「本作では、人間のダークな部分がしっかりと描かれている」
――ようこそ日本へ。『トレインスポッティング』以来、ずっと待っていました。
ありがとう。僕も本当に嬉しいよ。みんなに言っているのだけど、日本には仕事のタイミングが合わなくてずっと来られなかったんだ。「日本嫌いなのでは?」なんて噂もあるみたいだけど、来たことがない国をどうやって嫌うことができると思う?(笑) 実は、僕はボブソンのデニムやウィスキー、車、それから英語学校まで、日本のTVコマーシャルの仕事はこれまでにもたくさんしているんだ。でも、どれも海外での撮影だったからタイミングがなくて、今こうして来日できて光栄だよ。
――あなたがプーさんとその仲間たちをインタビューするというチャーミングな動画を観ました。その中で「(役を演じるにあたり)キャラクターのモチベーションに焦点を合わせるのは難しいけど、君はどうだい?」とティガーに質問していますが、あなた自身はクリストファー・ロビンを演じるにあたって難しいことはありましたか?
あのインタビューの質問は僕が書いたわけじゃないから、自分だったら聞かないようなことが書かれていたんだ(笑)。僕自身は、キャラクターのモチベーションなんて考えたことないし、「役の気持ちに焦点を合わせる」なんて意味不明だよね(笑)。ただ、クリストファー・ロビンを演じるにあたっては、脚本を読んだときから自分が彼をどう演じたいかがはっきりと見えていたので、なんの問題もなかった。時には、役に惹かれていながらも、どう演じるべきか分からなかったり、演じながら模索し続けることもある。でも、今回はそういうことはまったくなかった。
それから、以前『ステイ』(05)で一緒に仕事をして以来の友人であるマーク・フォスターが監督というのも心強かった。彼は人々の想像の何倍も上をいく壮大なアイデアの持ち主。「ディズニーによる、実写版くまのプーさん」と聞いて、こんな作品に仕上がっているとイメージする人は少ないと思うよ。人間のダークな部分がしっかりと描かれているし、あまりに美しい風景はアートとしか言いようがないね。本当に素晴らしい作品に仕上がっていると実感してるんだ。
――では、共演相手がぬいぐるみであることに対して、まったく心配はなかったんですね。
『スター・ウォーズ』シリーズで、たっぷりと経験済みだったので、まったくなかったよ。まあ、あちらはぬいぐるみではないけど(笑)。人間以外のものや見えない相手に対して演技をするというのは特殊技術みたいなもので、僕はこれまでにかなりの訓練を積んでいるから心配も苦労もなかったかな。それからマーク(・フォスター)が演劇学校を卒業したての若い俳優たちをプーと仲間たちの役にキャストしてくれて、彼らがぬいぐるみを動かしたりしながら演技をしてくれたおかげで、とても自然に演じることができた。
ーーA・A・ミルンが生み出した「クマのプーさん」はあなたにとっても身近な存在でしたか?
もちろん子どもの頃読んでもらっていたし、本をすごく大切にしていたことも覚えている。それに、僕も子どもたちに読んであげていたからね。あと、プーさんではなかったけど、やっぱり僕自身もくまのぬいぐるみを持っていたんだ。関節が変な動きをするぬいぐるみだったんだけど、今作で長い時間プーさんと一緒に時間を過ごしたことで、あの古いくまの記憶がよみがえってきたよ。
――クリストファー・ロビンは家族のために一生懸命働きますが、皮肉なことにそれが家族との距離を広げることになる──。日本人は勤勉なので、身につまされる人が多いと思います。大人にこそ観てほしい作品だと思いました。
それは嬉しいね。実は、僕も今作が大好きすぎて、今まで出演してきた作品の中でも一番多く観ているんだ。まず、LAのプレミアで大人だらけの観客の中で観たのが最初。次に、16歳の次女と一緒にNYのプレミアで観たんだけれど、そこでは子どもももちろんいたけれど、どちらかというと大人の方が多かった。そのあと、下の娘たちとLAの劇場に行ってもう一度観たときは、昼間の上映だったから子どもだらけだった。色々な場所と環境の中で観たわけだけれど、年齢を問わずみんなすごく楽しんでくれていた。
なによりも面白かったのが、子どもたちが決まってイーヨーが話すたびにゲラゲラ笑うんだよ。実際に下の子どもたちは一度しか観てないのに、ずっとイーヨーの台詞を真似して遊んでいる。それだけ年代に関係なく響く映画に仕上がっているというのはとても嬉しいね。
「ずっとがむしゃらに働いてきたけど、最近はふと何もしないでいたいと思うことが増えたんだ」
――大人になると、子どものころに夢見ていたこととは違う空想をしたりしますが、あなたのようにすべてを手に入れた人は、どのような空想、あるいは妄想をするのですか?
仕事でも家庭のことでも、いつも妄想するのは幸せについて。自分がこうして好きな仕事をして生活できているのはとてもラッキーだと自覚しているけど、それでも常に「今以上」、「もっと」を求めてしまう。でも、「もっと」と言っても「もっと仕事をしたい」のではなく、「本当に自分が好きな仕事、気持ちをこめてできる仕事だけをしたい」ということ。それはつまり、「あまり情熱が傾けられない仕事は減らしたい」ということなんだけど。若いころからずっとがむしゃらに働いてきたけど、最近はふと何もしないでいたいと思うことが増えたんだ。
――本作でもプーが言っていますもんね。
「なにもしないことが、往々にして一番良い結果をもたらす(Doing Nothing Often Leads to the Very Best of Something.)」ってね。その通りだよ!
――最後に、初来日の感想を教えてください。
東京にはまだ2泊しかしていないけど、みんなすごく丁寧で親切だ。最高に美味しい食事もできたしね。わずかだけど街も歩いたりして、すでに大好きになっているよ。もっと日本を知るためにまた戻って来たいと思っている。そして、いつか日本列島をバイクで縦断してみたいね。
――その様子はぜひドキュメンタリーにして映像に記録してください!
分かった、考えておくよ(笑)。日本製のバイクで日本を縦断する……。考えるだけでもわくわくするね。
『プーと大人になった僕』 9月14日(金)全国ロードショー 監督/マーク・フォスター 出演/ユアン・マクレガー、ヘイリー・アトウェル、ジム・カミングス(声の出演) http://disney.jp/Pooh-Boku
Text: Rieko Shibazaki Editor: Yukiko Kaigo

