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長襦袢・半衿の役割と魅力。【マドモアゼル・ユリアと始めるモードな着物入門 vol.15】

今回のテーマは、着物を着る上での土台となる「長襦袢」と、その長襦袢に縫い付け衿もとを飾る「半衿」。長襦袢は、今日では機能性を重視した便利にまとえるタイプも多く登場しているという。着物のチラ見せの美学を物語るその魅力とともに学んでいこう。

──着物を着る時の大事なアイテムとして、帯締め帯留めを取り上げましたが、今日は何でしょうか?

今回は、長襦袢と半衿について学んでいきましょう。

──長襦袢は、着物の下に着るアイテムですよね。

はい、着物用の肌着である肌襦袢の上に着るインナー的な存在です。ちなみに、長襦袢は関東と関西で仕立てが異なります。関西仕立てでは「衽」がありますが、関東仕立てにはなく、その分前幅が狭く体型にぴったりと合ったものでないと衿が決まりにくいかもしれません。そのため、現在では関西仕立てが主流みたいです。

──Vol.8で着付けにトライした時は、長襦袢が着物のシルエットづくりの決め手となる、と教わりました。

着物は長襦袢の上に乗せる感覚で着るので、長襦袢が大切な土台となります。ワークショップでは基本的な長襦袢の着付けを学んで頂きましたが、ほかに「二部式」というタイプもあるんです。腰までの丈の半襦袢と、下半身に着る腰巻き型の裾除けの組み合わせです。長襦袢は1枚なので、座ったり立ったりを繰り返す現代の生活をしていると、一枚の布だと当然着崩れてきますよね。私は現代人の生活様式に合っているのは二部式なのでは、と思っています。踊りをされる方や芸舞妓さんも二部式を用いていると聞いています。

初心者にもオススメの便利なタイプも。

上下に分かれている「二部式」の襦袢。

最近では袖をマジックテープで付ける長襦袢も販売されています。袖の分量の生地があれば作れるし、楽しめますよね。でも、礼装で正式な場では、やはり二部式ではない通常の長襦袢が良いとされています。

普段着向けの柄物の袖。マジックテープで身頃に付けることができる。

──カスタマイズできるんですね。それは便利です! そういえばVol.2で、長襦袢に夏向けのレースの袖を縫い付けた、とおっしゃっていました。

便利と言えば、「衣紋抜き」を襦袢に付けることもあります。これに胸紐を通すとUの字にきれいに衣紋を抜くことができ、襟が固定されて動きにくくなります。初心者の方におすすめです。

後ろの中心部分にあるのが「衣紋抜き」。単体でも販売されているので手持ちの長襦袢に縫い付けても。

──衣紋を抜くのがなかなか大変だったので、ぜひその便利グッズは手に入れておきたいです。半衿は、長襦袢に季節や着物の色柄に合わせて縫い付けるのですよね。

半衿をファスナーで付け替えることができる長襦袢もあるんですよ。私は半衿が好きなので、できるだけ見える幅を広くした着かたをしています。今はそれ程見せないのが主流なのですが、明治〜昭和初期は半襟を大胆に見せていたんです。

もともとは長襦袢の衿の汚れを防いだり、汚れてもすぐ取り外して洗えるということから普段から着物を着る人たちにとっては必需品だったのだと思います。また当時、一般の方の着物は地味なものが多く、衿もとで演出したいという願望もあったのかもしれません。逆に豪華な着物の半衿は見事な刺繍のものなど、芸術作品とも言えるものもたくさんあります。

衿もとを飾る半衿の存在。

白の半衿を多めに見せ、桜柄の小紋と合わせて。

──たしかに今日のユリアさんも半衿の分量が多めです。白なんですね。

着物が派手ということもあって白にしました。ちなみにお茶席では白の半衿と決まっています。桜の時期に桜の柄の着物を着るのは一般的には野暮と言われていますが、私は図案化されたものは全然良いと思っています。この着物の桜は八重桜っぽいし。帯はおそらく着物と同時代のもので、さまざまな季節の花が描かれています。帯留めはバラのモチーフです。

──着物も帯も、そしてシャネルのバッグもラインが効いていますね。テーマは「ジオメトリック」でしょうか? 最後に、ユリアさんの半衿コレクションをぜひ見せてください!

では、ほんの一部ですが厳選してご紹介しますね。

ちりめんや楊柳etc.、お気に入りをピックアップ。

さまざまな素材やカラーの半衿。

左端は夏用で、生地は紗で格子と朝顔が描かれています。左から2番目はVol.11の晴れ着の時に用いていた、縮緬地に刺繍がされたものです。

──いろいろなお宝が描かれている「宝尽(たからづくし)」で、お正月用に柳などの枝に小さく丸めた紅白の餅を飾る「餅花」も含まれている紅白の半衿ですね。全貌はこうなっていたんですね。

右から2番目は染めのもので、普段着用です。ちりめんに笹が描かれています。右端は縦縞状の突起がある楊柳(ようりゅう)という生地に柳が刺繍されています。一般的に単衣の季節向けですがそれより長く使ってもいいかなと思ってます。

──こんなに手が込んでいるのに、一部しか見えないとは……。襦袢の袖や半衿はチラ見せの美学ですね。今日も着物のレイヤードの奥深さを学びました。ありがとうございました!

Photos: Momo Angela   Text: Itoi Kuriyama Editor: Maki Hashida

Profile
MADEMOISELLE YULIA(マドモアゼル・ユリア)
DJ/着物スタイリスト 世界中のイベントにDJとして呼ばれる。また、ファッションアイコンとして各国のファッションウィークにも参加。2020年には京都芸術大学の和の伝統文化科を卒業。大学や着付師である母や祖母から学んだ知識、これまでファッションや音楽の世界で培ってきた経験や感覚をもとに着物のスタイリングを開始し、イギリスのヴィクトリア&アルバート美術館での展覧会「Kimono Kyoto to Catwalk」のキービジュアルのスタイリングを担当した。趣味は歌舞伎の観劇。インスタグラムはこちらから。