リリ・ラインハートの人生も楽ではない。オハイオ出身の23歳は、世界的に大ヒットしているティーン向けドラマ「リバーデイル」(2017年~)のベティ・クーパー役でスーパースターとなり、大勢の熱狂的なファンと240万人を超えるインスタグラムのフォロワーを獲得した。しかも、ここ3年で彼女はさらに注目を浴びる存在になっている。
2020年、新型コロナウイルスの影響で「リバーデイル」の制作が休止され、ラインハートと共演者コール・スプラウスの恋も終わるのではないかと噂された。だが彼女はそんな声を意に介さず、インスタライブで不安障害を打ち明け、ブラック・ライヴズ・マター運動への支援を表明し、役者としても制作者としても、精力的に活動している。
最新作であるリチャード・タンネ監督の恋愛映画『ケミカル・ハーツ』で、彼女はエグゼクティブ・プロデューサーを務めつつ、ヘンリー(オースティン・エイブラムス)とともに学校新聞の編集を任されたミステリアスな転校生グレースを演じている。二人は徐々に惹かれ合うが、ヘンリーはグレースが深く暗い秘密を抱え、悲しみと戦っていることを知る。
評論家や観客の期待をいい意味で裏切り続けるラインハートが、昨年出演したローリーン・スカファリア監督のエネルギッシュなクライムエンターテインメント『ハスラーズ』(2019)とは対照的な作品に関わったのは、意図的な選択によるものだ。さらにラインハートは、愛と喪失、名声についての思いを心揺さぶる言葉で表現した初の詩集『Swimming Lessons(原題)』の出版を9月に控えてもいる。
8月21日にAmazonプライムでリリースされた『ケミカル・ハーツ』の撮影秘話や自身の詩集について話を聞いた。
──『ケミカル・ハーツ』では初めてエグゼクティブ・プロデューサーを務めましたね。
『リバーデイル』撮影中に『ケミカル・ハーツ』の監督、リチャード・タンネと朝食をとりながら、企画について話し合ったんです。よくあるティーン・ムービーとは違う地に足が着いたスタンスで、10代の恋の物語を伝えたいという点で意見が一致しました。リチャードが脚本を書き、私もセリフに少し貢献したんです。ヘンリー役のオースティンはオーディションで決まったのだけれど、彼はとてもいい俳優で、実は8年前からの知り合い。私たちが15歳の時に、『キングス・オブ・サマー』(2013)という映画で共演して以来、彼とは何かと縁があるんです。
──グレースという役のどこに惹かれましたか?
(「リバーデイル」の)ベティ・クーパーのキャラクターからなるべく離れたかったんです。1年のうち9カ月をベティとして生きるのは素晴らしい経験ですが、それ以外の時間は違うことをやりたいから。自分のキャリアは一生続いてほしいと思っているので、新しいことをやる時が来たと感じました。『ハスラーズ』の時もそうでしたが、今回は主演レベルの役を演じるということが私にとって重要でした。グレースを演じるには、繊細なバランスが必要です。彼女は傷つき深く悲しんでいるけれど、内に輝きを秘めているからこそ、ヘンリーはグレースに惹かれる。役に入り込むプロセスはとても楽しかった。毎日、撮影現場ではすごく悲しい映画を観たり、切ない詩を読んだりしていました(笑)。
──準備のために参考になった映画や本はありましたか?
ギャスパー・ノエの『LOVE』(2015)、『少年は残酷な弓を射る』(2011)、『アデル、ブルーは熱い色』(2013)、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017)、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)を観ました。読んだ本は、『The Art of Losing: Poems of Grief and Healing(原題)』という詩集です。
──「リバーデイル」のファンは、あなたの見せる意外性に驚くと思いますか?
女優として見てほしいと思っています。映画には情熱を持っているし、この作品は私にとって特別なものだから、世界に届けるのが楽しみな反面、緊張もしています。気に入ってくれたら嬉しいです。
──これからも映画のプロデュースをする予定ですか?
