金髪の女性ヴォーカリストが男性メンバーを従えてニューヨークのパンクシーンから登場し、70~80年代に人気を博したブロンディ。バンドのフロントを務め、マドンナやレディー・ガガなど女性ポップスターの尊敬を得ているカリスマ、デボラ・ハリーが昨年、74歳で発表した自伝『フェイス・イット(Face It)』は、生い立ちから名声を得て現在に至るまでを詳細に綴ったボリュームある一冊となっている。
生後3カ月で養子に出され、養父母の元で育てられた少女時代から、NY移住後にアンディ・ウォーホルやデヴィッド・ボウイなどに可愛がられ、チャンスにつなげていくサクセス・ストーリーも、現代よりずっと女性の立場が弱い社会でセクシャルハラスメントやストーカーなどに悩まされたことも、包み隠さず語る。ドライなユーモアを効かせながら、被害者意識よりもサバイバル精神が勝る、人としての強さが心に響く語り口だ。
ブロンディのメンバーで長年公私ともにパートナーだったクリス・シュタインとの破局、恋の遍歴、80年代後半に実の両親の消息を追ったこと、ニューヨークに来たばかりの頃にバニーガールとして働いていた時に、連続殺人鬼のテッド・バンディに誘われて危うく被害者になりかけた逸話なども綴っている。
未来世界を描いたコミック『バーバレラ』のヒロインやマリリン・モンローを参考に、ステージでは「ある意味こうしたキャラクターを演じるようなことをやっていた」と語るデボラ。これだけ書いても「話せることはまだたくさんある」としながら、「すべてを詳らかにしてしまうつもりはない」とミステリーは残しておく。自分が何者かわかっている「今の方が幸せ」と断言している。
Text: Yuki Tominaga