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ナオミ・スコット ──ハリウッドを魅了する次世代ヒロインの素顔。

ディズニーアニメの名作『アラジン』実写版で、ヒロインに抜擢されたナオミ・スコット。進化した“ジャスミン”を演じるにふさわしい個性とカリスマを備えた彼女は、今、映画界はもちろん世界を魅了し始めている。快進撃を続ける彼女の素顔とは?

ガイ・リッチー監督をも虜にする、天性のカリスマ。

Photo: Alasdair McLellan Stylist: Sara Moonves

ディズニーアニメの名作のリメイクとなる実写版『アラジン』で、ヒロインのプリンセス・ジャスミン役を射止めたのは、26歳になったロンドン出身の女優、ナオミ・スコットだ。そのナオミとのインタビューが始まる数分前、この作品のメガホンを取ったガイ・リッチー監督から電話がかかってきた。私は何事かと身構えた。リッチー監督は決して、人をべた褒めするタイプではないが、ナオミの話となると、口をついて出るのは手放しの賛辞ばかりだ。「ナオミは性格も良く、才能もすばらしい。その魅力は尽きることがないね」と監督は力説する。さらに彼女の天性のカリスマについては、「宇宙にとどろくほどだ」との例えが飛び出した。

これほどの賞賛を聞いたあとだっただけに、この日の午前中、ウエスト・ハリウッドのとあるレストランでナオミと待ち合わせたときには、がっかりしてしまうことを覚悟していた。「彼女の魅力が宇宙にとどろくほどではなく、せいぜい太陽系レベルだったら?」などと考えていたのだ。そんな中、白のトップにかっちりしたブーツを合わせた彼女が登場し、私たちは店の隅にあるボックス席に席を取った。このあとのレストランでのふるまいを見て、リッチー監督があれほどまでに彼女を絶賛した理由が、私にもすぐわかった。

ナオミはレストランの女主人からウエイター、さらにはベビーカーに乗せられた通りすがりの赤ちゃんまで、会う人すべてを次々と魅了していった。さらに朝食を食べ終わるころには、私の携帯電話を手に、幼い私の姪や甥あてのビデオメッセージを自ら録画してくれるというサービスぶりだった。『アラジン』の王女ジャスミンから直々に、子どもたちに呼びかけてくれたというわけだ(しかも、これは彼女からの提案だった)。もちろん、たいていの俳優は1、2時間ほどの間、愛想よくふるまうことなどお手のものだ。彼女にとっても、これはそうしたファンサービスの一環なのかもしれない。

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とはいえ、11月に全米公開される『チャーリーズ・エンジェル』の新シリーズで、クリステン・スチュワートと共演するナオミの評判は高まるばかりだ。特に彼女が、俳優が果たして自分の天職なのか、いまだに決めかねているという事実を考えると、これほどの賞賛を集めていることは驚くべき話だ。シンガーソングライターなど、他ジャンルの活動でも注目を集めている彼女だが、その多岐にわたる才能や情熱の対象は、以前なら一貫性がないと批判されていたかもしれない。

だが、自分の世代では、こうしたスタイルが当たり前になると、彼女は楽観的に考えている。敬虔なキリスト教徒で、インド系の血を引くイギリス人で、サッカー選手を夫に持ち、自作曲のプロモーションビデオを自ら撮影し、イギリス人ラッパーのプロジェクトではプロデューサー役を務める、それがナオミだ。「私はいろんなものがミックスされた存在」と、彼女自身もそのことに自覚的だ。

「口封じには屈しない」という歌は、今、とても大きな意味を持つメッセージなの。

(C) 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

だが、そんな多才なナオミにとっても、プリンセスはまったく無縁の存在だった。それだけに、ロンドンで行われた『アラジン』の第一次オーディションを通過したとの連絡を受けたときには、この役を射止めるためには戦略が必要だと考えた。そこで彼女はその足でトップショップ(TOPSHOP)のオックスフォード・ストリート店に向かい、花柄のワンピースを買い求めた。ボーイッシュだと自認するナオミのワードローブには、そうしたタイプの服は一着もなかったからだ。「ライトブルーのワンピースだったけれど」と彼女は振り返る。「その後、二度と着ることはなかったわ」

その後、脚本の読み合わせやキャストとの顔合わせ、アラジン役のメナ・マスードとのスクリーンテストを経て、ついにナオミはジャスミン役を射止めた。こうして、数カ月にわたり、数百人の候補が浮かんでは消えた王女ジャスミン役探しに終止符が打たれたのだった(ジーニー役をウィル・スミスが演じることは、早い段階で決定していた)。「配役が決まった後、最初のリハーサルには、ナイキ(NIKE)のトラックスーツを着ていったわ」と、ナオミは振り返る。「『これが本当の私よ──ハハハ、ひっかかったわね!』って」

