FASHION / NEWS

「がんばれミラノ!」──イタリアのファッション業界人が、新型コロナウイルスの影響を語る。

「COVID-19(新型コロナウイルス)」の影響が深刻化するイタリア。ミラノへの出張がキャンセルになったロンドン拠点の『VOGUE』エディターが、ジョルジオ・アルマーニキアラ・フェラーニなど、ミラノ在住のファッション業界人に、今の心境を取材した。

いつもは活気付いている街も、閉鎖後の今はマスクをつけて足早に通り抜ける人々の姿しか見られない。Photo: Getty Images

3月10日の深夜、「COVID-19(新型コロナウイルス)」の感染が拡大するミラノを含むイタリアの広い地域に封鎖措置が実施された。筆者はイギリス在住だが、イギリス外務省がミラノへの渡航制限を勧告したため、翌11日から予定されていたミラノ出張はキャンセルとなった。現地では、イタリア版『VOGUE』と『L'UOMO VOGUE』の次号の撮影を行う予定だったが、私たちは急遽、エディターはじめ撮影関係者たちと自宅からビデオ会議を行い、改めて撮影の計画を立て直すことになった。そして、そのわずか数時間後、イタリアのコンテ首相は移動制限をイタリア全土に拡大した。

この状況下でミラノに接触できる手段は、国際宅配便DHLのみになった。私は早速、ミラノに住む自分の彼女と彼女の家族に、ラテックス製の手袋とマスクを送った。もちろん、彼女やイタリアの友人、同僚とは定期的に連絡を取り合っているが、普段のミラノとはかけ離れた目の前の現実に対する彼らの恐怖や危機感は、こちらまで伝わってくる。高齢者はアパートに引きこもり、人々はできるだけ外出を控えている。やむを得ない場合は、公共交通機関ではなく車で外出しているという。

ファッション業界の人々は、現在実施されているイタリアの制限措置が、「MADE IN ITALY」の服やシューズ、バッグなどの生産や流通に及ぼす影響を懸念している。イタリア版『VOGUE』編集長のエマニュエル・ファルネーティは、こう語った。

「今こそミラノの力が試されている」。

イタリア版『VOGUE』編集長のエマニュエル・ファルネーティ(左)。モデル、アンバー・ヴァレッタ(右)と。

「現時点では、専門家も予測できないほどにあらゆる状況が急速に変化しています。先週までは、世界中が大きな問題に直面してはいるものの、形勢を立て直せばかなり迅速に回復できるという雰囲気でした。私たちも、『ミラノは止まらない(Milano non si ferma)』というメッセージを繰り返しソーシャルメディアを通じて発信していましたが、今は、先週までの状況とは明らかに違います。時間をかけて、収束に向けて前進する必要があります。

あらゆることがいつも通りに進まないことを理解し、この状況下でできることをして、できないことは諦めるという忍耐力も求められています。正直なところ、イタリアにいる私たちは、この厳しい現実にショックを受けて、少し混乱している状態です。経済を回すことは重要ですが、それを支える人々なしには成り立ちません。

今は、健康と安全を何よりも優先するとき。1日でも早くこの事態が収まることを祈るばかりです。私たちミラネーゼには、レジスタンス(抵抗)の精神がある。そして今こそ、その力が発揮されるときだと感じています」

イタリアは1月よりウイルス検査を実施し、いち早く責任ある処置を行ってきた。しかしこの行動が、皮肉にもミラノ、そしてイタリア全土への感染拡大を世界中に印象づけてしまったという指摘も聞こえてくる。1月時点で、イタリア当局はすでにミラノに到着した旅行者の体温測定を実施していたが、この慎重かつ包括的な検査体制が、北イタリアが「COVID-19」のホットスポットであるという認識に繋がってしまったのだ。

さらに、3月8日に掲載された『ニューヨークタイムズ』紙の記事が、ミラノのイメージ悪化を助長してしまった。コンテ首相がロックダウン(地域の封鎖)を要求しているにも関わらず、厳重体制を無視するイタリア人の国民性を問題視した内容だった。イタリア人ジャーナリストのアントニオ・ポルトは、10日の『コリエレ・デラ・セラ』紙で次のように反応した。

「個人の自由を尊重し、制限や影響を与えることなく回復に進むシナリオがあるのか。国が一丸となることが重要な今、これは大きな課題だ。しかしイタリアは、この非常事態を目の当たりにし、国民全員がお互いを助け合っている。新型コロナウイルスと戦うイタリアの姿勢に、世界は目を向けるべきだ」

