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『マスク』の制作秘話──ジム・キャリーの役づくりから、キャメロン・ディアス発掘のエピソードまで

ジム・キャリーの名前を世界に響かせた90年代の大ヒット作『マスク』。冴えない青年が謎のマスクを被った途端に緑の怪人に変身。不思議な力をふるって大騒動を巻き起こすコメディはCGを駆使し、アニメでしか不可能と思われた表現を実写化したことで大反響を呼んだ。天才的な身体能力を見せたジムの役づくり、本作で俳優デビューしたキャメロン・ディアスのキャスティング裏話など、制作の背景に迫る。

ホラー作品になりそうだった!? 主演候補はニコラス・ケイジやロビン・ウィリアムズ

Photo: New Line Cinema/Getty Images

『マスク』(1994)は、バイオレンス色が強いダークホースコミック『マスク』を映画化し、製作のニューライン・シネマが80年代に大ヒットさせた自社のホラー映画『エルム街の悪夢』シリーズを念頭に、新たなフランチャイズを想定して企画。『エルム街の悪夢3 惨劇の館』(1987)のチャック・ラッセル監督を起用した。

当初は“スプラッター・パンク”とも称される原作寄りの脚色だったが、主演のジム・キャリーが出演していたコメディ番組「In Living Color(原題)」やスタンダップ・ライブを以前から見ていた監督は、ジムの魅力を活かすコメディ路線に変更した。

Photo: New Line Cinema/Everett Collection/amanaimages

気弱でお人好しの銀行員スタンリーが偶然手に入れた仮面を被ると、超人的な力を持つ緑色の顔の怪人・マスクに変貌する。突然カメラ目線で観客に語りかけたり、カートゥーンのようなクレイジーな動きを見せたり、ひとクセあるスーパーヒーロー・キャラである点など、ライアン・レイノルズ主演の『デッドプール』シリーズの先駆け的なイメージもある。CG不要の自在な顔芸と身体芸でジム以外にマスク役は考えられないが、実は彼のキャスティングはファーストチョイスではなかった。

企画の初期に名前が挙がったのは、ロビン・ウィリアムズやマーティン・ショート、リック・モラニス。また、彼らより一世代下の候補としてはニコラス・ケイジやマシュー・ブロデリックが有力視される中、ラッセル監督一押しのジムが抜擢された。製作費は2300万ドルだったが、ポップでスピード感あるエンターテインメントは世界中で大ヒット、世界興収は3億5000万ドルを記録した。

ジム・キャリーの役づくり

Photo: New Line Cinema/Everett Collection

実写部分とCGをほどこした部分に差異を感じさせない映像は、30年近く時を経た今でも驚嘆する高い完成度だが、それは変幻自在なジムの表現力に負うところが大きい。彼は、父親をお手本にしたと語っている。ぎこちなくジョークを言う際の様子がアニメのようで、スタンリーを演じる時の参考にしたという。

子どもの頃に親しんだアニメ「ルーニー・テューンズ」のバッグス・バニーやタズマニアン・デビル、テックス・アヴェリーによるオオカミなどの動きも取り入れている。驚いて目が飛び出したり、高いところから飛び降りてペチャンコになったり、CG映像にジムのリアルな動きと独特の口調が加わると、実写でのカートゥーン的な表現にも違和感がない。

Photo: New Line Cinema/Everett Collection

緑色の顔面のメイクには毎日4時間かかった。顔の動きに合わせて動くラテックスを使用し、彼自身の表情が反映された。真っ白な大きな歯は入れ歯。オーバーサイズで喋りにくいので、歯を強調するショットのみで使うはずだったが、ジムは入れ歯をしたままでの話し方をマスターした。見事な役作りのおかげでCGの使用は予定より減り、製作費の節約にも貢献することになった。

マスクの勝負服と言えば、黄色のズートスーツ姿が忘れられない。実はこのスーツ、ジムが駆け出しの頃に着ていたステージ衣装がモデルだという。スタンダップ・コメディアンとして舞台に立つ息子のために母親が作ってくれたポリエステルの燕尾服をインスピレーションに作成された。

ちなみにジムの本作の出演料は45万ドル。かなり控えめな額なのは、出演契約が1994年2月公開の出世作『エース・ベンチュラ』(1994)の公開前だったから。次作の出演料は700万ドルに跳ね上がっていた。

本作で俳優デビューしたキャメロン・ディアス

Photo: New Line Cinema/Getty Images

クラブ「ココ・ボンゴ」のシンガーで、スタンリーが変身したマスクに魅了されるヒロインのティナ役で大ブレイクしたキャメロン・ディアスは、撮影当時21歳。これが正真正銘の初演技だった。モデルだった彼女の宣材写真がラッセル監督の目にとまり、オーディションに呼ばれたのだ。

セクシーなブロンド美女のティナ役は最初、グラマラスなスタイルで「マリリン・モンローの再来」とも呼ばれたアンナ・ニコル・スミスが候補だったが、彼女の資質に物足りなさを感じた監督は、経験ゼロながら才能の片鱗を見せたキャメロンに賭けた。

役をゲットするまでにオーディションを何度も重ね、ジムとの即興演技で相性の良さを確信した監督がプロデューサーを説得し、キャメロンの起用が実現した。ちなみに歌声は本人ではなく、声優のスーザン・ボイドによる吹き替えだ。

Photo: New Line Cinema/Everett Collection

俳優転身前、キャメロンはモデルのキャリアアップを目指してパリに渡ったが、滞在中の1年間はまったく仕事がなかったという。ようやく来たオファーでは、そうとは知らずにドラッグの運び屋の片棒を担がされかけた。鍵のかかったスーツケースを渡されてモロッコに運ぶように言われたそうで、現地の空港で怪しまれたが、危機を察知したキャメロンは自分の所持品ではないと主張してことなきを得たという。最近になって本人が明かし、まだ牧歌的だった90年代前半ならではのエピソードだ。

リブートの可能性は?

Photo: New Line Cinema/Everett Collection

ほとんど誰の記憶にも残っていないが、2005年に続編『マスク2』が作られている。ただ、キャラクターもストーリーも前作と関連性はなく、もちろんジムもキャメロンも出演していない。スタンリー/マスクが活躍する真の続編を望む声は今もあるが、いわゆる続編というコンセプトを嫌うジムはあまり乗り気ではない様子。とはいうものの、最近は『ソニック・ザ・ムービー』シリーズで2作続けてヴィランを演じているので、心境の変化は多少あるらしく、近年は「クレイジーなヴィジョンを持った監督」が作るならOKと発言している。

『マスク』で製作総指揮を務めたマイク・リチャードソンは、2019年に『フォーブス』誌のインタビューで、別のキャラクターでのリブート構想を話し、主演については「考えはあるが、彼女の名前は言えない」と発言。女性キャラクターが主人公になる可能性もあるようだ。

Text: Yuki Tominaga