ディオール(DIOR)のメンズ アーティスティック ディレクターであるキム・ジョーンズは今季、65年前に21歳の若さでディオールの後継者となったイヴ・サンローランに着目した。ムッシュ サンローランは、ディオールでのデビュー作となった1958年春夏コレクションで、裾に広がった “トラペーズライン”などを世に送り出し、ブランドを再生することに成功。キムは「メゾンのサイクルは、ファッションのサイクルそのものと同じように、再生と若返りを繰り返します。現在と未来には常に過去が宿り、ディオールも例外ではありません」とコメントしている。
ロバート・パティンソンとグウェンドリン・クリスティーの朗読
パリのコンコルド広場に建てられたショー会場には、巨大なスクリーンが設けられ、俳優でブランドアンバサダーのロバート・パティンソンとグウェンドリン・クリスティーが、今季のインスピレーション源の一つであるT・S・エリオットの「荒地」の詩を朗読する映像が映し出された。同作は20世紀のモダニズム詩の金字塔ともいわれ、第一次世界大戦後の混乱を前衛的な表現で綴られている。キムは難解なこの詩から、現代社会を見つめて、時代の変化や流動性をコレクションに落とし込んだようだ。
ブランドの歴史を再解釈したディテール
ショーは、ホワイトのルックから始まり、ブランドの歴史を再解釈したディテールが目を引く。イヴ・サンローランが提案したマリン アンサンブルをメンズのジャケットとして仕立て、立体刺繍のフラワーモチーフがのせられた。
また「荒地」に描かれるロンドンのテムズ川や、パリのセーヌ川などの大河もコレクションのキーワードに。船乗りを連想させるアランセーターやフィッシャーマンズスモック、レインコートなどが取り入れられた。どれもモダンに洗練されていながら、実用性も備わっている。
マスキュリンとフェミニンの融合
また、マスキュリンとフェミニンの要素を融合させたルックも目立った。トラペーズラインのように裾が広がった台形シルエットのコートや、キュロットのようなショートパンツなど、エレガントな雰囲気。ポンチョのように脇下から手を出すことができるジャケットやニットなどは、凝っていながらも、難しくなりすぎないエフォートレスな印象がある。
イギリスらしいテーラードの要素は、オートクチュールのタイユール(仕立て)で表現された。ゆらゆらと浮遊するテープやチュールのリボンの装飾はドラマチックで、川の流れを彷彿とさせた
ミニマルなボックス型の新作バッグ
バッグは、サンローランがディオールで見せたモダンでミニマルなスタイルを反映し、すっきりとしたボックス型の新作が登場。足もとは、ポケット付きのラバーブーツ、クロコのミドルブーツなどがポイントになった。
フロントローにはBTSのジミンとJ-HOPE
ショーには、グローバルアンバサダーに就任したばかりのBTSのジミンやJ-HOPEをはじめ、エディ・レッドメインやデビッド・ベッカムと息子のクルーズ・ベッカムらセレブリティが来場。またKemioやOUR'sのモーガン蔵人、ローズ、深水光太らの姿もあった。
※ディオール 2023-24年秋冬メンズコレクションを全てをみる。
Photos: Gorunway.com Text: Mami Osugi