2015年から始まった新たな3部作で主人公となったレイ。ファミリーネームもない彼女の生い立ちは謎に包まれていた。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)では、幼いレイを惑星ジャクーに置き去りにして消息を絶った両親の正体は明かされなかったが、重要なキャラクターの血縁であるはずと誰もが予想し、「ルーク・スカイウォーカーやハン・ソロの娘では?」といった仮説が飛び交った。
それが『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)では、カイロ・レンがレイに向かって「おまえの両親は何者でもなく、ジャクーでガラクタ集めをしていた夫婦で、すでに死んでいる」と言い放つ。だが、『最後のジェダイ』でライアン・ジョンソン監督の打ち出した説を、J・J・エイブラムス監督は『スカイウォーカーの夜明け』で覆した。レイの両親が“何者でもない”どころか、彼女は暗黒卿パルパティーン皇帝の孫娘だったのだ。
監督はこの展開について、「映画のテーマの1つは、出自は関係なく、誰もが何者にもなれるというものです。全員に響くかはわからないけれど、この考えに共感する人は、少なからずいると思います。『お前は何者でもない』ということも衝撃的ですが、私にとってより苦痛でショッキングなのは、自分が考え得るかぎり最悪の場所の出身であることです」と説明。「血よりもっとパワフルなものがある、とルークが言いますが、これは私たちが伝えなければならない、本当に大切なことでした」と語った。
また、「主人公2人はともに重要なキャラクターの孫であり、次世代にこの2つの家が一緒になるという発想は必然のように感じました。50年後、100年後に誰かがエピソード1から9まで見て、この物語が必然だったと感じてくれることを期待しています」と付け加えている。
カイロ・レンは前作『最後のジェダイ』で、スノークから「マスクを被った子ども」呼ばわりされて、ヘルメットを破壊したが、『スカイウォーカーの夜明け』では、ひび割れた箇所に赤のラインを入れて修復したヘルメットを装着している。
アダム・ドライバーは「キャラクターの外面で起きていることを見せながら、同時に内面の葛藤を描いていく良い例です」と説明。『フォースの覚醒』の頃から、カイロ・レンのスーツの着心地の悪さと、ありのままの自身に居心地の悪さを感じていることを関連づけていたという。「彼は非常に未熟で、そういうキャラクターを演じること、衣装やライトセーバーの色などで表現することもエキサイティングです。今回の場合はヘルメット。自分の歴史の中の良いとこ取りをして、なりたい自分を示そうとした。キャラクターがどう成長してきたかを体現するものです」と語った。
複雑にひび割れたヘルメットをつなぎ合わせた赤いラインは、日本古来の陶磁器修復技法である「金継ぎ」を参考に作成したそう。エイブラムズ監督は、ヘルメットの亀裂はカイロ・レンの「壊れた内面を視覚的に表現している」と語り、「日本の古典的な修復法のように、壊れた部分が本来の姿と同様の美しさを示しています。彼自身について物語っているのです」と説明している。
『スカイウォーカーの夜明け』で印象的なシーンの1つが、レジスタンスの飛行大隊を率いるポー・ダメロンがレイア・オーガナ将軍に別れを告げる場面。これはポーを演じるオスカー・アイザックのアイデアによって生まれたものだ。2人はシリーズを通して、暴走しがちなポーをレイアが諌め、激しくぶつかり合いながらも良き師弟関係だった。だが、レイアを演じたキャリー・フィッシャーは2016年12月、心臓発作が原因で急逝してしまう。『最後のジェダイ』の撮影は終えていたが、『スカイウォーカーの夜明け』への出演は叶わなかったのだ。
劇中でポーがレイアの亡骸の横に座り、彼女亡き後のレジスタンスを率いていくことへの不安を語りかけるのだが、オスカーは「もともと映画にはなく、僕がJ.Jに話したんです」と語っている。『ポーとレイアが一緒にいる瞬間があったら、素晴らしいと思うんです。ただ、さよならを言うだけでも』」。エイブラムス監督はオスカーの提案を受けて、新たにシーンを作った。大好きなキャラクター、そして共演者とお別れできたシーンであり、ポー・ダメロンとしての役割にも決着がつく展開に、オスカーはカタルシスを感じたそう。「タスクを終えたことに満足しているし、達成感がある。だから、もう一度やり直したいと思うこともありません」