すでに来年Netflixで配信予定の映画を制作中で、主演も務めることになっています。プロデューサーの仕事はとっても楽しい! 私はコントロールしたいタイプなんです。コントロールフリークというわけではないけれど、私の意見の価値を認め、耳を傾けてほしい。自信はあります。『ケミカル・ハーツ』では貢献できることが多かったし、すべての面で関わらせてもらいました。脚本からキャスティング、そして撮影後にはカットシーンに対して意見を言い、予告編やポスターの制作にも携わりました。出演した他の映画を振り返っておもしろいのは、この業界が大好きだから、いつもあらゆる面で制作に関わろうとしてきたことです。だから今は最高! もっとやりたい!って感じています。
──初の詩集『Swimming Lessons』について教えてください。
自分の書いたものを発表するのは、私にとっては演技よりもずっと無防備な状態になることです。深読みして推測したり、事実なのでは? と憶測されたくなかったので、本の冒頭に「詩には現実にあったことではない創作も含まれる」という注意書きを加えたんです。私の本を読んで、私の恋愛事情について探ろうとする人もいると思うので、その点は気を配りました。ファンの中には私のプライベートに少し執着しすぎる人もいるので、深読みされるのは仕方ありませんが、読者が共感してくれることを願っています。
──書き始めたのはいつですか?
4年前に書いた詩もあります。作品の半分は、本の出版を企画し始めた頃にはもう出来ていて、それから編集者と一緒に仕上げました。それ以来かなりの量を書いていて、もう1冊出版できるくらい。もし『Swimming Lessons』が好評なら、もっとページ数の多い2冊目が出版されるかもしれません。この仕事が将来的にどうなっていくか、すごく楽しみなんです。自分が詩人やプロデューサーになるとは思ってもみなかったので、自分の肩書を紹介するのも不思議な気分です。もしかしたらインポスター症候群のせいかもしれないけれど、波乱万丈だったのは事実なので。
──詩集を読んだ人に、救いを感じてほしいと思いますか?
まさにそのために出版するとも言えます。詩は誰にも見せずにいることもできたけれど、それじゃ意味がないと思いました。もし私の書いたものを読んで、誰かが少しでも孤独感から救われるのなら、それほど嬉しいことはありません。心の痛みや悲しみ、人には見せたくないと思うような感情について書いているので、この詩集を手に取ることで、セラピー効果があることを願っています。
──自粛期間中にクリエーションに対する意欲は増しましたか?
ロックダウン中は何に対してもやる気を感じられなかったけれど、つくることが発散にもなりました。昨夜は書き物をしていて、暇だったのでインスタライブで詩を少し朗読したんです。パンデミックになったばかりの頃は、自己啓発本をたくさん読みました。自分を見つめるための時間を有効に使おうと思って。
──ロックダウン中の不安について公言されていますが、どのように乗り越えたのですか?
このパンデミックで不安を感じなかった人はいないと思います。私は不安を感じやすいタイプなので、ここ数カ月はとてもつらかった。でも、自分の心の傷やトラウマと向き合うことにしたんです。毎週セラピーを受け、親しい友人と対話したりしました。孤独感に苛まれ、仕事がないことで重度の不安症やうつを患ったこともあります。みんなにとって大変な時だし、まだ模索中の人も大勢いると思います。私はものを書いたり犬と散歩したり、エリプティカルマシンで筋トレしたり、あと自分のために料理するなど、できる限りのことをしています。
──この自粛期間が終わったら、何をしたいですか?
ブラック・ライヴズ・マター運動や、今アメリカで起こっていることが、自然消滅しないことを願っています。変わらなければいけないから、私たちは力を尽くして戦っています。ブレオナ・テイラー(を撃った警察官)はまだ逮捕されていません。この運動の支援を続け、警察官に殺された罪のない人たちのことをもっと多くの人に知ってもらう必要を感じているんです。これを機に、もっと改革が起こればいいと願っています。警察につぎ込まれている税金はおかしい。コミュニティに使われるべきです。いろいろと勉強し、学び、自分自身の白人としての特権についても責任を持とうと努力しています。
Text: Radhika Seth