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ジョニー・デップとアンバー・ハードの今後のキャリアは? ハリウッドの関係者たちが名誉毀損裁判を振り返る。

世界中がライブストリームで見守った元夫妻、ジョニー・デップアンバー・ハードの名誉毀損裁判。デップ側の勝利により、DV被害者が声をあげるのを難しくする空気が醸成されるなど、今後の世論へのさまざま影響を懸念する声もある。US版『Vanity Fair』が、これからの2人の立ち位置などについて業界関係者に取材した。
Photos: Getty Images

ジョニー・デップによるアンバー・ハードに対する訴訟は名誉毀損裁判として始まったが、ライブストリーミングによって世界中の注目を浴びながら幕を閉じた頃には、#MeTooムーブメント以後の男女関係を問う議論の火種と化していた。ミームやハッシュタグ、動画がSNSのフィードにあふれ、見ないように努めても目に入ってくる、まるで立ち込める悪臭のようだった。聞こえてくる声の多くは嬉々としてデップを擁護するもので、組織的なPR作戦なのではないかという議論が起こったほどだ。

この裁判は、デップの元妻であるハードが、女性に対する暴力防止法を支持する論説を『ワシントンポスト』紙に寄稿したことによって彼のキャリアにダメージを与えた、というデップの訴えによるものだった。ハードは論説の中でデップの名前こそ出さなかったものの、自分を「家庭内暴力の被害者を代表する公人」と表現し、業界内で幅を利かせる俳優を加害者として告発したことで、自身のキャリアが損なわれたと綴った。

「DV被害者が名乗り出る時の障壁が悪化した」

6月1日(現地時間)、名誉毀損裁判が行われた米バージニア州の裁判所から出てくるアンバー・ハード。Photo: Kent Nishimura/Getty Images

論説が掲載された直後にデップは、ディズニー製作の『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ6作目から降板させられた、と証言したが、ハードの弁護士は、その2カ月前に『デイリー・メール』がデップの降板を既に報じていたと指摘。「私が妻に暴力を振るう男だと世界中で言われ続け、もう2年も経った」と、ハードへの接近禁止命令が最初に出された2016年当時のことについてデップは法廷で語った。

「だから、ディズニーは安全策として関係を切ろうとしたのだと思う。#MeToo運動が興隆した時期だったので」

デップのタレントエージェントであるジャック・ウィガムは、この論説が出たことによって、大手スタジオ作品へのデップの出演契約をとるのが不可能になったと証言し、「これは死の宣告であり、ハリウッドによるデップ氏への悲惨な仕打ちだった」とまで表現した。2020年にデップは、自身を「DV夫」として報道した『サン』紙を相手取り、英国で名誉毀損裁判を起こしたが敗訴。その後、ワーナー・ブラザーズの要請で『ファンタスティック・ビースト』シリーズからも降板している(ただし、第3作目のギャラは全額受け取っている)。

5月26日(現地時間)、名誉毀損裁判が行われた米バージニア州の裁判所から出てくるジョニー・デップ。Photo: Kent Nishimura/Getty Images

この裁判のムードと法廷外での受け止められ方は、ハードによる論説の「声を上げる女性に対する世間の全力の怒りを感じている」という一節と呼応するはめになった。あるベテラン映画プロデューサーは『Vanity Fair』による取材に対し、「ある意味、ハードが論説で言ったことは裁判で現実となってしまった。彼女はデップのファンの怒りを全身に浴びることとなった。彼のバックには世界的規模の応援団がついていたのだから」と語っている。その応援団の中には、男性の権利活動家や、米国下院司法委員会の共和党議員までいた。評決が発表された数分後、共和党の下院司法委員会は公式アカウントを通して、デップが写る『パイレーツ・オブ・カリビアン』のワンシーンのGIFをツイートしたが、これは明らかにデップの勝利を祝う投稿であった。

