連日洗練されたドレスアップ姿がキャッチされていた、コンペティション部門の審査員長であるケイト・ブランシェット。なかでも『Amants(原題)』のプレミアでの、シルバーとゴールドアッシュの目もと×マットなコーラルピンクのリップは、彼女のエレガントな魅力をいっそう引き立てる優美なカラーバランス。しっとりと保湿した肌に内側から光を放つようなベースメイク、頬骨に沿わせてふわりとのせたチークも、フレッシュな美しさを演出していた。
さらに髪型は、カールさせたボブヘアをバックに向かってタイトに撫でつけ、マニッシュな仕上がりに。リーゼントのようにくるんと立ち上げた前髪がエッジさをプラス。2016年の英国アカデミー賞授賞式で着用した「アレキサンダー マックイーン」のアーカイブピースともうまくマッチして、ケイトにしか叶えられない大人の女性の粋なスタイルを印象付けた。
昨年より、ヴェネチア国際映画祭に招待されたセレブたちのメイクアップ・グルーミングを担当するのは、ケイト・ブランシェットがグローバルアンバサダーを務めるアルマーニ ビューティ。美しさの中に確かな自信と強さを感じさせるメイクは、彼女の魅力を知り尽くした同ブランドならでは。
『The World to Come(原題)』のレッドカーペットでは、主演のヴァネッサ・カービーが「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」の端正なスーツをヘア&メイクで辛口に味付け。担当した人気メイクアップ・アーティストのジョー・ベイカーによると、このメイクはソフトパンクがインスピレーション源。黒のシャドウをアイホールに沿わせ目尻から大きく跳ね上げたキャットラインは、さすがユニークなアイメイクを得意とするジョーらしいアバンギャルドさ。深い紫色のリップもダークなインパクトを加え、ヴァネッサのカリスマティックな魅力を引き立てている。ちなみにこのリップカラーは、なんとヴェネチアの秋の旬味として知られる、紫アーティチョークがイメージソースだそう。
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さらに特筆したいのが、ヴァネッサのそばかす肌を生かしたベースメイク。無理にカバーせず、つるんとした陶器のようなツヤをまとわせることで、そばかすがもたらす素朴な雰囲気を、洗練されたスタイルにアップグレード。キリリと山を描いたストレート眉やオールバックにまとめたハーフアップも、スタイリッシュの決め手。
若かりし頃の母ユマ・サーマンの姿を引き継ぐマヤ・ホークは、今回の映画祭に新風を呼び込んだひとり。主演する『Mainstream(原題)』のプレミアで披露した「ヴェルサーチェ」のマーメイドドレスにナチュラルなボブヘアをあわせた姿は、まさに次世代の女優スタイルを体現する軽やかさ。特に、細くハイライトを入れたゴールデンブラウンの毛先をくるんと内巻きにしたことで、よりツヤやかなカラーが際立ち、ドレスのトーンともリンク。
メイクも、目もととリップをピンクで統一し可憐さを注入。マスクもペールトーンであわせ、マスクONのスタイルでもインパクトが出るように、ダークブラウンのアイラインとマスカラでいつもより目力を強調させ、アイコンシャスにしたのもポイントだ。
『Amants(原題)』のプレミアに登場したステイシー・マーティンは、美しく作り込んだメイクとエフォートレスなダウンヘアの対比がモード感たっぷりに。ゴールドのシャドウとまぶたの中央から太く引いたキャットラインがセクシーな眼差しを演出するも、ナチュラルなアイブロウとマット感のあるベースメイクでクリーンにアップデート。さらにロージーなリップカラーを加えることで、柔和なバランスをとって。まるで濡れ髪をハンドドライしたかのようなヘアが、彼女の知的で艶っぽい印象を倍増。計算された美しさなのに、それを感じさせない自然な仕上がりに。この卓越したこなれ感が、フランス人女優の底知れぬ魅力を感じさせる。
控えめな華やぎで勝負するセレブが多かったなかで、ひと際グラマラスなヘア&メイクに注目が集まったテイラー・ヒル。なかでも、『Amants(原題)』のレッドカーペットでの囲みウィングアイは、目頭のブルーから目尻のブラックまで絶妙なグラデーションを施し、見る者をハっとさせるようなドラマティックさを演出。自慢の太眉も、毛流れを縦にブラッシングしてワイルドに仕上げ、目もとのインパクトを強調。それをミルキーピンクのリップが、甘い夢のようなやさしいニュアンスにまとめ上げた。オールバックにして毛先までタイトに撫でつけたウェットヘアも「ショパール」のハイジュエリーに負けないタフな美を後押し。
テイラーと同じく、レッドカーペットをゴージャスな美貌で盛り上げていたフリーダ・アーセン。ノルウェー出身の透明感ある魅力を引き立てるように、『Amants(原題)』のプレミアでは、目もとにシルバーブルーとシャンパンゴールドのラメを散りばめ、神秘的なムードに。適度なツヤを仕込んだベースメイクに上気したようなチークとシアー感のあるコーラルピンクのリップが、何気ない表情に気品を呼び込む。
後れ毛を出してゆるやかにまとめたシニヨンヘアが、さらにやわらかなニュアンスをプラス。程良く力が抜けた彼女の美しさが、緊張が続くコロナ禍の映画祭にひとときの穏やかさを与えていた。
『Miss Marx(原題)』のレッドカーペットに登場したアリゾナ・ミューズは、「アルベルタ フェレッティ」の華やかなラッフルドレスを、持ち前の飾らない魅力でエフォートレスに昇華。アイブロウは毛流れを整え眉山を強調し、アイとリップはソフトピンクでフェミニンに彩って。それをツヤやかなグロウスキンが上品に格上げし、「ブルガリ」のネックレスの輝きともさりげなくリンク。ふわりとかき上げたロブヘアは、大きめのカールをつけて柔らかなニュアンスに。とびきりゴージャスなドレスやジュエリーも、この髪型のおかげでぐっと今っぽいこなれ感が増す。
今回の映画祭で栄誉金獅子賞を受賞したティルダ・スウィントンは、レジェンド女優の名にふさわしい唯一無二なスタイルが話題を呼んだ。赤毛の髪を大きく立ち上げた髪型は、まるで80年代のデヴィッド・ボウイのよう。ベージュピンクでヌーディに仕上げたアイズと、ネイルとリンクさせたヴィヴィッドなレッドリップが、柔和なコントラストを描いた。さらにビョークのアートワークで知られるアーティスト、ジェームズ・T・メリーによるゴールデンマスクが、スペシャルな輝きを放つ。ヘア、メイク、マスクを三位一体の様式美にすることで、ニューノーマル時代のドレスアップをアーティスティックに表現した彼女。その姿からは、性別を超えた美のあり方までも伝わってくるようだ。
Text: Rie Maesaka Editor: Mika Mukaiyama