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自分は「永遠の学生」──内面と向き合い学び続ける、ケイレブ・マクラフリンの告白。【ハリウッドの未来をつくる、ニュースターたちvol.2】

ハリウッドの若きクリエイターを称える『Teen VOGUE』の2022年版「New Hollywood」に選ばれた一人、ケイレブ・マクラフリン。ドラマ「ストレンジャー・シングス」のルーカス・シンクレア役で知られる彼は、エンタメ界における黒人の地位向上に情熱を注ぐ。「みんなにも本当の自分を受け容れられるようになってほしい」というケイレブが見据える未来とは。

ケイレブ・マクラフリンが忘れられない、幸せについての名言がある。本人によればウィル・スミスの言葉で、「幸せは刹那的なものだけれど、何より大事なのは心の平和だ」というものだそうだ。ケイレブは、Netflixのドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(2016〜)で一躍スターの仲間入りを果たした。「つまり、自分の内面の平和を保てれば、永遠に幸せになれる、という意味だと解釈しています。もしかしたら間違っているかもしれないですけど」と、彼は自分の記憶が不確かなのを認める。

ケイレブが引用したウィル・スミスの名言は、正確にはこんな言葉だ。「幸せとは心の平和であり、快楽ではありません。幸せとは、できる限りの快楽を得ることだとみんな思っています。でも極端な快楽ほど、人の心を乱すものはありません」。こう聞くと、細かい文言は違っていたかもしれないが、ケイレブの記憶にあった言葉は意味は大きく変わっていないようだ。

若き黒人男性の代表としてのプライドと責任感。

「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(2016〜)でメインキャストのルーカス役として、その名を広く知られるようになった。Photo: © Netflix / Courtesy Everett Collection / amanaimages

ケイレブは望みさえすれば、心の平和ではなく快楽を追い求める生き方もできるはずだ。彼は10代のかなりの時期を、21世紀有数のヒット作であるドラマ「ストレンジャー・シングス」の主要キャストとして過ごした。このドラマに出演する前から彼は俳優を志し、12年から14年にかけてはブロードウェイ版のミュージカル『ライオンキング』に子ども時代のシンバとして出演、舞台デビューを飾っている。その後はいくつかのテレビドラマへのゲスト出演を経て、「ストレンジャー・シングス」のルーカス・シンクレア役を射止め、ブレイクのきっかけをつかんだ。これは結果として、彼の人生を変える大きなターニングポイントとなった。ニューヨーク州で生まれ育ったケイレブは突如としてインスタグラムで数百万人のフォロワーを獲得し、コミコンのメイン会場を埋め尽くす観客の前に姿を現すほどまでになった。しかもこれらはすべて、15歳のときの出来事だ。

だが、かつての子役スターの大半とは違い、ケイレブは常に、現実や自分自身、そして家族の大切さをよく知っていた。「この業界の中で育つと……いや、ほとんどは良いことなんですよ。でも、それは『自分で良いことにしていけるなら』っていう条件がつくんです」と彼は打ち明ける。ハリウッドでの体験を振り返るその口ぶりは明快で、感じが良い。「悪いことになるのは、この世界にどっぷり浸かってしまって、浮き足立ってしまったときだけです。僕には最高のチームがついていますし、支えてくれる家族もいます。そのおかげで地に足をつけ、ぶれることなく、やるべきことに集中できるんです」

素行不良で学校を退学処分になってしまった少年コールが、疎遠だったカウボーイの父との暮らしを通して成長する姿を描いた映画『コンクリート・カウボーイ:本当の僕は』(2020)で主演を務めた。Photo: Aaron Ricketts / © Netflix / Courtesy Everett Collection / amanaimages 

批評家から高い評価を得た『コンクリート・カウボーイ:本当の僕は』(2020)への出演に続き、リー・ダニエルズ監督のホラー作品『Demon House(原題)』が控えるなど、ケイレブの出演作はテレビドラマから映画へとシフトし始めている。その中でも彼は、目標にたどり着くためにやるべきことは何か、よくわかっている。成長の過程で自分を見失わずに、出演作の看板を背負うスターにならなければならない、という使命感が彼にはあるのだ。

「ストレンジャー・シングス」は超自然現象をテーマにしたスリリングな大作ドラマで、インディアナ州ホーキンスを舞台とした劇中で、ケイレブらが演じるティーンエイジャーはしばしば危険に遭遇する。だがケイレブが、自身が演じるルーカスについて語る口ぶりは常に前向きで情熱的だ。ルーカスは、ドラマの世界で若い黒人男性が好意的に描かれているという点でもケイレブにとって意義深い役柄だ。ルーカスは「ストレンジャー・シングス」の世界では決して脇役ではない。ひとりでストーリーを引っ張ることができるヒーローであり、プロット上でも重要な役割を果たし、アクションシーンも多く、ほかのキャラクターと濃密な関係を結んでいる。