『ヴァニティ・フェア』の「コロナ特集」。

2020年3月11日に発売されたイタリア版『ヴァニティ・フェア』。

イタリアへの批判が飛び交う中、イタリア版『ヴァニティ・フェア』は3月11日、ミラノの人々を活気づけるべく新型コロナウイルス危機の特集号を発行した。そして、同号をミラノが属するロンバルディア州で無料配布したのだった(ダウンロードも無料)。

本誌のエディター、シモーネ・マルケッティ率いるチームが試みたのは、さまざまな分野で活動するイタリアの文化人に取材して、彼らのミラノへの思いをまとめるというアプローチだった。シモーネはこの号の意図を、こんなふうに記している。

「ミラノや周辺地域、そしてイタリア全土にとって非常に困難な時期に、多くの人々が非常事態に立ち向かっています。私たちは、こうした人々を知名度問わずにまとめて紹介したいと考えたのです。団結することや正しい知識の重要性を訴えたかったのです」

以下に、この『ヴァニティ・フェア』に掲載された64本のインタビューの中から、ジョルジオ・アルマーニミウッチャ・プラダなどの声を引用した。彼らは現在のミラノの状況を理解しながらも、従来のミラネーゼらしい明るさと痛快さ、説得力をもって、問題に対処しようとしている。

「立ち止まる決断こそが真の強さ」──ジョルジオ・アルマーニ。

ジョルジオ・アルマーニは、新型コロナウイルス感染拡大を避けるため、2月のミラノコレクションを無観客で開催した。

「私にとってミラノは、単なる居住地を超えた『私の生き方』そのものです。ここはエネルギーに満ちていて、毎朝が新たなはじまりで、行動する限り不可能など何もないと教えてくれる街。過去にも困難な時代と悲劇に直面してきましたが、その経験からも、ミラネーゼは今、どんな行動をとるべきかを把握しています。

第二次世界大戦後、ミラノは知恵を振り絞って、刻一刻と変化する国民のニーズに素早く応えることに成功しました。今回も同様に、ミラノ、そしてイタリアは回復するでしょう。もちろん、ときには立ち止まることも必要ですが、この『立ち止まる』という決断こそが真の強さであり、ミラノが時代の変化に機敏に反応できることを示しています。そう、時代の変化を武器に変える力こそが、ミラネーゼなのです」

「イタリアは危機を脱せる」──ドメニコ・ドルチェとステファノ・ガッバーナ。

2019年9月に行われた2020年春夏コレクションのフィナーレに登場した、ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE & GABBANA)のステファノ・ガッバーナ(左)とドメニコ・ドルチェ(右)。

「ミラノとロンバルディア地方、そしてイタリアは、新型コロナウイルスの発表後まもなく影響を受けた場所です。そして、世界でも早い段階で緊急事態に直面したからこそ、迅速に対応策を講じることができた。私たちは、イタリアが早急にこの危機から脱することができると信じています」

「これは私たちのレジスタンス」──キアラ・フェラーニ。

2月中旬に行われた2020-2021年秋冬ミラノコレクションに出席したキアラ・フェラーニ

「ミラノと自分の国がこの非常事態に直面していることに、心が痛みます。同時に、祖父母から聞いた戦争中のレジスタンス運動の話を思い出します。注意を払って理性的に行動すれば、危機を脱することができる。私はそう信じています。これは私たちのレジスタンスです。どんな困難にも立ち向かうことができる、ミラネーゼのスピリットを発揮する時です。進めミラノ! 進めイタリア!」

「次世代のために基盤を築くとき」──ミウッチャ・プラダ。

ミウッチャ・プラダミュウミュウ(MIU MIU)の2020年春夏コレクション、フィナーレにて。

「ミラノは私に、誠実に生きること、そして、モラルの本当の意味を教えてくれました。私たちは次世代のために、豊かな基盤を築かなければいけません。それは、私だけでなくミラノ全体の願いであり情熱です。そのような原動力を持つこの街だからこそ、目の前に立ちはだかる困難を乗り越え、明るい未来へ導いてくれることを信じています」

「大切なのは、何が起きたかよりどう対処するか」──レモ・ルフィニ・モンクレール会長兼CEO。

2019年のファッションアワードに出席したモンクレール(MONCLER)会長兼CEOのレモ・ルフィニ。

「歳を重ねるにつれ、人生においてもっとも重要なこととは、何が起きたかよりも、起きたことにどう対処するかだということを知りました。結果を変えるのは、間違いなく一人ひとりの姿勢です。ミラノのクリエイティビティーと変革の原動力は、常に私たちをエネルギッシュで信頼に満ちた未来へと導いてくれました。成功へのアプローチを変える必要はありません。頑張れミラノ!」

Text: Luke Leitch Photos: Getty Images, Courtesy of Condé Nast(Magazine cover of Vanity Fair Italia)