不協和音、セックス、欲望。不器用な者たちが紡ぐ愛
昨年、この季節にIVEがデビューし、「K-POP界を揺るがすダークホースだ!」 と狂喜乱舞したのを思い出した。なぜかというと、今作「サムバディ」が韓国ドラマ界のそれに値するからである。「模範家族」(同じくNetflix)など、“韓国ノワール”と呼ぶべき社会の裏側や闇を描く作品が増え始めている印象があり、「サムバディ」はその路線に、誰しもが持つ“恋心”をコードとして忍ばせた斬新すぎる韓国ノワール作品なのだ。
出会い系アプリ「SOMEBODY」を通じてさまざまな人間が交差し、思わぬラブストーリーへと発展する……と聞くと、「恋するアプリ Love Alarm」(2019)や「今夜泊まっていかない?」(2021)のような恋活ムードを思い出すかもしれない。が、そんな展開ではなく、スリリングでサスペンス要素で充満したストーリーラインとなっている。
天才的なプログラミング能力を持つソムは、その才能を見出されアプリ「SOMEBODY」のプログラムを行う。仲がいい友達が2人(ともに女性)いるが、相手の気持ちには共感せず、ただ自らのカゴの中でコミュニケーションをとっているような印象だ。そこへアプリを通して、出会ってしまうのが建築家のユノ。ただし、マッチングして出会ったわけではない。
「SOMEBODY」の使用者の中で“とある”犯罪が立て続けに起こり、その捜査線上(警察は介入せず)に浮かんだのが、ユノ。そんな危険信号レベル100の人物にソムは直感と好奇心を頼りに、歩み寄り、接近する。その男、ユノが親友のひとりに危険な魔の手を差し伸べていたとしても、だ。
ダイバーシティ時代のひとつの表現として、絶品
今作に登場する人物は、まさに多種多様。マイノリティとも言える人格や条件、個性に焦点を当てているのも新しい。アプリ開発者のソムはアスペルガー症候群で、恋心のようなものを抱く相手のユノはサイコパス。しかも快楽殺人者である。「サイコでも大丈夫」(2020)に登場するソ・イェジ演じるムニョンとは比べ物にならないほどに他人を傷つける。
ソムの女友達のギウンは半身付随の車椅子生活を送る警官。もう一人のモグォンは祈祷師で、セクシャリティはおそらくレズビアンにように見える(バイセクシャルなのかもしれないが)。他人に興味を持たず、共感すらしないソムをあたたかく迎え入れ、ごく自然に会話をし、遊ぶ。その光景に、何か胸がグッと掴まれるような、ほのかな喜びを終始感じることができるのも、今作の見どころかもしれない。
とあるシーンで、ギウンはとんでもないことになってしまうのだが、その後に彼女たちは車椅子のギウンに向かって「飲みに行こう」と誘う。死にかけた友人をクラブに誘うのか!と驚愕。このネジの外れっぷりが、全8話にはびこっており、その外れたネジが地面にバラバラと散らばっていて混乱していく。そんな気分になる。
直感的に互いに惹かれ合い、ただ自らの中にある社会とは折り合いがつかない“個性”を胸に、ソムとユノは愛し合う。今作に常識的に、とか、一般的に、という観点は不要。そんな常識を一話、一話ごとにひっぺがしてくれて、ある意味で最終話では高純度のラブストーリーを味わったかのような気分になる。ただ、それが一筋縄なものではないので、それはぜひ作品を鑑賞した際に堪能してほしい。
サイコに満ちたサスペンス作であり、愛にまみれた「サムバディ」。韓国ドラマ界のタブーをぶち破ったとも言える、リアルなセックスシーンもある意味では見どころと言えるかもしれない。インディペンデント映画でも見られないような、生々しく、エロティックに満ちたセックスシーンが幾度となく登場する。まさに裸一貫で挑んだ、主演のふたり。ソムを演じたカン・ヘリムは、今やトップ俳優のキム・ゴウン(『トッケビ』『ユミの細胞たち』)に続く、逸材となりそうだ。今作を手がけたチョン・ジウ監督は、無名だったキム・ゴウンを映画『ウンギョ 青い蜜』(2012年)で起用し、センセーショナルに彼女の名を韓国中に広めた。
そして、異常なサイコパスっぷりをとんでもない演技力で魅せてくれたユノ役、キム・ヨングァンはブレイク必至。モデル出身の9頭身、189cm(ウィキペディアによる)、スイートな顔立ちの彼が役者生命をかけて演じたかのように見える、体当たりの仕事っぷり。そういった視点で考えても、感動を覚えるのが今作の魅力であった。
サイコで異常で非常識。だけど、そこに潜む人間、欲望、愛。人が亡くなっていくので“多様性賛美”、とは言えないものではあるけれども、“個”が持つ事情や性質についても深く考えさせられる、猛烈に斬新なストーリーの「サムバディ」。間違いなく、2022年の韓国ドラマのベスト10にランクインする、傑作、快作、驚作だ。