ケイレブにとっても、ルーカスは演じていて楽しい役柄だ。それはルーカスがポップカルチャーにおける黒人キャラクターとしては、型破りな存在だからだ。「このドラマでは、若くて黒い肌の俳優が、いいことをしています」とケイレブは言う。「うぬぼれてるみたいに聞こえたら嫌なんですけど、でも『すごい! デモゴルゴン(「ストレンジャー・シングス」に登場するモンスター)と戦ってるじゃないか! 彼は悪者じゃない。悪く描かれてもいない。僕でもできるぞ』って(同年代の黒人の少年に)思ってもらえているはずなんです」

ルーカスは、超自然現象を扱い、ポップカルチャーの一大現象となったこのドラマの中でも、最も目立つキャラクターのひとりだ。一方で、ケイレブの俳優活動の背景には、黒人俳優や監督をはじめ、それまでに世に出たクリエイターたちのレガシーや作品という基盤がある。彼が常にポジティブでいられるのは、こうした先達のおかげだ。そして前向きな姿勢と努力の結果として、彼は熱心なファン層を築くことができた。

「僕もこの超自然的なコミックの世界を好きになってきました。ファンタジーの世界ですね。(ファンが)とにかく熱心なのがすごくいい。みんなにとってこの世界は、人生そのものなんです」と彼は言う。ドラマの中でルーカスは、SFやRPGの元祖とされる『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を愛する、かなりのオタクとして描かれているが、ケイレブ自身は、この点でルーカスと自分を重ね合わせることはあまりない。だがよく考えてみれば、ルーカスと似ているところは多いのかもしれない。どちらも時々予想外の行動を見せたり、感傷的になったりする。また、どちらも自意識が強く、家族を思いやる気持ちにあふれている。

ルーカス・シンクレアが教えてくれたこと。

同じ人物とは言えないかもしれないが、ファンはルーカスと同じくらい、演じているケイレブにも愛情を注いでいる。ファンはドラマに登場する衣装をそっくりまねたコスプレで集合し、今後のシーズンでルーカスのキャラクターがどんなふうに変化していくか、独自の考察を展開している。こうした熱心なサポートも、ケイレブが「ストレンジャー・シングス」に出演してよかったと思う点のひとつだ。加えて、子どものころに想像した以上に大きな可能性を開いてくれたのも、このドラマの現場での体験だった。

「『ストレンジャー・シングス』に出る前、僕はニューヨーク州のカーメルという小さな町の、自分だけの世界に生きていました」と彼は振り返る。「そこから、『ストレンジャー・シングス』のおかげで世界を飛び回るようになり、いろいろな人に出会って、思ったんです。『わぁ、人生には僕が思っていた以上にいろんな可能性がある。文字通り、一人一人がひとつしかない人生を生きているんだ』って」「(『 ストレンジャー・シングス』は)すごい作品になるとずっと思っていました。ドラマの世界を塗り替えるだろうし、たくさんの人が好きになってくれるだろうって」とケイレブは断言する。だが、作品が終幕に近づいていることが明らかになる中で(現在配信されているシーズン4に次ぐ、シーズン5が最終となる)、ケイレブは未来と、自身のキャリアにすでに起きつつある変化に目を向けている。

「ストレンジャー・シングス」シーズン4の配信開始に先駆け、今年5月にNYで行われたワールドプレミアのアフターパーティーにて、ウィル役のノア・シュナップと。Photo: Getty Images

アメリカでは20年に公開され、批評家から絶賛された『コンクリート・カウボーイ~』は、グレッグ・ネリの小説『Ghetto Cowboy(原題)』を原作とし、フィラデルフィアに実在する黒人カウボーイのカルチャーに着想を得た映画作品だった。ホラーテイストの「ストレンジャー・シングス」とはこれ以上ないほどかけ離れた作品だ。この中でケイレブが演じるのは、反抗的な10代の少年コール。学校で問題を起こしたのちに、それまで疎遠だったフィラデルフィアに住む父親ハープの元に送られ、共同生活を送ることになる。『コンクリート・カウボーイ~』はケイレブにとって、俳優としての新たな挑戦だった。まず最初にチャレンジしたのは乗馬で、ジョージア州で馬に乗る特訓をしたという。彼は、自身が馬と心を通わせる方法を学んだ過程を、『アバター』で主要キャラクターが、馬に似た異星の生き物ときずなを育んでいく様子と比べ、笑いを交えながら振り返ってくれた。

さらにケイレブは、コールというフィラデルフィア育ちのキャラクターをリアルに表現しようと、この街独自のカルチャーを自らにたたき込んだ。「コールはフィラデルフィアっ子です。コールはこの街に住むすべての若い男の典型なんです」とケイレブは言う。「この“すべての若い男性”には、僕も含まれるかもしれないですね。コールはどこにでもいそうな存在ですが、そこには彼自身のストーリーがあります。そこを僕はつかむ必要がありました。そのためには、フィラデルフィアっ子になりきる必要があったんです」

