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平和や祈りを躍動的なフォルムに込めて──気鋭・岡﨑龍之祐による「RYUNOSUKEOKAZAKI」の世界。【編集長×デザイナー対談 Part.25】

2015年から長きにわたって続いた渡辺編集長とデザイナーとの対談企画は今回で最終回を迎える。ラストを飾るのは、2021年にデビューしたばかりの「RYUNOSUKEOKAZAKI」を手がける岡﨑龍之祐だ。この春に東京藝大を卒業した彼は、デザイン画を描かずに独特の造形美を創り上げる。祈りや平和をテーマに掲げ、ダイナミックなフォルムを描くそのクリエイションに迫る。

──『VOGUE JAPAN』と岡崎さんとの最初の出会いは、渡辺直美さんの撮影(2021年5月号)でした。それまではファッション誌の撮影などで、衣装を貸し出ししたことはありましたか?

担当のスタイリストさんから連絡がきて、それが初コンタクトだったのでとても嬉しかったのを覚えています。衣装の貸し出しは学生時代から少しずつという感じです。たぶん、SNSを通じていろんな方に見て頂いたのだと思います。

──東京藝術大学大学院ではデザイン科を専攻されていたそうですが、多彩なアートに触れられる環境のなかで、ファッションにたどり着いた過程を教えてください。

中学時代から服が好きで、よくファッションショーの動画をみてたんです。当時、ランウェイを歩いているモデルが普段着ではない服を着ていることを不思議に思い、そこに芸術的な美しさや格好よさを感じていました。そこから美術を深く学べるようなところに行きたいと思い、東京藝術大学のデザイン科に入学しました。大学時代はさまざまなアートに触れたり製作もしましたが、やはり根っこにあるのはファッションで、自分はそこで表現していきたいなと思いました。

花びらの動きに注目した「Nature's Contours」シリーズからの1着。空気が孕み、軽やかに揺れ動く。

素材の特徴を活かした唯一無二のシルエットを造り上げた「JOMONJOMON」シリーズのドレス。

──アートを目指してというのではなく、物作りの最初のインスピレーション源としてファッションの衝撃があったわけですね。ファッションが面白いと感じたのは、どんなショーをみたのがきっかけでしたか? 

特定のブランドというより、とにかくいろんなショーをみることでファッションの面白さに惹かれていきました。服のデザインって日常的な感覚で人に寄り添うイメージだったのですが、それだけでない多面的な意味合いを持っているのがファッションの魅力でありパワーなんだなって思って。解釈の難しいデザインであっても、そこには絶対的な美や哲学が存在している。人が纏うことで作り手の伝えたいことが完成される美学を感じました。ファッションは不思議でわからないことが多い── それが面白さなんだと思います。

──それはご両親の影響などもあったのでしょうか。

そうかもしれないです。自分は幼少期の頃から絵を描くのが好きで絵画教室に通わせてもらっていました。絵が得意だったこともあって、当時の担任が「芸大を目指してみたらどうですか?」と両親に話してくれました。受験のタイミングで改めて芸大の存在を意識するようになったので、いま思えば、入り口を作ってくれたのは先生でした。

──同じデザイン科のなかでファッションを目指す人はいましたか?

芸大だとやはり少なかったですね。デザイナーとひとことで言ってもグラフィックからプロダクトまでさまざまですが、僕はずっとファッションデザイナーになりたいと取り組んできました。

全体像がわからないからこそ、想像を超えるものが完成する。

── 今年9月に「楽天 ファッション ウィーク東京」でデビューコレクションを発表しましたが、岡﨑さんはデザイン画を描かずに製作されているそうですね。

ミステリアスなものにすごく魅かれているんです。デザイン画を描かないのは、全体像がわからないからこそ自分の想像を超えて、自分の創造を超えた造形が出来たときに面白さを感じるからなんです。

── それは、カタチを作りながらディテールを組み合わせることで、全体像につながっていくということでしょうか?

