「ファッション界のアカデミー賞」と称される、年に一度のファッションの祭典の開催まで、ついに一ヶ月を切った。祭典とはいえ、メットガラは単なるパーティではない。メトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートの資金調達を目的として1995年に始まった、アメリカ版『VOGUE』編集長のアナ・ウィンター主催のファッションの展覧会のオープニング・イベントだ。
同インスティテュートは、メトロポリタン美術館の中で唯一、自らの資金で活動を維持する必要がある学芸部門。ゆえに、メットガラはもっとも重要な資金源だ。加えて、デザイナーたちにとっては、自身の作品を世界に発信する最高の機会でもある。
「Heavenly Bodies:Fashion and the Catholic Imagination(天国のボディ:ファッションとカトリックのイマジネーション)」をテーマに、宗教とファッションの関係を探った2018年の展覧会は、コスチューム・インスティテュート史上最高の訪問者数を記録し、メトロポリタン美術館の歴史においても第3位という快挙を成し遂げた。過去には、ファッションにおけるテクノロジーの役割を探った「手仕事×機械:テクノロジー時代のファッション(Manus x Machina: Fashion In An Age Of Technology)」、デザイナー、川久保玲の破壊的な創造性を讃えた「川久保玲/コム デ ギャルソン:間の芸術(Rei Kawakubo/Comme des Garçons: Art of the In-Between)」などが、テーマに掲げられている。
今年のテーマは?
第71回目となる2019年のテーマは、「キャンプ:ファッションについてのノート(Camp: Notes on Fashion)」。これは、作家スーザン・ソンタグが1964年に刊行したエッセイ『「キャンプ」についてのノート (Notes on ‘Camp’)』にちなんだもので、ソンタグは本作の中で「キャンプの要素は、不自然なもの、技巧と誇張を愛する感性だ」と定義している。今年は、「皮肉」、「ユーモア」、「パロディー」、「模倣」、「技巧」、「芝居がかったもの」、「誇張」といったキャンプの要素が、いかにファッションに表現されてきたかを掘り下げる展覧会になる予定だ。
コスチューム・インスティテュートの主席キュレーターであるアンドリュー・ボルトンは、今年のテーマについて次のように語っている。
「ファッションは、キャンプの美学を伝えるためのもっとも明白で永続的なパイプライン。今年の展覧会は、ソンタグの『「キャンプ」についてのノート』の概念を効果的に示しながら、継続的であり絶え間なく進化するファッションに、いかにキャンプの美学が影響してきたかを、クリエイティブかつ批判的に対話するきっかけとなるだろう」
展覧会では、ファッション、彫刻、絵画など、17世紀から現代までに制作された約175点の作品が展示される予定で、ルイ14世やルイ15世の時代のヴェルサイユ宮殿や王宮、「ダンディー」という人物像、19世紀後半から20世紀初頭のヨーロッパやアメリカのクィア文化などにスポットライトが当てられる。
今年の司会やゲストは?
今年のメットガラで司会を務めるのは、主催者のアナ・ウィンターに加えて、レディー・ガガ、アレッサンドロ・ミケーレ、ハリー・スタイルズ、セリーナ・ウィリアムズ。開催は、例年通りNYのアッパーイーストサイドにあるメトロポリタン美術館を会場に、5月6日(現地時間)。レッドカーペットにゲストたちが到着しはじめるのは、午後7時ごろの予定(日本時間の5月7日午前8時ごろ)だ。
ゲストリストはイベント前夜にならないと明かされないが、過去には、ビヨンセと妹のソランジュ・ノウルズ、ヒップホップトリオのミーゴス、女優のプリヤンカー・チョープラーなど、世界中のセレブリティたちが駆けつけた。デザイナーらは彼らのミューズと出席することも多く、先日挙式をあげたばかりのマーク・ジェイコブスはケイト・モスと、ニコラ・ジェスキエールは「ゲーム・オブ・スローンズ」の女優ソフィー・ターナーと、そして、リカルド・ティッシはマドンナとともに現れた。
メットガラの醍醐味といえば、もはや仮装大会と言っていいほどのセレブたちのスペクタクルな装い。昨年は、巨大な羽を背負って大天使に扮したケイティ・ペリーにジャンヌダルクを気取ったゼンデイヤ、また、司会を務めたリアーナは、メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)によるゴージャスな法王スタイルなど、宗教とファッションという扱いづらいテーマをめいめいに解釈した着こなしで、私たちオーディエンスを楽しませてくれた。今年のテーマは多様な解釈が生まれそうだから、彼らのさらにパワフルになった装いに期待しよう。