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長い歴史に笑いあり、涙あり。印象的なアカデミー賞のエピソード集。

映画界最大のイベント、アカデミー賞授賞式まであとわずか。長い歴史の中で起こった出来事は、驚きや微笑ましいハプニングの連続! 突然の熱烈キスやレッドカーペットでのハプニング、歴史を塗り替えた瞬間など、今年のアカデミー賞を楽しむためのエピソードをご紹介。

【第85回】2013年:愛すべきドジ娘、ジェニファー・ローレンス。

晴れ舞台で転んだ瞬間のジェニファー。頭の中にはFワードが駆けめぐったそう。Photo: REUTERS/AFLO

普段は物怖じせずにはっきり自分の意見を主張し、堂々としているジェニファー・ローレンス。そんな彼女にとっても、オスカー受賞はやっぱり特別な瞬間。『世界にひとつのプレイブック』で22歳という若さで主演女優賞を受賞し、ステージに上がろうとしたところ、ディオール(DIOR)のドレスの裾を踏んで転んでしまった。近くの席にいたヒュー・ジャックマンが思わず駆け寄って手を貸そうとするスウィートな瞬間も。動転していたジェニファーは彼にまったく気づかなかったそうで、授賞式後にリポーターに教えられて「全然気がつかなかった!」と驚いていた。

ステージ上ではオスカー像を受け取るも動揺しっぱなしのジェニファーは、スピーチの中で多くの人たちに感謝を捧げながら、肝心の監督とプロデューサーの名前を言い忘れるという失態を演じてしまった。これはジェニファーに限らず、これまでも多くの受賞者たちが繰り返してきた痛恨のミス。今年の授賞式ではスピーチを45秒間に収めるため、なおかつこうした事態を避けるべく、候補者たちは事前に感謝したい人々の名前をリストアップして提出している。授賞式当日は、受賞者の登壇時にテロップで名前を表示する予定だ。

ちなみに受賞翌年の第86回には『アメリカン・ハッスル』で助演女優賞候補として出席し、今度はレッドカーペット上で突然転ぶアクシデントが発生。神がかったドジっ娘ぶりが話題になった。今年は『JOY(原題)』で主演女優賞にノミネートされているが、授賞式でまた何かやらかしてくれるのでは、とあらぬ期待が寄せられている。

【第75回】2003年:舞い上がってつい暴走? 気まずいキスのハプニング。

〈左〉感極まったエイドリアンがハルに熱烈キス! Photo: AP/AFLO 〈右〉突然のトラヴォルタ来襲にスカーレットは一瞬フリーズ状態に。Photo: AP/AFLO

映画人にとって最高の栄誉だけに、オスカー獲得に舞い上がってしまう受賞者は数知れず。史上最年少の29歳で主演男優賞に輝いた『戦場のピアニスト』のエイドリアン・ブロディは喜びのあまり、ステージに上がるやいなや、プレゼンターのハル・ベリーを抱きしめてキスをした。それも親愛の情を示す程度の軽いものではない、かなり情熱的なキス! 付き合ってもいない相手の大暴走にハルは大困惑。それに気づいたのか、エイドリアンのスピーチの第1声はハルに対して「これがギフトバッグに入っていたとは知らなかったでしょ」というもの。毎年、オスカー候補になった俳優20人と監督5人には高額商品の数々が詰まったバッグが贈られるのだ。キスは受賞者の特権と言わんばかりのジョークに会場は爆笑に包まれ、ハルは苦笑しながら口もとをぬぐっていた。

キスにまつわるちょっと気まずいハプニングは、昨年も授賞式前のレッドカーペットで発生。写真撮影でポーズをとっていたスカーレット・ヨハンソンジョン・トラボルタが近づき、背後から腰に手を回して右頬にキス! キスをしようとするジョンと険しい表情でフリーズ状態のスカーレットのコントラストが強烈な写真が報道されると、「気持ち悪い!」とネットを中心に非難の嵐が巻き起こった。実際は急な出来事に驚いた一瞬の表情をカメラがとらえただけで、スカーレット本人は「とてもスウィートでうれしい再会映像の一部を切り取った、タイミングの悪い静止画像です」とすぐに擁護コメントを発表。2人は以前に『ママの遺したラヴソング』(05)で共演していて仲良しなんだそう。