最初に作り始めたときの想像と、最終的な仕上がりは異なることがほとんどです。例えば、素材にボーンテープを縫い込んでクルクルさせると、不思議な動きが生まれるんです。それをボディに合わせてシルエットを作り出し、またそこから別の想像が膨らんできます。そのように素材を足し引きしながら新しい造形を模索するのが楽しい。子どもが積み木で遊んでいるような感覚に近いのかもしれません(笑)。

──手を加えながら頭のなかでどんどん膨らんでいくという、いわば即興のような感じなのですね。芸術作品にふさわしいピースの数々は、実際どのように作られているのでしょうね。

例えば「JOMONJOMON」というシリーズは、鎧のように身体に寄り添うハリのあるボーンで骨組みしたものになります。縄文土器から着想を得て、シンメトリーなカーブを描くようにボーンで骨組みしているのが特徴です。グラフィカルな視覚効果を意識しました。

「Nature's Contours」と題した花びらのようなシリーズは、自然と人との関係性がテーマで、ハリのあるダブルラッセルメッシュにロックミシンで縁取っています。いずれも人が纏ったときの動きが自然に連動するよう、パーツの空間も衣装の一部として捉えています。

カブトのようなヘッドピースが印象的。祈りをインスピレーションにした「JOMONJOMON」シリーズ。シンメトリックなシルエットも神道の教えからくる。

── 反重力のように浮遊しているような空間も作品の一部なんですね。一見、距離感がまどわされる感じですね。今回のコレクションで、クリエーションに共通しているコンセプトがあれば教えてください。

どちらのコレクションも自然の造形からヒントを得ていますが、特に「JOMONJOMON」は「祈り」というところから縄文土器にインスピレーションを得ています。「祈り」は、古来の人々が神の存在を見出し、捧げることで自然との繋がりを意識して過ごしてきたと認識しています。縄文土器のような造形のパワーは、そういった部分から生まれてきた背景があり、自然と擬態させることで人間と一体化するようなイメージです。


── 色使いもとてもカラフルですね。この感覚も自然をイメージしているのですか?

そうですね。海の生物や昆虫ってすごく色鮮やかで、それで身を守っているという点も美しい。そういった自然の恵みをイメージした色を躍動感で表現しています。本来、人と自然は密接な関係にありましたが、今は乖離しているように思います。古来の人は、自然の脅威に常にさらされていたから縄文土器をつくって「祈り」を捧げてきました。それは人間と自然が寄り添っている従来のカタチであり、今回はそれを「祈り」として衣服に昇華させました。

故郷の広島で自然と哉った、平和への想い。

── 言葉にするとシンプルに聞こえるかもしれませんが、歴史や人々が命を紡いでいくという点でも平和への思いに繋がるのですね。

やはり広島県で育っているので、平和教育が当たり前のようにありました。大学に入ってからは平和活動もしましたし、初期の作品では折り鶴の再生紙を裁断した紙糸でドレスを作ったことも。さらに祈りをより深く調べていったときに、縄文土器や神道に触れ、そのインスピレーション源を経て今のような表現になりました。

──どの衣装も色彩と造形が大胆で印象的ですが、とくにこの鎧のようなフォルムは神殿の中央に位置するような象徴的な存在感を感じます。

僕の出身地が宮島口で、すぐ近くに厳島神社の鳥居が見えるんです。毎日あの赤い鳥居が見える場所で育ったので、神々しさというのはその感覚からきているのかもしれません。シンメトリックな造形は、神道から着想を得ています。縄文土器もそうですが、象徴的な造形って人が念を込めて作ったものが多いので、どこかパワーを秘めている。神道の造形にもそういったものを感じるんですよね。文化を超えたものだと思います。

ジャージー素材を分解し、ワイヤーをはめ込んでシェイプが造り上げられた。ワイヤー間の空洞も、ドレスのディテールとして捉えている。

──今回、初めてのショーを開催していかがでしたか? 気付いたことはすごく大きかったのではありませんか?