エンターテインメント業界の権利擁護団体であるウィメン・イン・フィルムは、「デップ対ハードの判決が、被害者が名乗り出ることで直面するリスクをさら悪化させるような前例になってしまわないか、深く懸念している」と評決発表後にツイートした。そして、「この裁判とその受け止められ方は、権力者による暴力や虐待について声を上げる人々に対する報復という、退歩的な傾向を示した」と続けた。ある心理学者は『Rolling Stones』誌の取材に対し、虐待者に対する訴訟から身を引いたり、公的な発言を撤回したいと考える、何百人もの被害者からすでに相談を受けている、と明かしている。

ハリウッドが警戒する“反MeToo”イメージ。

5月27日(現地時間)、ジョニー・デップとアンバー・ハードの名誉毀損裁判が行われた米バージニア州の裁判所の前に集まったそれぞれの支持者たち。Photo: Kevin Dietsch/Getty Images

#MeToo運動が提起した複雑な問題を未だに解決できていないハリウッドにおいて、この裁判結果はどのように扱われるのだろうか。『Vanity Fair』の記者アンソニー・ブレズニキャンとレベッカ・フォード、ブリット・ヘネマスとともに、筆者はエンターテインメント業界の関係者らに話を聞いてきたが、その多くは世間と同じようにこの事件に困惑し、動揺していた。

とはいえ、どちらの俳優も無傷では終わらなかった、というのが大方の意見である。とある一流映画スタジオの幹部も、「自分には直接関係ないことなのに、わざわざ見せられて不快だった」と話し、「業界人が彼らと一緒に仕事をしたいと思うかどうか、そして世間が今回のことを気にするかどうかがわかるのは、もう少し先のことだろう」と続けた。

また別の世界的な映画スタジオの幹部は、この評決はデップにとって犠牲の多い勝利だったとし、「表向きは勝者だが、本当にそうと言えるだろうか? 二人ともあまりにも酷い醜態を晒してしまったので、業界としては、幅広い観客を呼びこみたい作品に彼らを出演させるのは、少なくともしばらくは避けたいのが本音」と語っている。また、この判決は政治にも深刻な影響を与える、と同幹部は予想している。「ハリウッドやその住人たちの過激さや浮世離れした実態を、右派が非難するのに格好の攻撃材料を与えてしまった」とも話す。

反#MeToo運動のリーダーとしての地位を受け入れることは、デップは避けるべきだ、というのは、前出のベテラン映画プロデューサーだ。「長年の薬物やアルコール依存から立ち直ろうとしている、というジョニー・デップ像を彼は構築しなければならないだろう。彼が#MeTooを打ち負かした、というイメージは非常にまずい」と指摘する。

5月27日(現地時間)、米バージニア州の裁判所から出発する、ジョニー・デップ。Photo: Cliff Owen/Consolidated News Pictures/Getty Images

かつてはアメリカ映画界を代表する大スターとして、デップはどんな映画でも──たとえテーマパークの乗り物を題材にした映画でさえも──見る価値のあるものに仕上げてしまうような俳優だった。彼のキャリアは、シリアスなインディーズ映画から超大作まで多岐にわたる。そして年齢を重ねるごとに、敬愛するハンター・S・トンプソンに倣ってか、まるでコミックに登場する「はみ出し者キャラ」へと変貌を遂げていった。裁判では、デップの態度が業界内で問題視され、ハードの論説以前から仕事の見通しが悪くなっていたのではないか、という議論もあった。2016年に解雇されるまで、30年間にわたりデップの代理人を務めたトップタレントエージェントであるUTA所属のトレーシー・ジェイコブスは、ビデオによる供述において彼の薬物乱用の悪化について証言し、クビになるまでの最後の10年間に至っては、撮影現場での遅刻常習犯としてデップの評判は落ちていた、と示唆した。