【第74回】2002年:ハル・ベリーとデンゼル・ワシントン、主演賞をアフリカ系俳優2人が受賞。

授賞式後の記者会見で会心の笑みを見せたハル・ベリーとデンゼル・ワシントン。Photo: AP/AFLO

今年は2年連続で俳優部門の候補が全員白人という結果に批判の声が殺到しているが、そんな現象とは正反対の革新的な授賞結果となったのは2002年のこと。主演男優賞を『トレーニングデイ』のデンゼル・ワシントン、主演女優賞を『チョコレート』のハル・ベリーが受賞した。

アフリカ系の主演女優賞は史上初であり、しかもジュディ・デンチニコール・キッドマンを抑えての快挙。名前を呼ばれたハルは母親にしっかりハグをし、ステージに向かう姿は非常に印象的だった。ライバル女優たちをはじめ客席がスタンディング・オベーションで祝福するなか、泣きじゃくりながら「オー・マイ・ゴッド!」と繰り返し、「この瞬間はドロシー・ダンドリッジ、リナ・ホーン、ダイアン・キャロル……そしてチャンスを手にしたすべての名もなき有色人種の女性たちのものです。だって今夜、扉が開いたのだから」と冷遇されてきたアフリカ系の女優たちに賞を捧げた。シングルマザーで彼女を育て上げた母や長年支えてくれたマネージャー、『ジャングル・フィーバー』で映画デビューさせてくれたスパイク・リー監督にも感謝するエモーショナルなスピーチに、客席でもらい泣きするスターの姿も。

デンゼルは1990年の助演男優賞に続いて2度目のオスカー受賞。アフリカ系としては2人目の主演男優賞受賞だが、奇しくもこの年、名誉賞を授与されたシドニー・ポワチエこそが第36回/1964年に開催されたアカデミー賞で初となるアフリカ系の受賞者だった。

【第82回】2010年:史上初! 元夫婦対決を制して、女性が受賞した監督賞。

監督賞と作品賞で2つのオスカーを手にしたキャスリン・ビグロー。Photo: AP/AFLO

90回近くの歴史を持つアカデミー賞だが、女性が監督賞を受賞したのはたった1度だけ。2010年、キャスリン・ビグローが『ハート・ロッカー』で史上初の快挙を成し遂げた。同じ年に候補だったのは『アバター』のジェームズ・キャメロン、『プレシャス』のリー・ダニエルズ、『マイレージ、マイライフ』のジェイソン・ライトマン、『イングロリアス・バスターズ』のクエンティン・タランティーノと強豪ぞろい。キャメロン監督はビグロー監督の元夫で、かつての夫婦対決に注目が集まったが、監督賞、作品賞ともに元妻に軍配が上がった。

プレゼンターのバーブラ・ストライザンドが「ついにその時が来ました」と受賞者の名前を読み上げると会場は大喝采に包まれ、ビグロー監督の真後ろの席だったキャメロン監督夫妻もスタンディング・オベーションで祝福した。「本当に言葉にできないくらいの、人生最高の瞬間です」と声を震わせながら喜びを語った上で、女性としてではなく、あくまでも監督としての立場で関係者に感謝の意を示したビグロー監督。ジェンダーが受賞の理由ではないというプライドを伺わせた。

とはいえ、アカデミー賞では女性監督がノミネートされること自体がかなり稀なこと。ビグロー監督以前にノミネートされたのは『セブン・ビューティーズ』(76)のリナ・ウェルトミューラー、『ピアノ・レッスン』(93)のジェーン・カンピオン、『ロスト・イン・トランスレーション』(03)のソフィア・コッポラの3人だけ。その後、候補入りを果たした女性は未だにいない。

【第41回】1969年:新旧2人の女優が、主演女優賞を同時に受賞!