2016年12月に急逝したレイア役のキャリー・フィッシャー。実は『スカイウォーカーの夜明け』でレイアは重要な役割を果たす予定だったが、その計画は変更を余儀なくされた。それでもエイブラムス監督らは、キャリーが生前に出演した『フォースの覚醒』『最後のジェダイ』の未使用映像約8分間を使い、髪や衣装をデジタルで改めて作成し、物語の中にレイアを登場させている。
エイブラムス監督は、キャリーの娘でコニックス中尉役で出演しているビリー・ラードがその決定を支持したことに感謝を表明。ビリーも、母がスクリーンに蘇ることについて「すごく幸せ。母もきっと喜んでいます」と語った。キャリー不在のまま、レイアの登場シーンを撮影した日は、レイ役のデイジー・リドリーらとともにビリーも参加し、キャストやスタッフたちはキャリーの思い出を語り合って涙し、笑い、現場は温かな空気に包まれたという。
さらに、若き日のルークとレイアが修行するシーンでは、ビリーが亡き母に代わってレイアを演じている。当初は、過去作からルークとレイアの映像を抜き出して編集する計画だったが、容姿をVFXで若返らせたマーク・ハミルとビリーが実際に演じている。監督の提案で、わずか数秒のシーンだが、撮影が実現。本編映像ではビリーの顔はオリジナル三部作でのキャリーのものに変えてある。
ブロックバスター大作の撮影現場では情報の管理は最重要事項の1つだが、まさかの脚本流出事件が発生。オークションサイト「eBay」に落札価格65ポンドで出品されたのだ。思わぬお宝登場となったが、ディズニー関係者がすぐに気づいて、オークションは取り下げられた。
気になるのが、その出所だ。映画公開時のプロモーションで情報番組「Good Morning America」に出演したジョン・ボイエガが、自身の不注意によるものだったと告白した。当時、引っ越し中だった彼はベッドの下に脚本を置き忘れ、数週間後に清掃業者が作業中にそれを発見。その後、別の人物の手に渡ってオークションへ出品されたのだという。ことなきを得て何よりだが、65ポンドというお手頃な価格設定には、ジョンも「その人は本当の価値を知らなかったってことだね」と笑った。
エイブラムス監督と脚本家のクリス・テリオは慎重で、公共の場で打ち合わせの際は部外者に話題を悟られないよう、細心の注意を払っていたそうだ。方法の1つは、作中に登場することが極秘だったキャラクターにコードネームをつけたこと。テリオによれば、「パルパティーンのコードネームはトルーパー13。ハリソン(・フォード)について話す時は、掃除人(The Janitor)と呼んでいた」そう。特に、ハン・ソロの登場は予告編でも明かされていなかったので、簡単には想像がつかないように工夫を凝らしたという。
これまで6代目ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグからウィリアム王子とヘンリー王子(本編では出演シーンはカット)まで、『スター・ウォーズ』の大ファンを公言するセレブたちがカメオ出演してきた。本作にも、関係者を含めて豪華な顔ぶれが揃った。
ストームトルーパー役で出演したと言われているのが、ハリー・スタイルズとエド・シーラン。ハリーの出演については、ロンドン・プレミア当日にマーク・ハミルがツイッターにハリーの写真付きで「全てのヒントは一方向(one direction)にある」と匂わせ投稿をした。リン=マニュエル・ミランダはレジスタンスの戦士役で登場している。
新キャラで、BB-8の相棒的存在の小さなドロイドD-Oの声はエイブラムス監督。仮録音でセリフを言ってみたところ、ぴったりハマったので、そのまま使うことになったそう。監督と共同脚本を務めたクリス・テリオも、アクバー提督の息子アフタブ・アクバーの声で出演している。映画史に残る名曲となったテーマをはじめシリーズ全作の音楽を手がけた巨匠ジョン・ウィリアムズは、惑星キジーミにあるバーのバーテンダー、オマ・トレス(Oma Tres)役で出演。この役名はマエストロ(Maestro)のアナグラムだそう。
ルーク役のマーク・ハミルは声優のキャリアも豊富だが、本作では冒頭に登場するエイリアン、ブーリオの声を担当。ちなみにクレジットはハミルではなく、パトリック・ウィリアムズ名義になっている。厳密にはカメオではないが、公開後に出演が判明したのがレイの両親を演じたジョディ・カマーとビリー・ハウル。「キリング・イヴ/Killing Eve」のサイコパス殺人鬼ヴィネラル役でエミー賞を受賞したジョディと、『追想』(2017)でシアーシャ・ローナンと共演したビリーという気鋭の俳優をいち早く起用したキャスティングとなった。
Text: Yuki Tominaga
