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「ファッションもカルチャーも楽しんで取り入れる」──“メゾン キツネのような芸人”を目指すコンビ、きつねが追う夢。

EXITや霜降り明星、ミキらを中心とした“お笑い第七世代”として、長らく保守的と言われてきた業界に新風を吹きこんでいるのは、芸歴7年目の芸人コンビ・きつね。大阪出身、小学1年生からの幼なじみでもあるという大津広次と淡路幸誠が語る、ファッションとお笑いの関係性とは?
お笑いとファッション、そしてカルチャーをつなぐ。

〈左・淡路〉シャツ ¥32,000  ジャケット ¥80,000  パンツ ¥30,000  ソックス ¥2,000/すべてPAUL SMITH(ポール・スミス リミテッド)  ボロータイ ¥209,000/CODY SANDERSON(コディ・サンダーソン阪急メンズ東京)  リング ¥2,000,000/LATREIA(トリア アルマ)  シューズ ¥99,000/SERGIO ROSSI(セルジオ ロッシ カスタマーサービス)  〈右・大津〉シャツ ¥137,000  タイ ¥24,000  ジャケット ¥274,000  パンツ ¥96,000 スニーカー ¥93,000/すべてVERSACE(ヴェルサーチェ ジャパン)  サングラス ¥43,100/OLIVER PEOPLES(ルックスオティカジャパン カスタマーサービス)  ソックス ¥1,800/NODAL(ノーダル)

──ファッション撮影のモデルをしてみていかがでしたか?

淡路 これを仕事にできれば、僕はもう満足です。むしろ生業にしたいくらい。竹下通りを行きかう人にチラチラ見られながら撮られてましたけど、二人とも恥ずかしがることなくやれましたし、かなり性に合ってるんやなと。

大津 ノリノリでしたね。カメラマンの方が「ナイスです、ナイスです」って褒めてくれたんですけど、たまに「最高!」が出る。それを聞けるたびに俺らいいの出したわという達成感がありました。

──メゾン キツネがコンビ名の由来だそうですが、彼らのようにファッションブランド、音楽レーベル、アートなど多岐にわたって活動する集団になることを目指しているんでしょうか?

淡路 ほんまその通りです。

大津 僕らがお笑いを始めた当初は、若手はおしゃれしたらあかんという空気がめちゃくちゃあって。「カッコつけるな」みたいなプレッシャーが強かったんですよ。

淡路 若手芸人って、みんな同じような流行りの格好をしてて。それはしたくなかった。人と同じになってしまったら、カッコつけれないんで。カッコつける、という一点のみに集中していましたから。

大津 芸人でもファッションもカルチャーも楽しんで取り入れていきたい。メゾン キツネみたいな存在になれたらなと。

淡路 僕ら、前から「M-1頑張っているんですよ」と言ってて。「漫才の?」と聞かれたら、「僕らのMはミュージックのM、1位取ってMステ出るのが目標です」みたいなことをインタビューで話してたんです。そしたら本当に「KOUGU維新」でデビューできたし、音楽番組にも出れた。4曲目も出せそうな雰囲気なので、本当にずっとカッコつけてて良かったなと。

──ファッションとお笑いに共通する部分はあると思いますか?

大津 お笑いを型として捉えると、流行が繰り返すみたいなところはあると思います。それまで素を見せるお笑いが流行っていたとしたら、カウンターとして完成されたお笑いが流行るというフェーズが来る。ファッションでも主流として君臨していたものへのカウンターで発表したコレクションがコピーされて市場に出るという現象がきっとあるじゃないですか。どうカウンターしていくかみたいな発想は、お笑いにも通じると思う。

淡路 あと、ファッションとお笑いの“はずし”もけっこう近いところはあるじゃないですか。

大津 三段落ちみたいなね。天竺鼠さんは、おしゃれで奇抜な笑いをしてますよね。

淡路 でも、川原(克己)さんがやるからそう思える。スーツの中にジャージを着るみたいなはずしがカッコいいと思わせる力がある。

大津 僕らはそっち系ではない。

淡路 でも、昭和歌謡をやりますと言ってEDMを流すというやり口だけ見れば、はずしと言えるんじゃないですかね。

「きつねモチーフは見つけたら買ってしまう」と大津さん。〈左〉FOX RACINGのロングスリーブT。〈右上〉プラダのレザーキャップは短髪にしてから愛用中とか。〈右下〉付けたアイテムがメゾン キツネになる魔法のピンバッジ。

──芸人として、仕事上のファッションのこだわりはありますか?