「彼の行動についてはすでに疑問視されていました」

ハリウッドの著名な広報担当者かつ賞レースの戦略家は、デップの前途は多難であると見ているが、同時に、こう話す。

「ここまできてしまうと、大手スタジオが彼を起用することはないだろう。彼はまだまだ不安要素になり得る。でも、彼はそんなこと気にするだろうか? 彼はオンデマンド配信のマージンで稼ぎ続けるだろうから」

一方、ある大手事務所のタレントエージェントは、デップの「危険な芸術家イメージ」はすでに広く受け入れられているために、観客も寛容になるかもしれないと語る。そして、「一つのスタジオが彼を雇いさえすれば、後は続くと思う。彼を雇っても大丈夫、という空気を作るには、まずはインディペンデント映画やスタジオ製作でないものに出演してみるのがいいかもしれない」と提案している。

「ハリウッドはどんな口実だって利用する」

2018年、ロンドンで行われた『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』のプレミア上映に出席したジョニー・デップ。Photo: Jeff Spicer/Getty Images

デップの出演映画にいくつも携わったことのある開発担当の幹部は、デップがハリウッドに復帰するには段階を踏む必要がある、と考えている。

「すぐに『ハリー・ポッター』シリーズや『パイレーツ・オブ・カリビアン』に復帰できるとは思わない。とはいえ、陪審員や世間は彼の味方をしているようなので、#MeTooの告発で有罪になったほかの有名人ほどは物議を醸すことはないだろう。法廷で概ね勝ったのだから」

この幹部は、薬物乱用や情緒不安定といった問題が、すでにデップの映画出演の妨げになっていたというデップの元代理人の評価には異を唱える。

「撮影現場に時間通り来たり、演技したりするのに、そのような問題が影響を与えていたことはなかった。遅刻がひどいからもう彼を起用できない、なんて業界で問題視されるほどではなかった。いろいろな問題を抱えていたにせよ、実際に大作映画に出て演技するのに大きな影響を及ぼすものではなかった」

それでも、薬物乱用や暴力を告発されたことは、彼を起用する際の判断基準になり続けるだろう、と同幹部も認める。「これは企業の幹部が判断する問題であって、そのような頭痛の種を抱えたい人がいるだろうか、という問いに集約されると思う。私の推測では、彼はまた『ラム・ダイアリー』(2011)のような小規模なものをやって業界に返り咲くんじゃないか」と続けた。評判が損なわれたことによって、デップには今までと比べるとかなり少ない報酬を提示されるかもしれない。この開発担当者は、「ジョニーは当時、何人もいた巨額のギャラを要求するスーパースターの一人だったが、その莫大な金額を払わなくて済むのなら、ハリウッドはどんな口実だって利用するだろう」と括った。

デップには、ディオール(DIOR)の「ソヴァージュ」イメージキャラクターをはじめ、収入源はほかにもある。ディオールは、裁判中も一貫してデップの味方でいることを選んだ。この決断はデップのファンにも受け入れられ、中にはデップ支持の証として、わざわざ製品を購入するものさえいたという。あるラグジュアリーブランドの経営者兼コンサルタントは「ディオールの勝利だ」と語り、「この泥沼裁判に勝者はいない、という記事は確かに多数出ているが、世論を聞けば、明らかにジョニーが勝者だ」と述べている。

意見が分かれるアンバー・ハードの今後。

2018年、ロンドンで行われた『アクアマン』のプレミアに出席したアンバー・ハード。Photo: Karwai Tang/WireImage

一方ハードについては、『Vanity Fair』が取材したほとんどの情報筋が、過酷な裁判によって評判がひどく損なわれた、という意見で一致している。デップほどの大スターではなかったとはいえ、ハードは来年公開予定となっている、ジェイソン・モモアとともに超大作『アクアマン」の続編に出演している。しかし、デップの熱狂的なファンはハードに嫌悪感と怒りをぶつけ、彼女の登場シーンを映画から排除する署名運動まで展開した。この記事を書いている時点で、change.orgには450万以上の署名が集まっている。