ナオミは製作スタッフとともに、かなりの時間を費やしてジャスミンのキャラクターを掘り下げた。アニメ版ではあらゆる意味で「二次元」の存在だったジャスミンに、奥行きを与える必要があったからだ。アニメ版が公開された1992年であれば、因習を打ち破り、真に愛する相手との結婚を選ぶジャスミンは、強い意志を持つヒロインと評価されたかもしれない。だが、2019年にこの作品を実写化するにあたっては、ジャスミンにさらなる人間味を与え、国を率いるリーダーとしての側面を強調しなければならない──それはこの役を演じるナオミ自身の実感でもあった。

そうしたことから、実写版では、王女ジャスミンが悪の化身であるジャファーに立ち向かい、自らが統べる王国の自由を守るという、新たなストーリーが追加された。「ディズニーと、ガイ(・リッチー監督)、プロデューサーがこの役柄に求めるものが一致したということね」とナオミは説明する。「だから私もワクワクして、『この役をモノにしなくちゃ』という気持ちになったわけ」

実力派シンガーのナオミが、社会を映す、曲を歌う意義。

(C) 2019 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

リッチー監督も、ナオミに初めて会ったときのことを振り返ってくれた。その時点で、彼女は何年も前から活動を続けるシンガーで、自作の曲を収録した3枚目のEPも完成間近だったが、監督はそのことをまったく知らなかった。だが、話しているうちに、彼女のたぐいまれな音楽のセンスに感じ入ったという。彼女の才能をもってすれば、アニメ版『アラジン』の名曲「ホール・ニュー・ワールド」を歌い上げるだけにとどまらない、独自の持ち味を発揮してくれるだろうと気づいたというのだ。

実写版『アラジン』のサウンドトラックには、オリジナルのアニメ版で作曲を担当したアラン・メンケンによる新曲が収められている。今回、メンケンは『ラ・ラ・ランド』の楽曲の作詞で名を上げた2人組、ベンジ・パセク&ジャスティン・ポールとタッグを組んだ。こうして王女ジャスミンは彼らから、その新たなキャラクターを象徴する歌、その名も「スピーチレス」を与えられた。

「簡単に言うと、これは彼女の『私は口封じには屈しない』という宣言を歌にしたものね。そして、みんなわかるだろうけれど、これは今、とても大きな意味を持つメッセージなわけ」とナオミは言う。「私がみんなのきっかけになろう──あなたが声を上げれば、私も声を上げられるかもしれないのだから、という歌ね」

ナオミのシンガーとしてのキャリアは、教会で歌っていた子どものころにまでさかのぼる。10代になると、SFドラマシリーズの「TERRA NOVA ~未来創世記」や、ディズニー・チャンネル向けのオリジナル映画『レモネード・マウス』などに出演した(これまで演じた中で一番大きな役は17年の映画『パワーレンジャー』でのピンク・レンジャーだった)。

こうした女優としての実績がありながら、歌手やソングライターこそ自分の進むべき道との思いは、常に彼女の中にあった。音楽界での成功は、今でも彼女の目標のひとつだ。「私は知る人ぞ知るアーティストで収まるタイプじゃない」とナオミは自信を見せる。「タイミングさえ合えば、大きく成功できる。その資質が、自分にはあると思っているから」。ジャンル的には、彼女はメアリー・メアリーやカーク・フランクリンといったアーティストに代表されるゴスペルポップに影響を受けてきた。

だが、最近の曲はよりR&B色が強く、日曜日の朝に教会の礼拝でかかるタイプの曲ではなくなっている──さらに言えば、ディズニー映画のサウンドトラックともひと味違う。例えば昨年ナオミがリリースしたシングル「ソー・ロウ」は、見かけの華やかさに目がくらんだ元恋人を嘆く内容だ(「『隣の芝生は青い』って習わなかった?/LAだって甘いところじゃない/夢見る人で満ちているだけ」)。さらには今年中に、フル編成の聖歌隊をバックに、少なくとも1曲をレコーディングする計画だという。

牧師の両親のもとに育ち、サッカー選手の夫と暮らす。

16歳の時に教会で出会い、2014年に結婚した夫で、イプスウィッチ・タウンFCに所属するプロサッカー選手のジョーダン・スペンスと。『アラジン』のプレミアイベントでツーショットを披露。 Photo: Getty Images

ナオミの両親はともにロンドン郊外にある教会で牧師を務めている(母親はインドからウガンダに亡命し、さらにイギリスに移り住んだ一族の出身で、父親はイングランドで生まれ育った)。「『牧師の子ども』と聞くと、いろいろなイメージが頭に浮かぶでしょう?」と彼女は言う。しかし、両親のキリスト教に対する姿勢は、そうしたステレオタイプほど厳格ではなかったという。「結局、本当に大事なのは、質問を受け入れるオープンな姿勢があるかということ──私なら、誰かに疑問を封じられたら、かえって質問しちゃうけど。『うーん、これって何かおかしくない?』って思うから」

ナオミによれば、両親は彼女に対して信仰を押しつけることはなく、自分で信じるべきものを見つければいいという態度だったという。そのおかげで、彼女の信仰心はかえって強くなっただけでなく、信じるものが違う相手とも共感を持って接することができるようになったとのことだ。「ええ、確かに私には支えになる信仰がある。でも、すべてを知っているわけではないし、何かしら問題を抱えているのはみんな同じ」と彼女は言う。