大津 きつねというコンビ名にしたからかわからないですけど、僕らは仕事で誰かになりきる、化ける機会が多いんです。特定のキャラを表現するときには衣類が何倍にもイメージを膨らましてくれるので、僕らで衣装も選んでいます。

淡路 格好って一番最初にパッと目に入ってくるものじゃないですか。その役にはどんな要素が必要か、というディテールには、すごくこだわっているかもしれない。

大津 まずはなりきる人物像を決めて、その人の持つ特徴をGoogleでAND検索したり、ハッシュタグで特徴だけをピックアップするんです。カラコンとか脚のすね毛のあるなしとか。ちなみに僕、すね毛はもう残っていません。なりきるために必要やったんで、脱毛しました(笑)。

淡路 若手のネタとか見てると、また東急ハンズのハゲのヅラやんとか思っちゃうときがあって。でも、こだわりがある芸人さんたちは、カツラひとつにしても安いウィッグは使ってないんですよね。

大津 細部をつき詰める力が、成功してる人にはありますよね。ただファッションって、バチクソイキってるふうに見えるときがあるじゃないですか。おしゃれやと思われたいんやろうなというのが見えすぎたら、お笑いの邪魔になる。

淡路 打ち合わせとか、絶対僕ら地味な格好で行くもんな。

大津 僕はロケのときに服が汚れるのが嫌なんです。ほんまにめっちゃ汚れるので、洗濯できるスーツを衣装としてもって行ってます。

──女性になりきるときは、どんな工夫をされているんでしょう?

淡路 僕はガールズユニットが大好きなので、最近だったらJYP関係の映像をかなり見て、かわいい要素を取り入れてますね。

大津 僕が女性になりきるときには、自分が付き合える女性かどうかを意識してやっています。しかも、ちゃんと3カ月は付き合える女性かどうかをテーマに。

──第七世代の芸人さんたちが、お笑いとファッションの深くて広い溝に橋をかけた印象があるのですが、意識的だったのでしょうか。

大津 僕らはお互い、昔から単純に服が好きだったんですよね。二人ともカッコつけっぱなし、みたいなところで馬が合ったんですよ。でも、確かに最近お笑いとファッションが割と近いところにあるような気がする。EXITさんはファッションとの親和性が高いですし。

淡路 りんたろー。さんが何の靴を履いているのかとか、男性でも気になってると思う。ちなみに吉本さんの芸人さんはストリートファッションが主流なんですけど、劇場がセンター街の中にあるからやなって勝手に思ってるんです。KICKS LAB.ファンが多いし、ごっついスニーカーをみんな履いてるよな。

大津 先輩からお下がりもらったりもするから、例えばスニーカーをもらったら、それに合う格好を構築していくことになる。

淡路 スタイルが上から下へ受け継がれてる。ほかの事務所だとあんまストリート系おらへんもんな。

大津 確かに、人力舎さんの芸人さんはサブカル、インドア系の格好している印象ありますね。

淡路 僕らもホリプロの先輩からブランドものを頂いたりしますね。

大津 事務所は違うけど、藤森慎吾さんとかからクリスチャン ルブタンやアクネ ストゥディオズのお下がりをもらったりもします。そういうアイテムをもらえる流れがたまに向こう側からやって来るんです。ファッションの流れがね。

淡路 これもその流れを引き寄せる一環と思ってますからね。

──SNSの写真の見せ方も、それぞれおしゃれですよね。

大津 SNSで芸人が個人でプライベートを発信することによって、ファッションとの距離が縮まったところもありますよね。

淡路 彼は最初、インスタグラムをやるのを嫌がってたんです。

大津 そうですね。メンタルカッコつけ師だったので(笑)。やる必要ないやろと。

淡路 インスタだけしかSNSをやっていないファンの方のために始めようとなって、今はノリノリでやってますけどね。

大津 僕のインスタの写真は横浜流星さんとかを撮っているTOWAさんというカメラマンさんに全部撮ってもらってます。

淡路 僕はカメラが大好きなんです。今日カメラマンさんが何の機材を使ってたか全部わかるくらいなんですけど、いかんせん自分をうまく撮るのは難しくて。いいカメラを持ってるだけみたいになってるんですけど(笑)。

