注目のモデル、UTAの素顔とは?
初となる表紙撮影とインタビュー取材のため訪れたマンハッタンのダウンタウンにあるホテルの賑やかなロビーに到着するや、人々の視線は一斉にUTA(内田雅樂)に注がれた。21歳の彼が注目されるのは、そのあまりに有名な家系のせいだと思われるだろう(亡くなった祖母はあの樹木希林、祖父は強烈な個性がこれまた名高いミュージシャンの内田裕也、父親は数々の受賞経歴を持つ俳優の本木雅弘、そして母親はエッセイストの内田也哉子)。しかし、足早にニューヨークを行き交う人々はそんな事実を知る由もない。最近現れたこのモデルの端整な顔立ち、長い脚、そして約190センチという長身が醸し出す印象的な存在感から、人は目が離せないのだろう。
その著名すぎる家系の名声とは裏腹に、UTAからは静かな自信が滲み出ている。だが、それは決して傲慢な、物知り顔に気取ったものではない。「無口で不器用な、話し下手な人物だというのは、僕に対する最大の勘違いの一つかも。僕はそんなにシャイでもないんだ」と、祖母によく似た優しげな眼差しで彼は語る。「生まれ育った家族の環境や今までいろんなところで暮らしてきたおかげで、知らない人に会ったり話をしたりするのがとても楽しいよ」
モデルとしてのキャリアを後押ししてくれた祖母。
ようやくスポットライトを浴びる存在となったこの大学生は昨年、日本のブランドのデザイナーや多くのフォトグラファーの目に留まるまでは無名で通してきた。「モデルとしてのキャリアをスタートさせる後押しをしてくれたのは祖母なんだ。若い頃にしかできないことがあると気づかせてくれた上、あえて自分の安全地帯以外の場所で新しいことにトライしたらってね」と振り返る。「それに、服を通して自分を客観視することはファッション界に限らず、人生においても大事なことだと祖母は教えてくれた……」
UTAはすでに短期間のうち、I-D誌やニューヨーク・タイムズ紙などの名だたる媒体を含むエディトリアルを飾ったほか、パリではコム デ ギャルソンやアンダーカバーといった注目のブランドや、また、ミラノのランウェイにも登場しているが、それによって新たに生まれた人々の関心におおらかな、柔らかい形で対処している。その姿は注目や名声を得るのに躍起になっている人間というより、ひょんなことからたまたまモデルの世界に遭遇した典型的なカリフォルニアの大学生というイメージだ。そういった新鮮かつ控えめでノンシャランな姿勢と正統派のハンサムなルックスが、モデル業界にひしめくあまたの若者たちとUTAとを区別する要因だろう。
だが彼はティーンエイジャーの頃から芸能界に飛び込むことはせず、逆に世間の目から離れた、派手とはおよそ無縁の思春期を送る選択をした。「僕は当然ながら同年代の子たちに比べ芸能界との接触が格段に多かったわけだけど、それでも家族は僕にどうしても普通の子ども時代を送らせたかったんだね。親からはプレッシャーを受けたこともないし、業界入りを強制されたことも全くないんだ」と打ち明ける。「現在も、父や祖母を超えなきゃいけないなんて全然思わない。両親には自分のペースで好きなことをさせてもらっているけど、やるからには真摯に向き合うようにと言われている」
「自分とは異なるキャラクターを経験できるのは、ありがたいことだと思っている」
東京で生まれ育ったUTAは、12歳の時にスイスの寄宿学校に留学した。「家族と離れるのはつらかったし、最初は恋しさも募ったけど僕は案外、自立心も強いので状況に慣れるまでに時間はかからなかった」と振り返った。彼はのちにフロリダのスポーツ名門校に転校している。「アメリカでの生活に慣れる方が大変だったけど、アメリカのスポーツに対する並々ならぬ情熱や文化に魅了された」
フロリダでの生活でバスケットに対する本気度はさらに増していったが、実は彼のインスピレーションとなったのは父親だという。「父が学生時代にバスケをやっていたので、僕が初めて影響を受けたスポーツでもある」と付け加える。バスケットに対する情熱は彼をやがてカリフォルニアにある大学のプレーヤーというチャンスへと導いた。UTAは現在、モデル業に専念するため同大学のコミュニケーション科を休学中だ。
また、モデルとしてのフルタイムの仕事は、大学やトレーニングに通常着ていくトレーニングウェアやパーカと違って、洋服に対する自身の視野を広げてくれたと言う。「今の僕は以前よりもずっとファッションというアートや自分のスタイルを楽しむようになったね」と説明するUTAは取材当日、ブラックレザーのボンバージャケット、白Tシャツ、そしてチャンキーなオックスフォードシューズというコーディネートだった。
「僕はとにかく新しいルックにトライしたり、またそれらを自分の感性に取り入れていくのが面白いんだ。ファッションを通して自分とは違うキャラクターを演じたり、いろいろな異なる時代やセットが経験できるのはありがたいことだと思っている」
人目にさらされる大半の人が自分の映っている写真やビデオを見るなり謙遜したり恥ずかしそうにするのに対し、UTAは意外にも冷静だ。「自分を客観的に見ることは大事だと思う。何かを表現する上では特にね」と説明してくれると同時に、周りの友人たちはモデルとしての彼の顔にまだ完全に慣れていないとも明かす。「ときどき着ている服を茶化されたりするけど、彼らも本当は喜んでくれているんだよ。ただ、今までの僕があまりにもバスケに熱中していたから、そのギャップに驚いているみたい」
モデルを始めてから変わった日常の生活。
アメリカでの生活は普通の大学生と変わらないが、モデルとしてのキャリアに重点を置いた最近の日本への帰国時の扱いは、無名の一般人とは大きく違うものだった。「以前は何をするにも完全に自由にしていたし、自分の素性なんて誰にも言う必要がなかったのが、今や人々に注目されることを無視できなくなりつつある」と話す。「帰国することをプレッシャーに感じるわけじゃないけど、絶えず見られている感覚があって、そういう状況に適応していかなきゃと思っている」
昨年12月、UTAは世界で絶賛された是枝裕和監督作品『万引き家族』に出演した祖母に代わり、同作品で日刊スポーツ映画大賞の助演女優賞を受賞するため登壇した。「祖母が亡くなった9月(に帰国した際)、注目が高まったことで少し戸惑った」と振り返る。
「それまでやってきたことは淡々と、自分の自立のためだけだと思っていたけど、今後は僕以外のことも含めての世間からの注目や責任は避けられないと感じた。特に日本ではね。だから、もう全部を受け入れることにしたんだ」
実際、UTAが最終的に役者の道へと進むのかは誰もが関心を示すところだろう。「いつかトライできたらとは思っているけど、まずはモデルとしての表現力を身につけるために、芝居のレッスンを受けている」と彼は明かす。
順調に進むモデル業、バスケットへの情熱、そしてゆくゆくはスポーツ・コミュニケーション分野の仕事がしたいという望みの中、UTAは将来の可能性すべてに対してオープンな姿勢だ。 「自分の選んだ道が何であれ、熱心に向き合えと教えてくれたのは家族。祖母は、若いうちは何かに挑戦し続け、あえて難しい状況に身を置いたり、新たな経験を面白がることがいかに大切かを、いつも話してくれていた」と、彼は語る。「そういうことを念頭に日々新しいことを吸収し、できる限りの経験を積みながら自分の世界を広げていきたいと願っているよ!」
Photo: Giampaolo Sgura Interview: Andrew Bevan Editors: Saori Masuda, Jennifer Berk