本作では、共演したイドリス・エルバから仕事への心構えも学んだ。ケイレブは自身の父親役を演じたエルバが、ウィークデーはずっと俳優として厳しいスケジュールをこなしながら、週末になるとフランスに飛び、DJをしていたというエピソードを明かしてくれた。さらに実の父親と強いきずなを持つケイレブは、そうしたものがないままに育った少年を取り巻く世界を想像する必要にも迫られた(作品の撮影中ずっと、ケイレブの父は現場に同行していたという)。その結果、コールを生き生きと演じるという課題を通じて、彼は自身の演技をレベルアップさせることができた。

若者たちをエンパワーするアドボケイトとしての使命。

今年3月にLAで開催された、『Vanity Fair』誌とランコム共催のパーティーにて。Photo: Jon Kopaloff/Getty Images

人として、そして演者としての成長は、ケイレブのこれまでの人生を通じてたびたび登場するテーマだ。彼は、自分自身は“永遠の学生”であり、ハリウッドでの日々も、自分と演技についてのさらなる学びにつながる経験と捉えている。「これからも学生であり続けることは決して変わらないと感じています」と彼は言う。「学びたいという気持ちが消えることもないでしょう。いつもワクワクしていたいという気持ちも変わらないはずです。僕は自分の周りにいる人みんなから学んでいるんです」

ケイレブの強い学びへの意欲は、彼の最大の目標ともつながっている。それは、将来的に映画の製作、監督を手がけることだ。さらに今は、自作の楽曲のプロデュースにも挑戦中だ。彼のファースト・シングル「Neighborhood(原題)」は、友達や家族に新しいガールフレンドを紹介するという内容の、洗練されたポップ・チューンだ。彼にとって、スタジオで自作の曲を形にするのはこれがほぼ初めての体験だったが、とても楽しかったので、年内にさらに多くの楽曲をリリースする計画だと教えてくれた。音楽制作(それに、音楽業界とのつき合い方)は、俳優活動とはまったく勝手が違うが、「スタジオに入って、いいヴァイブをキャッチするだけ」という彼の言葉を聞くと、ほかのジャンルへの挑戦も容易なことのように思えてくる。

この2年の日々は、誰にとっても人生を変える大きな転機だったが、ケイレブにとってもそれは同じだ。新型コロナウイルスの感染拡大が始まった当初、彼を含む「ストレンジャー・シングス」のキャストは撮影中止を余儀なくされた。空いた時間の多くを自分の部屋で過ごしたケイレブは、混乱のさなかに人生について思いをめぐらせたという。その中で、彼は自分がなぜ演技の道を追求することをこれほど愛しているのか、そもそもの理由を思い出したという。ときには消耗することもあるが、俳優が天職だというその確信に揺らぎはない。

彼はメンタルヘルスや、自身やほかの人たちの心の平和を保つことについても、深い関心を抱いている。以前は、ありのままの自分を愛することを呼びかける、ソーシャルメディア上のキャンペーンに参加したこともあった。また、自ら命を絶つ人の数が年を追うごとに増えている現状に対して注意を喚起することにも熱心だ。

問題解決のカギを握るのは社会制度の改革だが、内面に目を向けることも大切だと、ケイレブは感じている。常に世間の注目を集める業界でたくましく成長していくカギは、心の平和を見つけることにある。そして、メンタルヘルスの取り組みにかける熱意の根幹には、彼自身がこの問題に向き合い、乗り越えてきたという成功体験がある。これは魂との対話のプロセスだ。「みんなにも本当の自分を理解し、受け入れられるようになってほしいんです」と彼は言う。「それが僕の2020年の成果でした。自分自身と向き合い、時を過ごす──ケイレブという人間だけでなく、自分の魂、心の奥底にあるものを見つめ直しました」

内省の時を経て、今はまさに仕事とヴィジョンを再始動させるタイミングだ。「今までの人生でも、僕は素晴らしいことをたくさん成し遂げてきました」と、ケイレブ・マクラフリンはうっすらと笑みを浮かべて語る。「でも、まだやるべきことがたくさんあるんです」

Profile
ケイレブ・マクラフリン
2001年生まれ、米ニューヨーク出身。子役として『ライオンキング』(2012~14年)などのミュージカル作品に出演後、Netflixオリジナルシリーズ「ストレンジャー・シングス未知の世界」のルーカス・シンクレア役で一躍注目を集める。2020年には『コンクリート・カウボーイ:本当の僕は』で主役の少年コールを演じ、長編映画デビュー。若者支援など、慈善活動にも精力的。

Photos: Amy Harrity Text: Stich Translataion: Tomoko Nagasawa