ハードの今後の見通しについては、関係者の間でも意見が分かれる。前出のタレントエージェントはこう述べる。

「アンバーのキャリアはもはや、わからない。裁判の1、2年ほど前から、彼女はあまり実績を積めていないので、この状況からどうやって抜け出せるか……」

同じく前出の開発担当者も、これに同意する。

「彼女は、法廷で自身の主張を証明できるチャンスが丸一日あったが陪審員を説得することはできなかった。そして世間も説得できなかった。最終的には、彼女は信頼も好感度も失うことになってしまった」

一方、デップは「今後もオンデマンド配信で稼ぎ続ける」と予想した広報担当者は、ハードの将来についてより楽観的だ。

「スタジオの大スターとしてのキャリアは難しいかもしれないが、彼女との仕事に全力を尽くしてくれるプロデューサーや、彼女を支えようという女性たちと出会えると思う」

ベテラン映画プロデューサーは、「まだ確信は持てない」と言いつつ、こう続ける。

「すべては彼女が今後どのような選択をするかだ。彼女と一緒に仕事をしたいと言う人はいるだろうし、秀逸なインディーズ映画で素晴らしい演技をし、才能を発揮すれば、彼女は復活できると思う」

彼らは「お互いにとって有害な組み合わせ」。

6月1日(現地時間)、ジョニー・デップとの名誉毀損裁判が行われていた米バージニア州の裁判所から出発するアンバー・ハードが乗った車両。Photo: Cliff Owen/Consolidated News Pictures/Getty Images

ハリウッドではここ数年、タブロイド紙に傷つけられたモニカ・ルインスキー、パメラ・アンダーソン、ブリトニー・スピアーズをはじめとする女性たちの名誉を回復させようとする動きが加速している。だが、ハードに対するSNSの反応は、彼女たちがかつて大衆に嘲られ、貶められてきた様子と酷似している。ハードは証言台でこう語っている。

「来る日も来る日もSNSで展開される私への誹謗中傷、ハラスメント、屈辱。そして今度は、裁判所でカメラの前で見世物にされて──日々、私は(家庭内暴力の)トラウマを追体験させられています」

前出の映画プロデューサーは、「この裁判は、時代の煽りをうけたと思う。ハードに向けられた狂気はミソジニー(女性嫌悪)のようなもの」と説明する。

この判決によって、ハリウッドではずっと決着がついていないジレンマが浮かび上がってくる。問題ある言動を行った人物を解雇にまで追い込むこともある「キャンセル・カルチャー」において、「どれだけキャンセルされれば十分なのか?」という問いだ。今までキャンセルされた著名人の今後は、全く未定だ。

某プロデューサーは、「制作陣というよりも、世論が決めることだと思う。世間が本当にその俳優を求めているのなら、復活もあるだろう」と話す。判決後のデップのインスタグラム投稿は、現在1800万以上の「いいね!」を獲得している。そこには、映画監督のタイカ・ワイティティを含む著名人からのものもある。

とはいえ、もしぴったりな役があったとしても、今すぐデップやハードをキャスティングするだろうか? 前出のプロデューサーは「私なら6カ月は待つと思う」と言い、「現段階では、これから2人に何が起こるかはスタジオにも配給会社にもわからない。様子を見て、世間が落ち着くのを待つしかない。しかし、私は間違いなく候補リストには挙げるだろう」と続けた。

裁判の一部始終を見届けたベテラン業界人は、「彼らはお互いを虐待しあっていたと思う」と言う。「彼らはお互いにとって有害な組み合わせだった。単体ではまったく無害なのに、合わさると台所が吹っ飛ぶような組み合わせというのは、人間同士でも存在する」というのだ。

追加取材協力:アンソニー・ブレズニキャン、レベッカ・フォード、ブリット・ヘネマス

Text: Joy Press  Translation: Fraze Craze
From VANITY FAIR

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