FASHION / TREND&STORY

ファッション業界が今すぐやるべき5つのこと。【サステナビリティ最前線】

バズワードのように頻繁に耳にする「サステナビリティ」という言葉。しかし、ある統計によると、ファッション業界の環境への取り組みは減速傾向にあるという。ではどうすべきか。ブランドのサステナビリティ担当や専門家たちに、状況を大きく変革するために必要な5つのポイントを聞いた。

ルイ・ヴィトン2019-20年秋冬コレクションより。Photo: GoRunway

ダイバーシティーやジェンダーギャップなどに並んで、サステナビリティはあらゆる業界でもっとも謳われているバズワードの一つだ。2030年を一旦のゴールとするSDGsの目標実現に向けて、誰もがアクセルをぐいっと踏み込んでいる状態であることは確かだが、それでも、まだ具体的な施策は十分とはいえない。

もちろん、ファッション業界も例外ではない。世界全体の二酸化炭素排出量のうち、8%以上がファッション業界からの排出であり、それは航空業界と運送業界の合計を越える数字だ。ファッション業界のサステナビリティを牽引する企業が全社をあげて改善に向かって努力していることは事実だが、それでも、グローバル・ファッション・アジェンダが5月に公表した報告によると、業界全体としての環境への取り組みは、実のところ減速傾向にある。歩みを止めては絶対にいけない。グローバル・ファッション・アジェンダの代表兼CEOのエヴァ・クルーゼは、こう訴える。

「必要なのは、ファッション業界が全力で取り組み、不可能とさえ思える大胆な目標を掲げることです。現時点では、スピード感が足りていない。ではどうすべきか。政府による規制で、その速度を上げることはできるはずです。二酸化炭素や水が課税対象にすれば、ファッション業界の大きな部分により迅速な変革をもたらせると思います」

デザイナーで運動家のキャサリン・ハムネットも、クルーゼ同様にファッション業界全体の変革を強制する法の施行を望んでいる。着想の原点は、アメリカのアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員が推し進めた一連の政策だ。

「私が提案しているのはグリーン革命です。ファッション業界は、良き未来を実現するための政治的な力を発揮できるはずなのです」

今年5月に開催されたコペンハーゲン・ファッション・サミットに登壇した、デザイナーのキャサリン・ハムネット。Photo: Lars Ronbog/Getty Images for Copenhagen Fashion Summit

グッチ(GUCCI)バレンシアガ(BALENCIAGA)を有するケリンググループや、ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)ディオール(DIOR)ジバンシィ(GIVENCHY)を傘下に収めるLVMHグループといったファッション業界のキープレイヤーたちは、持続可能性のための目標を独自に設定している。そこには、二酸化炭素の排出量の削減、サプライチェーン全体の水準の向上、水の使用量や廃棄物の削減などが含まれている。

「我々には責任があります。私たちの取り組みは、LVMHにだけでなく、サプライチェーン全体にプラスの影響をもたらすものです」

LVMHの「LIFE」プログラム(LVMH's Initiatives for the Environment=LVMHによる環境のためのイニシアチブ)についてこうコメントしたのは、同社で環境ディレクターを務めるシルヴィー・ベナールだ。また、ケリングの持続可能性担当最高責任者を務めるマリー=クレール・ダヴューは、こう付け加える。

「野心的、かつ、数値化可能な目標を設定することが大切です。ファッション業界版のグリーン・ニューディール政策が施行されれば、どのブランドも、持続可能性を戦略の核にせざるを得なくなるでしょう」

では、より持続可能な未来をつくり上げるために、すべてのファッションブランドがまず注力すべきこととはなにか。5つの核となる事項と、すでに実現している革新的な先例を以下に紹介しよう。

1. カーボンニュートラルの実現。

Photo: 123RF

すべてのファッションブランドは、二酸化炭素排出量を削減し、気候変動防止の一翼を担わなければならない。

ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)アディダス(ADIDAS)H&Mを含む43のファッションブランドが署名している国連の2018年版「気候変動防止のためのファッション業界の綱領」は、2030年までに二酸化炭素排出量を30%削減し、2050年までに正味のゼロエミッションを目指す、との目標を各社に課している。

同綱領に署名しているケリングはさらに一歩踏み込んで、2025年までに二酸化炭素排出量を50%削減するとの目標を掲げている。温室効果ガスによる影響をサプライチェーンの原点までさかのぼって考慮する必要に関して、前出のダヴューはこう語る。