大きかったですね。これまで展示はいろいろなところでさせて頂きましたが、ショーの場合はモデルが着用してランウェイを歩きます。最初のフィッティングでは人の動きにドレスが耐えられず、パーツが壊れてしまうなどのハプニングもあって、そこをどう変えていくのかが課題になりました。やはり人の動きに寄り添った素材を使用することで、人と作品が一体化して、ファッションとしてしっかり表現できてるなと感じました。ファーストコレクションでは、それが一番の学びになりました。

── コロナ禍の影響でショーができなくなった期間を経たことで、改めて人が服を着て歩くファッションショーという表現がいかに大切なのかということに気付いたデザイナーも多いと思います。

フィジカルで表現することが難しくなって、デジタル上でいろんな工夫がされているようでしたが、生身の人間が服を着てそれを生で見るのには勝てないのかなと感じました。もちろんデジタルでできる新しい表現の可能性も必要だとは思います。

「クリエイションに共感してくれることが何よりうれしい」

── いまのファッションショーはプレタポルテという、秋冬・春夏で発表するリテールありきのサイクルですが、それについてはどう思われますか? 半年に一回というペースに乗るということにも抵抗はありますか?

むしろ作品が溜まっていくので、半年に一回は発表したいです。学生だった頃は、作った作品をすぐSNS上で発表していたので、僕の場合、そのペースが半年に一回になり、すべて一気に見せるという風に変わるのかなと。ショーという形にとらわれず、いろんな表現方法でお披露目したいです。そして、春夏・秋冬というシーズン別ではなく、もっと広い解釈の仕方で見せていきたいです。

── いまは具体的にプランはなくても、プロダクトとして売っていくことも考えているのでしょうか?

(僕のデザインは)プロダクト寄りではありませんが、ヘッドピースを展示したときは購入していただきました。プレタポルテとしてつくった服を売りたいかというと、いまはそういう感じではありません。しかし、今後プロダクト寄りのものも作りたくなるかもしれません。

── 将来的に変化する部分もあるでしょうし、ファッションはこうでないとけないというルールは何ひとつもないですしね。ちなみに海外からのアプローチはいかがですか? レッドカーペットで着たいというセレブリティがたくさんいそうです。

海外からの連絡は多いですね。特にミューズを想定しているわけではないのですが、クリエイションに共感してくれることが自分とって何よりもうれしいことです。

── 「美術館で展示されるような服が作りたい」と、以前インタビューでお答えになられていました。どこまでがアートで、どこからがファッションというのは昔からよく話されますが、もはや線を引く意味はないと思います。

「これはファッションなんですか?」ってよく聞かれます。僕は「ファッションです」とも答えますが、アートとして受け取ってもらっても構いません。僕自身もそこの線引きはしていませんが、何を着てもファッションになるとは思っていません。人が着るという意志があって、それを感じとることができれば、それがファッションなのだと思います。

── まだまだ保守的に考える人もいるなかで、ファッションの概念を広げていきたいという思いはありますか?

概念を広げてやろうというよりは自然体で服をつくっているので、これはファッションじゃないという人がいても、続けていればそれがファッションになるのかなと。作品にしっかりした思いがあれば、それはいずれ伝わるのだと思います。作り続けることで自然とファッションの概念が広がっていくのを信じています。

── クリエイションの継続はとても大きいですよね。それはどのクリエイターをみてもそうです。胆力のあるファッションをこれからも楽しみにしています。今日はありがとうございました。

こちらこそどうもありがとうございました!


Profile
岡﨑龍之祐


1995年生まれ、広島県出身。東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻を首席で卒業。「クマ財団」の4期生で今年9月、デビューコレクションを発表し、自然と人間の営みをコンセプトにした特徴的なアートピースを展開する。素材の特性を引き出した服作りなど、その唯一無二の表現法で若手注目デザイナーの一人に。

Interviewer: Mitsuko Watanabe Photos: Yoshiyuki Nagatomo Text: Megumi Otake Location: The Face Daikanyama