デジタル、サステナブルと並ぶ2020年代の重要なテーマは、心身が健康で社会的にも満たされた幸福な状態を実現するウェルビーイングだ。ファッションの生産現場に携わる人々の人権尊重はもちろんのこと、BLM(Black LivesMatter)運動や、人種やLGBTQを含めたダイバーシティ&インクルーシブ(多様性と包括性)、平等性の大切さが浸透し、アクションにつながっている。そして昨今では人間関係や仕事に悩んだり、SNSによる思わぬ炎上やいじめの陰湿化、さらにはコロナ禍が輪をかけて、心身に不調をきたす人が増えてきている。それに呼応するように、メンタルヘルスケアに乗り出すブランドやデザイナーも増えている。
ケイト・スペード ニューヨーク(KATE SPADE NEW YORK)は創業デザイナーが不調に苦しみ、18年に自死を遂げている。それを機に10年以上行ってきた、女性と少女のメンタルヘルスサポートとエンパワーメント活動をさらに強化している。なぜ女性と少女なのか? 「彼女たちは属する世界中のコミュニティのチェンジエージェント(変化をもたらす存在)であり、彼女たちのメンタルヘルスが整っていれば、自身や家族、コミュニティのメンバーに変化をもたらすことができるため」と同ブランドは訴える。
Z世代に人気のLA発の新興ブランド、マッド ハッピーも17年の創業以来、「ファッションを通して世界的な社会問題であるメンタルヘルス問題を解決し、明るくポジティブな社会をつくりたい」というミッションを掲げてきた。メンタルヘルスの情報発信に特化したサイト「The Local Optimist」も創設し、専門家を招いたワークショップなども行ってきた。そんな若者たちに寄り添う姿勢が評価され、LVMHラグジュアリーベンチャーズらから19年に約180万ドル(約1億9800万円)の出資を受けた。
かつてはおしゃれな写真を投稿することが中心だったインスタグラムも、今や社会的メッセージや啓蒙の言葉があふれている。世の中を良い方向に向かわせ、一人でも多くの人々のウェルビーイングがかなうような、マインドフルネスならぬ“ファッションフルネス”が今、求められている。
ヴェトモン(VETEMENTS)は7月、コミュニティ主導型の新ブランド「VTMNTS」を公開。教育、デザイン、サプライチェーンなどさまざまなコミュニティを財政支援し、業界に100%真摯に取り組むことを表現する100のルックを発表した。職人技に支えられた高品質の服を手の届く価格で提供し、次世代のために伝統的なラグジュアリーを再定義するとともに、アワードやセレブリティ、インフルエンサーなどに依存しない新たなあり方を模索するという。LGBTQの啓蒙・理解も呼び掛ける。
今、ファッションや情報発信、基金などを通じたメンタルヘルス支援が活発化している。マッド ハッピーは楽天的なデザインに加え、メンタルヘルス特化型情報発信サイト「The LocalOptimist」を運営。
ザ・ローカル・ラブ・クラブはスタイリストのメイブ・ライリーが設立したLA発のストリートブランド。愛を持つこと、思いやりややさしさを持つことの大切さをクールに大胆にデザインで訴えかける。いじめ撲滅を支援するNPOカインドキャンペーンに収益の一部を寄付。
ケイト・スペードはさまざまなメンタルヘルス基金に寄付。SOCIAL IMPACT WORKs(社会的貢献投資活動)を軸に世界中の女性と女の子たちをエンパワーメントすることを使命に。
有色人種の活躍支援に乗り出すブランドが増加傾向にある。クリストファー・ケイン(CHRISTOPHER KANE)は、セントラル・セント・マーチンズと提携し、英国の黒人や少数民族出身の若いクリエイター向けのプラットフォームを開設。SNSを通じて、業界への参入を支援。写真はそのうちの2組だ。
プラダ・グループはNY州立ファッション工科大学(FIT)と提携して米国やアフリカの有色人種で志あるファッション従事者や大学生支援の奨学金を設立。リビルド財団の創始者でアーティスト、ソーシャルイノベーターのシアスター・ゲイツ氏と協力しデザインラボも創設した。
Text: Kumi Matsushita Editor: Kyoko Osawa
