女の子ならメアリー、アリス、ヴィクトリア。男の子ならアルバートまたはアーサー!?
ケンブリッジ公爵夫妻のウィリアム王子とキャサリン妃は、来月の第3子誕生に伴い、子どもに名前を付けるという難題に再び直面している。その責任は重大なもので、ただ単に子どもに名前をつけるということよりもはるかに大きなものだ。王族の名前は、その歴史そして親族たちにも敬意を払わなければならないし、また国民にも親近感を持たれるべく、現代的なものでなければならない。
イギリスのラッドブロークス社によると、女の子の場合はメアリー、アリス、ヴィクトリアが有力で、男の子の場合はアルバート、アーサーが有力であるようだ。しかし「継承順位が下であるほど、より独特あるいは非伝統的な名前になりやすい」。トロント大学継続学習スクールで歴史学の教授を務め、『王族を育てる:王族の養育の1,000年』の著者でもあるキャロリン・ハリスは言う。
デンマーク、スペイン、そして日本。世界の王室の命名事情。
国によって命名の方法は異なるが、ほとんどが同じ名前の繰り返しであり、それらは独自にリスト化されている。デンマーク王室が最も極端な例で、15世紀以降クリスチャンとフレゼリクという2つの名前だけが繰り返し使われている。1972年に女王マルグレーテ2世が即位したことによりこの慣行は中断されたが、法定推定相続人である女王の息子はフレゼリクと名付けられており、女王の孫は、想像通りクリスチャンと名付けられている。
日本では、直系の男子には「仁」の文字で終わる名が与えられる。今上天皇、明仁の息子は皇太子徳仁親王、孫は悠仁親王である。一方で、皇族の女子には「子」で終わる名が与えられる。
王族の名前は時折、政治的な意味を帯びることもある。例えば、オランダのマルフリーテ王女は、ナチスドイツによるオランダ占領中にカナダで生まれた。彼女の名前の由来は、フランス語でヒナギクを意味する“marguerite(マルグリット)”。ヒナギクはオランダのレジスタンスの象徴として身に着けられていたからだ。
王族の親たちは、一度に歴史上の著名な人物の中からいくつかの名前を選択するという責務を担っている。スペインの国王であるフェリペ6世の例をとってみよう。彼のフルネームはフェリペ・フアン・パブロ・アルフォンソ・デ・トードス・ロス・サントスだが、この名は、現在の王朝初代の王(フェリペ5世)と、国王自身の2人の祖父(フアン・カルロス1世、ギリシャ王パウロス)、そして曽祖父(アルフォンソ13世)に由来している。
ウォリス・シンプソンとの「王冠を賭けた恋」で知られるエドワード8世は7つの名前を持っていた!
イギリスの王族の中で、その名前の数で他者を圧倒しているのはエドワード8世だ。彼は、エドワード・アルバート・クリスチャン・ジョージ・アンドリュー・パトリック・デイヴィッドという名であり、最後の4つは、イングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズそれぞれの守護聖人に因んで付けられた。ハリス曰く、「1894年当時ですら、それはとても長い名前だと思われていた」そうだ。彼は公にはエドワード王として知られていたが、家族や友人は彼のことをデイヴィッドと呼んでいた。
しかし、エドワード8世以後、世代の王族の名は短くなっている。ウィリアム王子とヘンリー王子はそれぞれ4つの名前を持っているが、ケンブリッジ公爵夫妻は自分たちの子どもに与える名前は3つだけにすると決めているそうだ。そしてジョージ・アレクサンダー・ルイ王子は、ジョージ6世として君臨した女王の父に因んでおり、アレクサンダーは、フルネームがエリザベス・アレクサンドラ・メアリーである女王への敬意を示していると言われている。ルイは、父親の名前ウィリアム・アーサー・フィリップ・ルイからきており、エジンバラ公フィリップの叔父ルイス・マウントバッテン卿に由来する。
今年、ナーサリーに初登園したシャーロット王女はどうだろうか? 彼女のフルネームはシャーロット・エリザベス・ダイアナ。ウィリアム王子の両親であるチャールズとダイアナ、そして女王から取られた。シャーロットという名がイギリスの王室で初めて登場したのは18世紀のこと。ジョージ3世の妻がシャーロット・オブ・メクレンバーグ=ステルリッツという名前であったそうだ。このように、「婚姻は王家の歴史に新しい名前をもたらす」と、ハリスは言う。例えばエレノアとイサベラは非常に歴史が古く、前者は1152年にヘンリー2世と結婚したアリエノール・ダキテーヌに、後者は1200年にジョン王の妻となったイザベラ・オブ・アングレームが初出である。
セレブ文化の台頭と共に変化する王室の伝統。
今日では、王族が徐々にファーストネームで呼ばれるようになるに従い、繰り返しを避けようという意識が新しく芽生えている。
王族の名前というものは、ロイヤルファミリーが世間から時代遅れだと認識されないようにするためにも重要なことなのだ。グローバルブランド戦略ファームのシーゲルゲール社でグローバルディレクターを務めるクリスチャン・ターナーによれば、「親近感のある名前を選ぶことは、『王室は、周囲の世界を理解し、そこに共存している』ということことを示すのに役立つ」のだそう。
「歴史的であり且つ、大衆的な人気を併せ持つ名前は減少しつつある」とターナーは付け加える。レオポルドあるいはレオは非現実的だろうが、フレデリックが選ばれる可能性は無きにしも非ずだ。
この伝統は、王族に若いメンバーが多くなるにしたがって緩和していく傾向にある。女王エリザベス2世は、第2子にアンと名付けた。これは多くの人の見方によれば、王族としては普通の名前だった。だがその後、アンは自身の娘にザラ・アン・エリザベスと名付けた。これは独特なファーストネームで、おそらくチャールズ皇太子が推したものである。ザラは出生当時、王位継承順位6位だったが、今度のロイヤルベビーの誕生後には、17位に後退する。ザラの直前の順位につけているのが彼女の姪であるサバンナとアイラで、ザラの娘ミアは彼女のすぐ次である。
今回誕生するケンブリッジ公爵家の3番目のベビーの命名には、ミドルトン家の祖父母であるマイケルとキャロルが大きな役割を果たす可能性もある。エリザベス女王とフィリップ王配の次男アンドリュー王子は、フィリップの父に因んで名付けられている。
とりわけ、ウィリアム王子とキャサリン妃には、先祖たちよりも大きな自由があるようだ。もちろん女王には名前が公に公開される前に知らせるが、だからといって事前承認が必要な訳ではない。
最新のロイヤルベビーの名前は、いつ判明するのだろうか? 誕生から発表までのタイムテーブルは著しく短くなっているとはいえ、それは両親次第だ。エリザベス女王がチャールズの名を公表するには1ヶ月を要したが、チャールズとダイアナがウィリアムの名を公表するまではわずか1週間だった。また、ハリー王子の名はその日に公表された。ケンブリッジ公爵夫妻はジョージ王子とシャーロット王女の名を、誕生の2日後に公表した。
Text: Elizabeth Holmes