「我々は、牧畜からブティックまで、すべての場面での二酸化炭素排出量の削減を目指しています」

現在、ケリングが使用するエネルギーの3分の2はグリーンエネルギーとなっており、同社が排出する二酸化炭素を相殺するためのプログラムも導入している。

しかし、ファッション業界のサステナビリティ向上に向けて活動するファッション・レボリューションは、二酸化炭素排出に関して、さらなる透明性を求めている。同団体の2019年の報告書によると、ファッション業界のトップ200ブランドのうち、わずか55%しか自社ウェブサイトで年間の二酸化炭素排出量を公表していない。また、ファッション業界全体の二酸化炭素排出量の55%を占めるのはサプライチェーンであるにもかかわらず、サプライチェーンの排出量を公表しているのはたった19.5%にとどまっている。国連目標を達成できなかったブランドに対する罰則は今のところ設定されておらず、全社に課される二酸化炭素排出税を導入すべきだとの意見が上がっている。

2. サプライチェーンの改善。

キャサリン・ハムネットがデザインした「グリーンニューディール」Tシャツ。Photo: Courtesy of Katharine Hamnett

各ブランドは、自社のサプライチェーンを精査し、よりグリーンな未来を達成するとともに、使用されている素材や衣類の製造法に関する透明性とトレーサビリティーを向上させなければならない。

問題の1つは、世界中の製造者を規制する包括的な組織がまったく存在していないこと。

「この問題を解決できる唯一の方法は、国連のような組織が基準を設定し、その基準に届かない場合には罰則を導入することです」

こう語気を強めるのは、ザ・ベア・スカウツの創設者ディオ・クラザワだ。クラザワは、Matchesfashion.comやマーティン・ローズなどと協力し合い、持続可能性に関する対策の向上をサポートしてきた。

一方、ハムネットは、ヨーロッパ外の製造者の水準向上を目的に、化学物質の使用規制を含め、欧州連合での規制の導入を求めている。

「欧州連合経済圏内と同じ水準を満たす製品しか、欧州連合経済圏外からは輸入できないように法整備すれば、ハードルを上げることができますから」

LVMHは原料に関して、2020年までに「最高の水準」を自社サプライチェーンの70%に適用し、2025年までには全域に適用できるよう全力を尽くしている。ベナールは、その取り組みをこう説明する。

「我々は、ファストファッションのブランドよりもサプライチェーンのクオリティを向上させやすい立場にいます。すべての原料に対して、最高基準を適用した証明書を発行するか、もしくは、科学者と共同で自社基準を設定しています。皮革については、すでにこうした対策を実施しています」

サプライチェーンの持続可能性を判断する上では、トレーサビリティーも重要な要素だ。LVMHが5月に発表した自社プラットフォーム「AURA」では、消費者は製品の履歴をブロックチェーン技術を使って追跡することができる。一方のケリングは、2025年までに自社のすべてのサプライチェーンの透明化を目指している。

クラザワは、すべてのファッションブランドは、自社のサプライヤーや製造業者と緊密な関係を持つ必要があり、「改善できるのはどこか、向上できるのはどこか」と考える必要があると呼びかける。

「ブランドや製造業者のあいだでもっと協力し、推進していくべきです。今なされている努力の多くは、第三者を通してのものばかりだからです」

3. 未来の素材への投資。

H&Mのコンシャスコレクションより。右は、Piñatexによるパイナップルレザーを用いたジャケット。Photo: Courtesy of H&M

環境に悪影響を与える素材の代替を見つけることが急務だ。それは、ビジネス的にも理にかなっている。パイナップルの葉の繊維を用いた革の代替素材であるPiñatexがその好例だ。

「世界では、パイナップル関連で1,300万トンもの廃棄物が発生しています。仮にそのすべてを使うことができれば、廃棄物だけを使って数百万メートルもの人工皮革を生産できるのです」

パイナップル素材をベースにブランドを立ち上げたカルメン・ヒホーザ博士はそう語る。同ブランドは、ヒューゴ・ボス(HUGO BOSS)やH&Mなどともコラボレーション実績がある。

このように、未来の素材への投資は広がっているが、その速度は決して速いとはいえない。そんな中、シャネル(CHANEL)は最近、環境重視スタートアップである「Evolved By Nature」の少数株主となったことを発表した。同スタートアップは、純粋で自然なシルクを液体として製造することに成功したことで知られている。提携を発表するにあたり、シャネルはこうコメントしている。