彼女が16歳の時に、将来夫となるサッカー選手のジョーダン・スペンスと出会ったのも、教会でのことだった。ジョーダンは今、イングランドのイプスウィッチ・タウンというチームに所属し、右サイドバックとしてプレーしている。14年に結婚した2人は、音楽関係のプロジェクトにも一緒に取り組んでいる。そのひとつが、イギリスのラッパー、ニック・ブリューワーのミュージックビデオだ。2人はこのビデオの制作と監督を共同で手がける予定だ(ナオミは今のところレーベルとは契約しておらず、自由に活動できる今の姿が好みだという)。

だが今、ナオミのもとには続々と映画出演のオファーが舞い込んでいるため、夫婦のスケジュール調整は容易ではない。『 チャーリーズ・エンジェル』の新シリーズで監督を務めるエリザベス・バンクスは、16年に『パワーレンジャー』の撮影現場でナオミと出会い、3人のエンジェルの一人、エレナにぴったりだと白羽の矢を立てた。キャスティングが始まると、映画のスタッフはナオミのマネージャーに連絡を取った。

だが、ナオミがジャスミン役に抜擢されたばかりだったことは知らなかったという。「向こうは"それが、ナオミは今『アラジン』に出演しているんです、失礼しますね!"という感じだったわ」と、バンクスは振り返る。幸い、『 チャーリーズ・エンジェル』の撮影開始が予定よりも遅れたおかげで、バンクス監督はナオミをロンドンでの読み合わせに招くことができた。

プリンセスを演じるのにふさわしい女優だと証明する必要があった『アラジン』のときと違い、こちらの作品ではナオミは戦略を練る必要もなかった。「私が探していたのは、どこにでもいる感じの女性だったの」と、バンクスはキャスティングの狙いを語った。「隣の家に住んでいそうな、親近感の持てる女の子。映画を観た人が『あの子がエンジェルになれるなら、私だってなれるかも』と思えるような」

このロンドンでの読み合わせの後、映画会社の幹部が彼女のオーディション映像を40秒ほど見て、ゴーサインを出した。撮影が始まると、バンクス監督は自分のあらゆる要求に応えるナオミの才能に舌を巻いた。コミカルな演技に慣れたベテラン俳優でさえまごつくような即興シーンでも、ナオミは難なくこなしたという。「これから公開される作品を観れば、ナオミの演技の幅広さにみんな驚くわ。今年は彼女にとって大きな飛躍の年になるはず」と、バンクス監督はナオミの才能を賞賛する。

スターダムを駆け上がるナオミが立ち向かう現実。

Photo: Alasdair McLellan Stylist: Sara Moonves

今のところ、ロサンゼルスでもロンドンでも、道行く人に気づかれることなく街を自由に歩き回れるナオミだが、最近ではスターダムにつきものになっている、容赦ない詮索の目にさらされ始めている。『アラジン』のキャスト詳細が発表されてから数時間後にはすでに、ナオミが中東の血を引いていないことに苦言を呈する、中傷めいた投稿がツイッターに現れ始めた(映画の舞台は、アグラバーという架空の街だが、初期の脚本ではバグダッドとされていた。またストーリーは「アラビアン・ナイト」とも呼ばれる『千夜一夜物語』のエピソードを下敷きとしている)。

だがナオミは、こうした声にあえて反撃せず、沈黙を貫いた。複数の民族にルーツを持つがゆえに、彼女はこれまでも、「この役を演じるには白人に近すぎる」あるいは「白人らしさが足りない」といった評価をさんざん受けていたのだ。「私が責任を負うのは演じる役柄について」と彼女は断言し、さらに『アラジン』実写版のキャストの多様性を誇りに思うと言い添えた。

とはいえ、ソーシャルメディアの世界では、ターゲットになった人物にさまざまな誹謗中傷のコメントが投げつけられる傾向があり、お人好しを自認するナオミはこうした匿名コメントを無視しきれず、困惑しているという。「大変なの、ほんとに」と彼女は言う。「自分についての人々の反応を見るのに、エゴサーチをすることなんてない、なんてウソを言うつもりはないの。そんなことを言う人はみんなウソつきよ! だから、自分を鍛えないと。(嫌なコメントを)見ないようにするのは、一種の修業ね」

バンクスは、『パワーレンジャー』の撮影現場で最初にナオミの演技を見たときの印象が忘れられないという。当時、彼女はまだ20代前半だったが、既婚者であるからなのか、大人のオーラを放ち、共演していた若い俳優たちとは一線を画す存在だったそうだ。だがナオミ自身は、「大人っぽい」というバンクスの評価にはあまり実感がないようだ。

「私は未完成」と彼女は自らを評価する。「時にはミスをしたり、失言をしたりすることもある。自分のそういうところは私が一番よくわかっている。いつも正しい選択ができるわけでもないわ」。でも今は、「正直に、自分らしさを大事にする、今のやりかたを続けていくつもり」だと語ってくれた。

Text: Christopher Bagley