサービス)

彼女の登場以降、アジア系モデルのランウェイシーンでの躍進が目覚ましい。そして彼ら、彼女たちは口を揃えて言う。冨永愛こそがパイオニアであり、彼女が切り拓いた道があったからこそ自分たちが世界の舞台で戦えると。 そのことを伝えると「私が切り拓いたのかどうかは知り得ませんが、多くの日本人モデルが海外で活躍する姿を見るのはうれしいです」と控えめな回答が返ってきた。

人種や体型、ジェンダーなど、より多様性が求められる一方で、ソーシャルメディアで影響力を持つモデル、そして著名な両親を持つ二世モデルが話題を集めるなど、大きく様変わりする現在のランウェイシーン。それでもなお、冨永愛の軸がぶれることはない。「いつの時代もモデルが生き残ることは至難の業でした。どうしたら生き残れるか、私には分かりません。それは、私自身常に自分に問いかけていることでもあるので」。

この言葉に込められたのは、モデルとしての矜恃か、内に秘めたるさらなる向上心か、はたまた自身と同じキャリアを進むことを決断した我が子への激励か。ヴォーグ ジャパン2022年10月号では、息子の章胤と親子で誌面に登場。自身が過酷な経験を乗り越えてきたからこその複雑な心境もあると語るが、二人で並んで和やかに写真に写る表情からは、紛れもない母親としての誇りが見て取れる。

舞台裏ではいつも笑顔で気さくな彼女だが、一度カメラの前に立つと一変、一瞬にして人を惹きつけるそのオーラは圧巻だ。今年、デビュー25周年という大きな節目を迎える彼女。柔らかくも刺激的な蛍光イエローが眩しい、バレンシアガのドレスをさらりと着こなし、15年ほど前に自身のサイズにぴったりだと購入した、お気に入りのフィン・ユールの椅子の上でリラックスした表情を浮かべる。ドレス ¥462,000/BALENCIAGA(バレンシアガ クライアントサービス)

モデル、母親、そして最近では俳優としても好調を極め、ちょうど先月最終回を迎えたNHKドラマ「大奥」では、徳川吉宗役を演じ、圧倒的な存在感を見せつけた。活躍の幅を広げながらも、パブリックフィギュアとしての重責はさほど感じていないという。「人間誰しも、内面に多様な側面を持っている。私にとっては、世間が求める冨永愛というイメージもその一部。身近な人が自分のことを理解してくれる、それだけで十分」。

カバーストーリーでは、自宅で愛用している家具をプロップとして使用した。1ルック目に着用したのは、アンスリウムの花を模した装飾をあしらった、ロエベのルック。脚を組み替える、指を顔に添わせる。無駄のない一つ一つの動作から、長年築き上げてきた経験と自信が滲み出る。 改めて23年前のカバーと見比べると、しなやかな体つきに、より健康的な筋肉がついたように見える。それよりも大きな変化は、その眼差しだ。真っすぐカメラのレンズを見つめるその目に、ピンと糸を張ったような緊張感を漂わせつつも、同時に包み込むような柔和さを醸し出す眼差し。

23年ぶりに表紙を飾ることとなった今回、終始リラックスした様子で撮影に臨んだ。母となり、一人の女性としてその魅力は厚みと深みを増していく一方だ。ディテールに焦点を当てた独創的なルイ・ヴィトンのルックが、 彼女のナチュラルな美しさと共鳴し、心地の良いハーモニーを奏でる。 トップ ¥2,238,500 パンツ ¥280,500 シューズ ¥271,700/すべてLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン クライアントサービス)

「デビューした頃から共に歩んできたヴォーグ ジャパンの表紙をまた飾ることができて感激しています」と話す。今回の撮影に合わせて、彼女のソーシャルメディアでフォロワーから質問を募った。誌面では一部抜粋して掲載するが、中でも印象的だった回答をご紹介しよう。「愛さんにとっての幸せとは」という質問だ。返ってきたのは、一言。「自分が愛する人がいること」。

愛する息子の勇姿を見守りながら、自らも常に高みを目指し走り続けるトップランナー。その勇姿を、これからもヴォーグ ジャパンは追っていきたいと思う。

Talent: Ai Tominaga Styling: Tomoko Kojima Hair: Asashi at Ota Office Makeup and Manicure: Yuka Washizu at Beauty Direction Set design: Haruka Kogure Styling assistant: Yuzuka Tsuji Interview text: Shunsuke Okabe Caption Text: Masayo Ugawa