薄いメタルフレームはダブルブリッジを備え、レンズは眼窩を覆うようなティアドロップ型が採用されている。アビエーターサングラスは、その特徴から、映画スターや1970年代のグラマーな女性たち、そしてパパラッチの目を逃れようとする多くのセレブたちに愛用されてきた。
このデザインが生まれた背景には、ある問題があった。20世紀初頭、パイロットたちはそれまでよりも高度を上げて飛行機を操縦する必要があったが、毛皮の裏地が付いた分厚いゴーグルなしでは視界を確保することができなかった。そんな中、アメリカ空軍のジョン・マクレディ中佐は、33,000フィート(約10km)の高度で一緒に乗っていたパイロットの目が膨れ上がっていくのを目撃した。ショックを受けたマクレディ中佐は、アメリカの光学機器メーカーのボシュロム社とタッグを組み、最重要課題として、パイロットの目を強烈な太陽光線から守る頑丈なゴーグルをつくることに注力したのだ。
その結果、眩しい光を最小限に抑えて視界を最大限に確保するグリーンのレンズが開発され、これまでのゴーグルとは比にならないほど軽量なサングラスが生まれた。これを提げ、ボシュロムは1937年、のちに広く知られることになるブランド、レイバン(RAY-BAN)を立ち上げた。「アビエーター」と名付けられたこのサングラスは、すぐに一般にも販売されるようになり、ゴルフやフィッシングのようなアウトドアでのアクティビティ向けた新しいレンズとデザインが登場した。
第二次世界大戦が勃発した頃も、レイバンの商品はアメリカ空軍のみならず陸軍においても広く利用され続け、進化を遂げていく。ダグラス・マッカーサー司令官がアビエーターを着用してフィリピンのビーチに降り立った1944年、その姿がアメリカの新聞に掲載されると、人々はこのサングラスの虜になった。
戦後、トレンチコートといったミリタリーアイテムと同じように、アビエーターはファッションの分野で存在感を増していくようになる。それを推進したのが、セレブリティたちだ。白のセットアップに身を包んだエルヴィス・プレスリー、タバコを吸うデヴィッド・ボウイ、ビートルズのポール・マッカートニーと妻リンダ、派手なコスチュームで歌うフレディ・マーキュリー……。当時のスターたちのスタイルには、アビエーターが欠かせなかったのだ。
1970年代以降、アビエーターは先進的な女性たちにも支持された。アメリカのフェミニズム運動の旗手であったグロリア・スタイネムはブルーのレンズを選び、ビアンカ・ジャガーは上品なドレスに硬派なアビエーターを合わせた。デボラ・ハリーは男性ロックミュージックに匹敵するアビエーター愛の持ち主だったし、それは今も変わらない。彼女たちは恐れを知らないアティテュードで、伝統的に男性が着用してきたスタイルに挑戦した。
それにしても、なぜ私たちはこんなにもアビエイターに魅せられるのだろう? アビエーターは、ウェイファーラーやキャッツアイのようなスタイルには見られない、威圧的かつ寡黙なクラシシズムを持ち合わせている。『乱暴者』(1953年)のマーロン・ブランドのような挑発的な態度を示唆することもあれば、『トップガン』(1986年)のトム・クルーズのように超然としたクールさを示すこともある。近年では、ジェニファー・ローレンスが『ジョイ』(2015年)で演じた主人公の強い野心が、彼女のサングラスに表れていた。
今日、私たちが選ぶことのできるアビエーターは、華やかでポップなものから近未来的なものまでさまざまだ。クラシック回帰に沸く2019-20年秋冬シーズンの本命は、1970年代カルチャーにオマージュを捧げたセリーヌ(CELINE)の1本。ほかにも、ジバンシィ(GIVENCHY)やエミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)、エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)、ミュウミュウ(MIU MIU)などが、アヴィエーターへの新しい解釈を提示していた。
空高く舞い上がる飛行機からランウェイ、そしてストリートへ広がるアビエーターは、今シーズンのワードローブに必ず備えておきたいアイテムなのだ。
Text: Rosalind Jana