ソウルの何が世界を魅了しているのだろう? 最近よく、こうした質問を受ける。特に韓国人とはこの質問を何度もやり取りしたが、突然の熱狂に彼らも私も困惑している。私が子どものころに見た90年代のソウル──中西部で育った米国人の少女が年に2回ほど、里帰りする母親に連れられて訪れた街──は、何もかもが矮小だった。思い出すのは、祖母の家の玄関にぶら下がっていたヨーグルトドリンクのパック、餅菓子を買いに行く屋台の立ち並ぶ市場、木から落ちる果物のように黒いゴミ袋から偽物のシャネル(CHANEL)の財布が転がり落ちる地下のホール。ソウルは洗練されたものに憧れる、発育不良の街のように感じられた。米国人のクラスメートは、ソウルが地図のどこにあるかも知らなかった。「北京とか東京みたいなところ? ソウルって韓国なの? それとも北朝鮮?」
ティーンエイジャーになると、退屈なデパートのランチやいつも灰色の川沿いを散歩するために14時間も飛行機に乗るのが苦痛になった。ニューヨークやパリ、東京のように世界を感じられる街に憧れ、本物そっくりの偽物ではなく、本物のシャネルの財布が欲しいと思うようになった。未熟な私はソウルで見る日常生活には品格がないと思い、母にもそう言った。母はそれに渋々ながら理解を示し、私たちは毎年の訪問を止めた。こうしてソウルは私の視界から消えていった。
2010年代にソウルに戻ったときは、目の前の光景が信じられなかった。若者たちはヴェトモン(VETEMENTS)をシャープに着こなし、スマートフォンをじっと見ながら美しい通りを練り歩いている。かつてよく行った場所も、再訪すれば目を楽しませてくれた。US版『VOGUE』のエディターとして働き始めてからは、ソウルの新進デザイナーや文化人を取り上げて記事にした。それから、編集者仲間が韓国のファッションブランドを追いかけ、友人たちが母の好きな韓国のソープオペラを配信でチェックしていることを知った。ある冬、ニューヨークのウエストヴィレッジ、ハドソンストリートにある高級精肉店でレジに並んでいると、ヨガパンツをはいた金髪の女性が私の肩を叩き、持っていたキムチの瓶を指さした。「それ、知ってると思うけど辛いわよ」。ソウルは、正式にクールな街になったのだ。
ページいっぱいに広がるいくつものすばらしい写真は、ファッション、ビューティー、音楽、映画、アート、テクノロジーといった分野で変貌を遂げるソウルのスピード感を、それに魅了された『VOGUE』の目線で語っている。3年前、私はフルタイムの仕事のためにソウルに移り住んだが、この街はマンハッタンの長時間労働に慣れていた私をあっという間に飲み込んだ。同僚たちは1日20時間、無我夢中で働き、不可能なタスクを1日5回はこなして寝る暇もない。ソウルはとてつもないスピードで走るエンジンであり、消耗するが刺激に満ちている。その勢いは、因習を打破するアーティスト、俳優、モデル、シンガーの新たな流派も生み出した。彼らはかつて、こういったプレッシャーによって形成され、それに駆り立てられながらも、そこから決別した人たちだ。K-POPカルチャーのかつての特徴であるきらびやかな完璧主義に対抗し、自分らしさを表現しながら抜きん出る方法を見つけたのだ。
ここにある写真に写る人たちは、新たな進化のステージを象徴している。例えば、オルタナティブK-POPグループのバーミングタイガーは多方面で活躍する11人の多才な若手アーティストで構成される、完全にインディペンデントな集団だ。アクティビストのJungleは昨夏、トランスジェンダーの人々を祝福し、盛り上げるパーティーシリーズ「トランスパレント」を立ち上げた。20年以上もの間、頑ななまでに自分の演技を追求し続ける人気女優のペ・ドゥナは、いかにもスーパースターらしい振る舞いを好まない若い俳優たちの模範となっている。プロデューサーのコードクンストも、気取りのないキャラクターと作曲にかける静かな情熱で人々の心をつかんだ、これまでにはなかったタイプの人気者だ。
昨夏にデビューし、チャートを賑わせているアイドルグループ、ニュージーンズも、業界では珍しい女性CEOのミン・ヒジンが率いるレーベルから生まれたという点で特異な存在だ。ニュージーンズはコルセットもロングドレスも着なければ、過度にブリーチしたエクステも長く尖った爪もつけない。黒髪が腰まで伸びた高校生くらいの年齢の少女5人が、90年代風のティーンポップを歌い踊り、満面の笑みを浮かべながら自分たちを演じているだけだ。「結局、ステージに立っているのは自分たちですから」とメンバーのハニが言うように、このレーベルは「本物」を目指している。「自分自身を表現できるのは、とても光栄なことです」と、同じくメンバーのダニエルはつけ加える。進歩に向けた小さな一歩は、最も奥深く感じられるものだ。
Styled by Kate Phelan Hair: Gabe Sin Makeup: Seongseok Oh Produced by A Prject Special Thanks to The Korean Culture And Information Service (Kocis) Caption Text: Akane Maekawa