FASHION / TREND & STORY

 肌を露わにしてタブーに立ち向かうFANCI CLUB。挑発的なデザインが支持される理由【次世代ブランドを探せ!】

肌を露わにした挑発的なデザインで高い支持を得ているファンシークラブ(FANCI CLUB)。“第二の肌”を目指し、体型に対するボディシェイミング、そしてルッキズムに真っ向から立ち向かうベトナム出身のデザイナー、デュイ・トランが掲げるビジョンとは?

オリヴィア・ロドリゴBLACKPINKジスなど、世界の歌姫たちを虜にするベトナム発のファンシークラブ(FANCI CLUB)。肌を露わにしたシアーな素材と大胆なカッティングにこだわる23歳のデュイ・トランは、「体型に対するボディシェイミングやルッキズムをなくし、美しさとフェミニニティを讃えたい」という強い思いを形にしている。

2020年にブランドを設立した直後、瞬く間に世界中から注目を集めたが、「これほど大きな反響を得たのは、ブランドのフィロソフィーが広く浸透したからだ」と冷静に分析する。「“第二の肌”となるような存在を目指したい。人々が心地よく纏うことを共有できる、安全なコミュニティ作りに貢献できたらうれしい」。ファッションが社会を変えていく── 彼が思い描く未来を掘り下げる。

「フェミニンなエネルギーこそ、強さと自信を体現するための力になる」

──フェミニンで毒っぽいデザインが多くの人々を魅了しています。ファンシークラブの世界観はどのように構築しているのでしょうか?

ファンシークラブを始めたきっかけは、古着との出会いです。友人と一緒に古着屋巡りをして、一緒に買ったアイテムでスタイリングするのがとても楽しかったんです。その後、古着をアップサイクルして、オリジナルのアイテムを作るようになりました。このクリエイティブなプロセスは、自分探しの旅であると同時に、周りの人をもっと可愛くしたいという情熱を生みました。ファンシークラブを始めたとき、私の情熱がより大きな計画へと変わりました。私の親しい周囲の人々のためだけでなく、私の美に対する理想やビジョンを信じてくれるすべてのお客さまのために創作しています。

 ── インスピレーション源を教えてください。

人生のさまざまな側面の“美”を常に探しています。ミューズは、私の周りの人々。インスピレーションは、友人と交わすわたいもない会話のようなシンプルな事柄から生まれます。

多様な美を讃え、女性らしさを受け入れ、そして体にまつわる批判に真っ向から対抗する素晴らしい価値観を持つ人々に私は囲まれています。私たちは、フェミニンなエネルギーこそ自分自身の強さと自信を体現するためのパワフルな力だと考えています。だから、この美しさを強調することに羞恥心はなく、エンパワーすることも恐れていません。この思想はファンシークラブを通じて表現しています。

── ブランドの美学はインターネット上を席巻しています。あなたのビジョンの背景にあるメッセージや意味を教えてください。

私たちの哲学が多くの人の目に触れたことは、ファンシークラブが成し遂げたもっとも誇らしい功績だと思います。美しい服とロマンティックな美学を広めることだけでなく、優しさと人間性が私たちのブランドの根底にあります。それは、柔らかさを重視した素材選びにも現れています。

真のグラマーとは、自分自身と周囲に優しさを持って接することだと考えています。だから、服はもちろん、ブランドのアートディレクションも、優しさや他人への思いやりを意識しながら製作しています。

“第二の肌” を目指して

── 以前のインタビューで、挑発的であること、自分の体の美しさを際立たせることが好きだとおっしゃっていました。 服をデザインする際に最もこだわっていることは何ですか?

私はボディラインに魅了されているので、ファンシークラブの挑発的なデザインもこの影響を大きく受けています。しかし、こういったデザインは、ボディインクルーシビティに反するものとして考える人も少なくありません。

私は、ファンシークラブが“第二の肌”となるような存在を目指したい。肌のような心地良さをもつ、もう1枚のレイヤー。お客様が私たちの服を着用し、自身の心を満たしてくれることを願っています。大胆で挑発的なデザインだからといって、この想いは変わりませんし、特定の体型のためだけのブランドだと誤解されるべきではありません。

── シアーな素材使いとボディコンシャスなシルエットが特徴的ですが、今後のデザインに取り入れたい技術や素材はありますか?

ファンシークラブの大半は、ドレープ技術を使ったカスタムメイドのデザインです。このテクニックはかなりオーソドックスなものですが、今後のデザインと方向性を考える上でとても重要です。今後は、この同じ技術を異なる素材に落とし込み、どのような変化を生むかを実験したいですね。また、スモッキングやプリーツなど、古くからある技法をもっと取り入れたいと思います。

── 服を作る一方で、ブランド経営も担っています。それらを両立する現代のデザイナーが抱える難題とは何でしょうか?

現代社会では、偏見や不親切さによって、私たちの自信や精神が常に試されています。私はデザイナーとして、苦悩や困難だらけの世の中で人々が喜びや心の拠り所を見つけられるようなコミュニティを作ることを目指しています。ブランドの哲学を通じて、既存の問題を解決する手助けがしたい。ですから、このビジョンを信頼し、支持してくれる人たちがたくさんいることにとても感謝しています。

「ベラ・ハディッドが着用してくれたときは嬉しかった」

  ── 多くの著名人があなたの服を愛用しています。着用したセレブの中で最も嬉しかった人は誰でしたか? また、あなたの理想のミューズを教えてください。

素晴らしいアーティストたちに認めてもらえたことは、本当に光栄です。どれも貴重な経験で、これからもっと精進していこうという気にさせてくれました。熱心でスキルの高い人たちと一緒に仕事をすることは確かに新しいチャレンジでしたが、彼らは真のインスピレーション源であり、そんな彼らと一緒に仕事をすることはブランドにとって画期的なことだと考えています。

ファンシークラブを愛してくれるのは皆、美しい人ばかり。彼らは私に感動を与えてくれるだけでなく、創作活動を続ける上でのインスピレーション源にもなっています。でも個人的には、ベラ・ハディッドが身に着けているのを見たときが一番うれしかったですね。彼女の優しさ、誠実さ、そして自分のアイデンティティに対する誇りは、多くの人々を鼓舞するだけでなく、その価値観を超越して仕事や行動に移す彼女の行動力にも感銘を受けます。彼女の美しさは内面にあり、それは私たちがブランド設立当初から夢見ていた女性像です。 

 ── 最後に5年後、10年後のビジョンを教えてください。

ブランドが成長し続ける中で、誰もが美しいと感じられる服を作るという初心を忘れないように強く意識したいと思います。周囲の環境と調和しながら、アートやビジュアルを通じて、人々の美しさを讃え自信を与え続けたい。そして、世界のさまざまな地域の人々の視野を広げ、彼らがどのように美を祝福しているかを学ぶことで、ブランドの世界観を広げていきたいと思っています。

Photos: Courtesy of FANCI CLUB Interview & Text: Sakurako Suzuki  Editor: Mayumi Numao