FASHION / TREND & STORY

インフルエンサーの向かう先。【ファッションの未来はどうなる?Part.3】

インフルエンサーの立ち位置やソーシャルメディアは今後、ファッション業界においてどんな方向に向かっていくのだろうか。NYのマーケティングのプロ、「BPCM」共同創設者のキャリー・エレン・フィリップスは、「いいね」の数字に左右される時代から解き放たれ、人々の信憑性がインフルエンサーの成功に繋がると唱える。 ※【Part.1】【Part.2】はこちらから。
「インスタグラムの数字は次第に意味をなさなくなり、共鳴と信憑性の時代へとシフト」

キャリー・エレン・フィリップス(Carrie Ellen Phillips)「BPCM」共同創設者

コミュニケーションツールとしてだけでなく、今やグーグルのように検索ツールとしても使われ、日常で欠かせない存在となったインスタグラム。その中で今、影響力を持つファッションインフルエンサーとはどういう人なのか?その行方は? NYのマーケティングのプロに聞いた。

──インスタグラムの最新の傾向はどうですか?

キャリー・エレン・フィリップス(以下C) インスタグラムが人気になり始めた頃は、フォロワーの数が多ければ多いほど良いとされていましたが、そのうちエンゲージメント、ライクとコメント数はどれくらいあるかということが注目されるように変わってきました。機能面でも、スワイプアップやクリックしてすぐ購入できるシステムなどが導入されたことにより、ブランド側はいかに早く自社サイトにアクセスさせるかを競うようにもなりました。最近の動向としては、なぜみんながこのインフルエンサーをフォローしているのか、どうして彼らにフォロワーたちがエンゲージしているのかをマーケッターが見るようになってきているという点です。

──その結果、何が具体的に変化しているのでしょう?

 今マーケティングの中でとても注目されているキーワードが、「オーセンティシティ(信憑性)」というものです。インフルエンサーがポストする内容にどれほど真実味があるのか、フォロワーたちが本当に彼らを信奉しているかどうか、ということです。インスタグラムのキャンペーンではもう数字がほぼ意味をなさなくなってきていて、ブランド側もリアリティや信憑性、真実味を帯びたストーリーといった「オーセンティシティ」がインフルエンサーにあるかどうかを見ています。つまり、フォロワーを心から共鳴させることができ、人々をブランドの本当のファンにさせられる影響力のある人を探しているのです。今や皆、スマホを離さない時代なので、イベントよりもこのインスタ上でのコミュニケーションやプロモーションはとても大きなものになってきています。引き続きインスタグラムから受け取れる数字や情報を利用し続けつつも、同時に私たちのようなマーケッターはカスタマーがインフルエンサーにどれくらい真実味を感じているかもリサーチしています。例えばセリーヌ・セマーンというNYベースのアクティビストは、環境や社会問題をファッションに絡めて発信していて個人的にも注目しています。

──SNSのメインユーザーであり、今の消費を担っているZ世代に対しての対策はありますか?

 アメリカでいうと、労働力の約30%を占めている彼らは、ブランドに初めて「目的」を求める世代とも言われています。彼らはパーソナルスタイルを重視していて、モノに「ストーリー」がある必要があります。オーガニックコットンで作られたシャツだから少し高くても買うとか、この靴はフィッシングネットのリサイクルで作られたものなのよ、といったように。(国連気候行動サミットでスピーチをした16歳の)グレタ・トゥーンベリのように、環境問題や格差社会などに敏感なのもこのZ世代の特徴。例えば、水不足は大きな問題だということを、デジタルデバイス上でストーリーテリングする世代なんです。ラグジュアリーブランドもそれを重要視してきているので、彼らにサステナビリティを絡めてどう訴えかけることができるかについて私たちに相談に来ることもあります。

ありのままの自分を愛することを曲にし、絶大な支持を得るラッパーのリゾ。 Photo: Getty Images

──ダイバーシティについてはどうでしょうか?

 ダイバーシティももちろん大きなトピックスのひとつです。ファッション業界は長らく閉鎖的でしたが、それが今変わってきています。肌の色や体型の多様性、ありのままの姿を受け入れて、サイズゼロになろうとしないインフルエンサーたちに注目が集まっています。これもまたオーセンティシティの表れで、注目される大きな要因。インスタのフォロワーも多い黒人ラッパーのリゾなんかはその代表ですね。私には10歳になる娘がいますが、彼女はニキビも気にしていなくて、ありのままの自分に自信があるんです。彼らによる影響かもしれませんね。ニキビひとつで学校を休みたくて家に閉じこもり、スーパーモデルに憧れていた私とは全然違います(笑)。

──最近気になる新しいインスタグラムの使い方はありますか?

 「プロダクトドロップ」ですね。自分のフォロワーに対してDMのように直接的に商品を売る方法です。例えば、「100個バッグを作ったから興味がある人はDMして!」というように、すでに自分に興味を持ってくれている人たちにダイレクトに売るので、素早い反応が得られ、ウェブサイトに載せるよりも効率がいい。特に少量生産のスペシャルなアイテムはすぐに売り切れになったりしていますね。

環境や人権問題をインスタ上で投げかけるセリーヌ・セマーン(@celinecelines) Photo: Instagram/@celinecelines

──今後ファッションはどこへ向かっていくと思いますか?

 ファッションの世界は、今まで以上に地球環境や人類によりダメージを与えない方向へと向かっていくと思います。引き続きラグジュアリーでありつつも、リサイクルやオーガニック素材を使用し、それに対して希少価値をつけるでしょう。マスファッションも、テクノロジーを使って消費者が必要なものを必要な分だけ生産・販売すべきですね。また、大きな消費を生み出す彼らがオーガニック素材などに投資し、その産業を強くサポートしてほしいなとも思っています。

Illustration: Hitoshi Kuroki at vision track Text: Momoko Ikeda Editors: Maki Hashida, Sakura Karugane