──エイミー・ワインハウスに興味を持ち始めたきっかけは?
10年くらいエイミーとロンドンの同じエリアに住んでいたんだ。つまり、彼女は「地元の普通の女の子」って感じだった。通りで見かけたこともあった。いつも理解しがたかったのは、なぜあんなに病的だったのかってことだった。熱狂なファンというわけではなかったけど、彼女の歌はいつも聴いていたよ。
──エイミーの死を聞いたときのことを覚えていますか。
あの時は、ちょうどロンドンにいたんだ。驚きはしなかったよ。なぜなら、多くの人と同じようにいつかは起こるんじゃないかと予感してたから。ショックは受けなかったもののとても哀しかった。ほんの27歳の女の子が死んでしまうのを、誰も助けられずに遠巻きにしていただけなんて。どうしてなんだ?これは、この映画を撮る動機のひとつでもあるんだ。だから、彼女になにがあったのか、本当はどんな女の子だったのか、調べなければいけないと思ったんだ。
──彼女の人生の後半はスキャンダルの印象が強かったですね。でも、ファンはよく知っていることですが、エイミーは彼女の人生を歌に重ね合わせていましたね。
この映画のリサーチには3年を費やした。映像をみたり、親しかった人たちに話を聞いたり。110人以上の人に会ったよ。歌を聞いて、歌詞を検証し直したりしていた。彼女の書く歌詞は特別だった。文学的であり、詩的だった。そしてなにより個人的なものだった。日記のようにね。あまり知られていないけれど、彼女はとても書くことにおいて才能があったと思うよ。彼女は人生を歌で表現した。歌は、彼女のアイデンティティの証だった。だから、この映画を観たファンが、すでに知っていて何度も聴いている彼女の歌を聴いたとき、もっと深く、解釈できるようになったらいいと思ったんだ。
──映画では、夫ブレイクとの関係も詳細に描かれていて、多くのファンは、とても素晴らしいとはいえない男のために人生をダメにしてしまった、と憤りを感じていると思います。
この映画で描かれているエイミーの人生に起こったことは、すべて実際にあったことだ。そして興味深いのは、彼女の人生を描くことは、愛の物語を辿ることにもなったんだ。彼女は聡明で、才能があり、とてもユーモアにあふれた人という素晴らしい人なのに、どうして悲劇的な人生になってしまったのか。誰でもそうだと思うけれど、愛に関しては誰でも無防備になってしまうものだ。エイミーは愛されることを求めていて、それゆえにしばしば人生において間違った選択をしてしまったんだ。誰も恋に落ちることをコントロールすることはできない。エイミーもブレイクという男を愛してしまっただけなんだ。アーティストやクリエイティブな人間が超がつくほど繊細だというのは本当だと思う。
──メディアによってもエイミーは、追いつめられて行った様子も描いていますね。
この映画は、マスコミとの関係についても描いているといえるよ。エイミーは、とてもアナログな環境で育ったアーティストなんだ。スターは、ゴシップでもなんでもいつも新聞とか紙媒体で取り上げられていた。けれど、彼女が売れ、脚光を浴びたときには、インターネット時代。ネットでは、エイミーに関する歌やシンガーとしての活動だけでなく、私生活やゴシップまで追いかけはじめた。人が転落していく様子を見るのが好きな人もいるんだ。そしてどんどんクレイジーな方向に進んでいった。現代の悲劇だよ。
『AMY エイミー』(2016)
監督/アシフ・カパディア
出演/エイミー・ワインハウス
配給/KADOKAWA
角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ新宿ほか全国劇場にて公開中!
(C) REX FEATURES(C) 2015 Universal Music Operations Limited.
Text: Atsuko Tatsuta