「今回の提携によって、シャネルは革新的な素材を手にし、さまざまな繊維素材の物的特性や光学的特性を向上させる可能性を探ることができます。それは、極めて高い品質で、独特の性質を持つ新素材をつくり出し続けるというシャネルの理念とも共鳴するものです」

PiñatexやBolt Threads(蜘蛛の糸の人工的な生成に成功した企業)のような新たな織物企業はまだ事業拡大の途中であり、こうした企業が生産する繊維素材の使用が主流となるまでには、まだ少し時間がかかりそうだ。

4. 新規ビジネスモデルの構築。

アディダス バイ ステラマッカートニー(ADIDAS BY STELLA McCARTNEY)が発表した「無限のフーディー」。Photo: Courtesy of Stella McCartney

すべての製品がリユースできたり完全に分解可能であるような、循環型ファッションを構築できれば、大量生産・大量消費に頼る現在のビジネスモデルは崩壊の危機に瀕するだろう。

2017年、グローバル・ファッション・アジェンダは、2020年までに達成すべき循環性に関する事項を打ち立てた。同団体はそこで、各ブランドに循環型ビジネスモデルに移行するよう呼びかけている。クルーゼの見立てでは、ファッション業界がもっと循環型思考に基づいていれば、現在業界が抱えている環境面での問題の多くは解決されるはずだ。

事実、この分野では大きな進展がある。ステラ・マッカートニーは最近、アディダスと協業し、古いコットン素材を液化して新たな衣服に生まれ変わらせるというNuCycle技術を用いて生産された「Infinite Hoodie」を発表した。つまり、これによって何度でもリユース可能な素材を生み出すことができるのだ。

循環型ファッションの議論においてもう一つ注目されているのは、リユースやリセール市場だ。つまり、販売後の製品に対して各ブランドがこれまで以上に責任を持てば、廃棄を減らすことができる。例えば、イギリスとスウェーデンに拠点を置くブランド、バイト ストゥディオズ(Bite Studios)は、今年9月から販売価格の20%で古着を買い戻し、きれいにして再販売したりアップサイクルするというプログラムを開始する。同ブランドのCEOを務めるウィリアム・ラングレンは、このプログラムの意図をこう説明する。

「各衣服の高寿命化を図るだけでなく、弊社製品をご愛顧くださるお客様とのより深い関係を築く狙いがあります」

さまざまなブランドが、それぞれに努力している一方で、現時点で完全な循環型モデルを達成しているブランドはほぼ皆無だ。グローバル・ファッション・アジェンダの最新の報告によると、業界全体では循環性に関して設定した目標のうち、わずか20パーセントしか達成されておらず、進展の歩みはまだ遅いことがわかる。

5. 次世代人材の育成。

プリヤ(PRIYA)の2020年春夏コレクションより。Photo: Courtesy of Priya

ファッション業界の未来をよりグリーンなものにするには、次世代の才能による貢献も必要だ。

「私たちの学生は、気候変動を真に理解している初めての世代です」と語るのは、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションの持続可能ファッション研究センターの代表を務めるディリス・ウィリアムズ教授。また、パーソンズ・スクール・オブ・デザインのファッション学部長を務めるブラク・チャクマック教授は、こう期待を込める。

「次世代の人材は、持続可能性というレンズを通して、ファッションシステムを根本から捉え直そうとするでしょう。そうした捉え方こそ、今必要とされている変革です。それを可能にするために、ファッション業界は、持続可能性を重視している次世代クリエイターへの投資を最優先すべきです」

H&Mデザインアワード2019を受賞したプリヤ・アルワリア(ビンテージや不良在庫の生地を用いるデザイナー)やべサニー・ウィリアムズ(廃棄物から新たな生地を作るデザイナー)といった若いデザイナーたちは、業界に先んじてより持続可能なアプローチをとっている。アルワリアは語る。

「デザインとは、問題解決の手段です。若いデザイナーたちは、単に地球環境に悪影響の少ない方法を見つけるだけでなく、地球環境を改善できる方法を模索しています」

どのブランドも、デザイナーはもちろんすべての社員が持続可能性に全力で取り組む必要がある。LVMHのベナールは、最後にこう結論づけた。

「ブランドには、エコデザインの教育を受けたデザイナー、環境監査についての知識があるバイヤー、環境に好ましくない化学物質に精通している生産責任者が必要です。つまり、この問題の鍵を握っているのは『教育』なのです」

Text: Emmily Chan