ニューヨーク州アンドリュー・クオモ知事は8月10日(現地時間)の記者会見で、自身に対する複数のセクハラ疑惑を調査した報告書の発表を受けて辞意を表明した。この報告書は、ニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームズによる5カ月間の独立調査の結果であり、クオモが11人の女性(9人の現職・元女性州職員を含む)に対して、望まない接触や不適切な発言をしていたことが詳細に記されている。また、クオモの警護担当であった州警察官の告発、そしてクオモと彼のスタッフが告発者の一人に報復しようとした証拠も含まれている。
クオモは辞任する際にも、意図的に誰かを不快にさせたことはないと主張。この疑惑に対して自己弁護し、「私ができる最善の方法は、身を引き、政府が統治に戻ることです」と述べた。彼の後任に就くのは、民主党のキャシー・ホークル副知事である。ニューヨーク州初の女性知事として歴史に名を残すこととなるホークルは、これまでも女性の健康と安全を提唱してきた。
ホークルは、報告書が公開された直後に声明を発表し、クオモの行動を非難。「司法長官の調査で、知事が複数の女性に対し不快で非合法な行為を行なっていることが明らかになりました。私はこの事実を明らかにした女性たちを信じ、彼女たちが名乗り出た勇気を賞賛します」と述べている。
これまでは陰に隠れた存在。
2015年に副知事に就いてから6年以上の間、ホークルは目立たない存在であったと言っても過言ではないだろう。バッファロー出身で62歳の彼女は、報道で引用されることはほとんどなく、2018年の選挙戦でも静かな存在だった。同年11月6日、「ニューヨーク・タイムズ」紙が、クオモが州知事として3期目の当選を果たし、カーステン・ギリブランドが連邦上院議員として2期目の満期で当選し、レティシア・ジェームズが司法長官として初当選したと発表した際も、ホークルが州副知事に再選されたという事実にはまったく触れられなかった。
1984年にカトリック大学で法学博士号を取得した後、ホークルはニューヨーク州選出の下院議員ジョン・ラファルスの法律顧問および立法補佐官として政治家としてのキャリアをスタートさせる。その後、40年以上にわたってニューヨーク州の政治に関わり、大きな影響力を持っていた故ダニエル・パトリック・モイニハンの上院議員補佐官を務める。1994年には、バッファローの南に位置するニューヨーク州エリー郡のハンブルグ町議会議員に選出され、2007年にはエリー郡の事務官に任命された。
2011年、クリストファー・リー下院議員が、シャツを着ていない自らの半裸写真を女性に送りつけたことがインターネット上で公開され、辞職したために空席となった。ホークルは下院議員の特別選挙で勝利し、伝統的に共和党が多かったニューヨーク州北部の議席をひっくり返した。この際、当時のジョー・バイデン副大統領が祝福の電話をかけるなど、民主党員の間で彼女の知名度が高まった。
しかし2012年の総選挙では、さらに保守的になった再編成地区(ニューヨーク北部)からホークルは出馬した。この際、元エリー郡の行政官であるクリス・コリンズに下院の議席を奪われ、敗北する結果となった(その後、2019年にコリンズはインサイダー取引の罪を認め、最終的に辞任した)。
2014年、当時のニューヨーク州知事のロバート・J・ダフィーが政界からの引退を表明し、2期目を目指さないことを発表した。その際、クオモはホークルをランニングメート(副知事候補・伴走者)に指名し、ふたりでニューヨーク州知事選に挑んだ。
共和党のロブ・アストリノ候補との厳しい再選争いに直面していたクオモは、ニューヨーク西部の基盤を強化したいと考えていた。そのエリアに強かったホークルは、クオモにとって最適な候補者と考えられたのだ。
さらに民主党の州知事、司法長官、会計検査官の公認候補者の全員がニューヨーク市出身の白人男性で占められていたため、クオモはホークルが性別や地理的な面でも多様性をもたらしてくれることを認識していたのだろう。二人は2014年11月に54%の得票率で勝利した。
4年後、ホークルの再選には、ニューヨーク市議会議員を3期務めた民主党のジュマーン・ウィリアムズが挑戦してきた。その際に「ニューヨーク・タイムズ」紙は、クオモがホークルに下院議席への出馬を勧め、彼女を公認候補者一覧から外そうとしたという噂を報道した。最終的には、ホークルは公認候補者に残り、選挙には2対1の差で二人は共和党の対抗馬に圧勝した。
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ホークルは副知事として、女性の健康と安全を推進してきた。その一環として、大学構内での性的暴行の撲滅を目的とした「イナフ・イズ・イナフ(もうたくさんだ)」法を制定。これは州内の大学に対し、「性的行為をする際に、すべての参加者が自発的に合意し、そして相互にセクシュアル コンセント(性的同意)を交わすこと」を求めている。
また、2006年にホークルは自身の母と叔母とともに、ニューヨーク州バッファロー郊外に家庭内暴力(DV)の被害者のための一時的な避難施設「キャスリーン・マリー・ハウス」を設立した。このように女性の安全を守るイニシアチブに率先的に加わってきたホークルは、クオモに対する2つ目のセクハラ疑惑が浮上したとき、独立調査の結果を支持する声明文を発表した。「全員の声に耳を傾け、それぞれの意見を真剣に受け止めるべきです。私は独立調査の結果を支持します」
歴史の新章に期待。
ホークルが副知事に務めた6年間の報道によると、彼女はクオモの派閥に属していない。そのため、立法面でもあまり影響力がないのではないかと思われていた。しかし、副知事の地位は主に儀礼的なものではあるものの、何らかの影響がないわけではない。
2018年のニューヨーク州知事選で、ウィリアムズに勝利したホークルを報道した「ニューヨーク・タイムズ」紙の記事は、副知事の役割についてこのように述べている。「(この役割は)ホークルを知事の次の立場に置くものである。2008年、エリオット・スピッツァー知事が買春スキャンダルで辞任した後、副知事のデヴィッド・パターソンが就任した」。パターソンの昇格は歴史的な出来事で、彼はニューヨーク初の黒人知事となった。今度は、クオモの一連の報道がホークルを女性初のニューヨーク州知事に押し上げ、皮肉にも政治的なスキャンダルが再び歴史を動かす結果となった。
Text: Stuart Emmrich and Michelle Ruiz
From VOGUE.COM