男だから、という意識で服を選ぶことはないですね。

〈左・淡路〉インナーシャツ ¥46,000  レイヤードシャツ ¥48,000  ブルゾン ¥65,000  コート ¥148,000  パンツ ¥45,000/すべてATSUSHI NAKASHIMA(THÉ PR)  イヤーカフ 大 ¥14,000  小 ¥10,800/ともにKNOWHOW(ノウハウ ジュエリー)  ブレスレット ¥115,000/AMBUSH ®(アンブッシュ ® ワークショップ)  バッグ ¥26,000/JIEDA(キクノブ トウキョウ)  〈右・大津〉Tシャツ ¥32,000  ブルゾン ¥72,000  コート ¥127,000  ショーツ ¥32,000  腰に巻いたカーディガン ¥97,000/すべてMSGM(アオイ)  ビスチェ ¥130,000(参考価格)/FACETASM(ファセッタズム)  右手につけたリング 各¥80,000/LYLY ERLANDSSON(ワールドスタイリング)

──大津さんは女性的な魅力が欲しいと女性ホルモンを愛飲してたこともあったそうですし、淡路さんもレディスファッションを好んで着るそうですが、ファッションにおけるジェンダーの枠に対してどう捉えていますか?

淡路 まったく意識してないですね。女性もの、めっちゃ着ますし。男性ものとは形がちょっと違うじゃないですか。そこがかわいいと思う。なんでメンズでも出えへんのやって思うもの多いですし、ボタンが逆についているシャツを脱ぎ着するのも慣れました。

大津 僕は肩幅が広いので、肩幅が合わないから女性ものは着れないんですけど、おしゃれな男って、女性のスタイリングに近いように見えません?  オーバーサイズのスタイリングも女性が着ているのを見て、おしゃれやなと思った男性たちがそれを真似し始めたりする。そんなイメージありますね。

淡路 僕、フレアパンツ好きなんですけど、メンズで探すのが大変。

大津 マジでないですよね。

淡路 ネットでかわいいと思ってクリックすると、だいたい着ているモデルさんが女性なんですよ。

大津 でも、僕らがそんなん言うてる間に流れが来るんでしょうけど。流行りが女性のほうから男性のほうに降りてくるという。

〈上〉淡路さんが愛用するメゾン キツネのTシャツ。〈中・下〉普段からサンリオのキャラクターのヴィンテージ生地を集めているという淡路さんが、ネットオークションで購入した生地で知人に仕立ててもらったというお気に入りのエプロンとパジャマ。

──淡路さんは、かわいいパジャマも集めているとか。

淡路 お家時間が増えたので、とにかくパジャマをめっちゃ買ってますね。セットアップが好きなんですけど、パジャマは常にセットアップじゃないですか。

大津 僕も寝るときは、ちゃんと着替えてセットアップのパジャマ着て寝てますね。

──プライベートでファッションのこだわりがありますか?  好きなブランドなどあれば、ぜひお聞きしたいです。

淡路 僕はほぼ古着一択です。その理由は、今その服は僕しか着てる人がいないってことになるから。基本的に細身のスタイルが好きなんですが、ダンスを習っているので、仕事終わりにそのまま練習に行けるカジュアルな服装かどちらかですね。ブランドだと、コム デ ギャルソンとユニスが好き。

大津 ちょっと前まではストリートっぽい格好をしていたんです。でも、次は32になるという歳で髪型を坊主にしたというのもあって、眼鏡をかけるとだいぶ怖い雰囲気になってしまうんですよ。だから、最近はちょっとシックめの、主張がそこまでないようなもの、カチッとしすぎてないスーツとかを意識して着ています。最近の気分に合っているのは、マンドというブランドです。

─こんな存在を目指したいというブランド像は、メゾン キツネ以外にもあったりしますか?

淡路 僕は全然着ないんですけど、シュプリームですかね。彼らがこれまで何をコピーしてきたかがわかる、「supremecopies」というインスタアカウントが好きなんです。サンプリング文化をものすごく体現してて。それってカッコよくないですか?

大津 スケーターブランドのほうがそういう文化あるかもね。

淡路 思い切りルイ・ヴィトンをパクって訴えられた後、コラボしてるじゃないですか。あの感じ、ヒップホップ的で好きですね。

大津 僕は、ファッションもお笑いも、本人が好きでやっているものが本質的に強い気がしてて。ルーツがあってそこへのオマージュとして作られたものと、ルーツをリスペクトすることなく模倣したものがあるとしたら、結局後者は形骸化してしまうと思うんですよ。だから、好きで集まったグループが作ったものが、市場に出回って価値がつく、みたいな流れがベストやと思ってます。もちろん、ただロゴを刷っただけみたいなグッズじゃなく、いい素材や機能性を兼ね備えた、ハイファッションとして成立するものとして。

Photos: Kenta Karima Stylist: Ryo Chiba at AVGVST Hair & Makeup: YOSHi.T at AVGVST Text: Tomoko Ogawa Editors: Yaka Matsumoto, Sakura Karugane