シースルーの装いもインパクト大だったバーブラ・ストライサンド。Photo: fest/AFLO

主演女優賞の得票数が同数で、2人が同時に受賞という史上稀な結果が生まれたのは1969年。『冬のライオン』のキャサリン・ヘップバーンとミュージカル映画『ファニー・ガール』のバーブラ・ストライサンドが主演女優賞に輝いた。2年連続の受賞を果たした大女優と、これが映画デビュー作の人気シンガーという組み合わせに会場は驚きと祝福の拍手で包まれた。

史上ただ1人、生涯で主演女優賞を4度受賞したヘップバーンだが、ノミネートされた年の授賞式には1度も出席したことがなく、この年も『冬のライオン』のアンソニー・ハーヴィー監督が代理で賞を受け取った。一方ストライサンドは、アーノルド・スカージが手がけたシースルーのセットアップを纏い、喜びと緊張いっぱいの表情でハーヴィー監督と手を取り合ってステージに向かった。階段でつまずきかけたのは、彼女以上に緊張していた監督がベルボトムの裾を踏んでしまったからだとか。オスカー像を手にし、その重さに驚きながらもしみじみと金色の像を見つめながら「ハロー、ゴージャス」と呼びかけた。実はこれ、劇中のヒロインの台詞なのだ。ブロードウェイの舞台からはじまり、映画版でも演じ続けてきた愛着のある役での受賞に感無量の表情を浮かべていた。

俳優賞の同一カテゴリーで受賞者が2人になったのは第5回/1932年にフレドリック・マーチとウォーレス・ビアリーが主演男優賞を受賞して以来2度目で、それ以後は起きていない。

【第88回】2016年:「オスカーは真っ白」騒動に揺れる賞レース。

1月、ジョン・クラジンスキーと今年のオスカー候補を発表したアイザック会長(右)。Photo: INFPhoto/AFLO

1月14日(現地時間)に本年度のノミネーションが発表されるやいなや、昨年に引き続き俳優部門の候補が白人の俳優のみだったことで、ネットを中心に多様性に欠けると批判が巻き起こった。ツイッターでは「#OscarSoWhite(オスカーは真っ白)」というハッシュタグがトレンドになるほどの大騒動だ。

シルヴェスター・スタローンが助演男優賞候補になった『クリード チャンプを継ぐ男』で主演を務めたマイケル・B・ジョーダン、ゴールデン・グローブ賞では候補だった『コンカッション』のウィル・スミスや『ビースト・オブ・ノー・ネーション』のイドリス・エルバ、ヒップホップグループのN.W.Aの伝記的作品で評価の高かった『ストレイト・アウタ・コンプトン』も主要部門では脚本賞のみという結果に。アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーのシェリル・ブーン・アイザックス会長も「多様性を欠いたことに苛立ちを感じる」との声明を発表。2012年時点で6000人弱の会員のうち白人が94%、男性が77%、平均年齢62歳という構成を、2020年までに白人以外と女性の会員を倍増させる方針も表明した。

1929年の第1回以来、俳優部門でノミネートされたうち、白人ではない候補者は全体の約6%。過去25年間のうち『ラストサムライ』の渡辺謙や『バベル』の菊地凛子が助演賞候補になったが、彼らを含めた白人以外の候補者は56人と圧倒的に白人優位の傾向は否めない。

今年の授賞式についてはウィル・スミス夫妻やスパイク・リー監督がボイコットを表明したが、候補になった白人俳優たちは苦しい状況に立たされながらも、出演作を代表する立場として出席を表明している。華やかな栄誉に輝いた受賞者たちのスピーチにも今年は特に注目が集まりそう!

Text: Yuki Tominaga