前作『道』(2017)でタッグを組んだ2人が、ふたたび新しい写真集を作り上げた。タイトルは『(世界)²』。「僕の思っている、見ている世界と太賀くんが思う世界の二乗。そういうイメージや意味が込められています」と教えてくれたのは、写真家の川島小鳥さん。写真集に関する東京での展示会中、今回の取り組みについてインタビューを行った。
「前回の『道』を出版した後も、いつかまた撮りたいね、とは話をしていました。前作は日本で撮影をしていて、やっぱり日本やアジアはしっくりくる。でも、新しいチャレンジというか試みとして海外で撮影するアイデアが出てきました」。映画やドラマ、さらに舞台と、立て続けに出演作が続く太賀さんのスケジュールの合間を縫って敢行した作品作り。小鳥さんと太賀さんは2019年、ヨーロッパへと渡り、一緒に旅をしながらフィルムに時間を刻んでいく。「ポルトガルにあるポルトという街へも行きましたし、ベルリンに友人がいるのでその友人のところにも行きました。僕と太賀くんの共通点は、一緒に作品をつくりたい、という気持ち。何かにチャレンジしたいという気持ちです」
今年の2月、太賀さんの誕生日にはヨーロッパの旅の写真をまとめた手作りの写真集をプレゼントしたそうだ。それが今回の写真集のプロトタイプとなった。「ほかにも大阪や熱海、アジアだと台湾にも行き、それを含め4年間撮りためた作品をどうまとめようかと。太賀くんに写真集を渡した後、夏あたりにダミー本を作ってみたんです。時系列にするのはいちばん簡単だったかもしれないのですが、最終的には、時間軸を飛び越えた感じというか、撮影した場所や時間、シチェーションを掛け合わせる方法を選びました」と語る小鳥さん。
実際、今作をながめていると、大阪の夜からフランスの明るい午後まで、さまざまな世界がランダムに重なり合っていく。さらに、途中、太賀さんがいない風景も出てくる。「緊急事態宣言中で人に会えないときに撮影した写真がところどころに入っていて、散歩をしながら撮影したものも多い気がします。今回の作品は、自分と太賀くんの4年間。そのすべてが込められている。彼に会ってない時間も含めての4年間なんです」
大阪ではこんなエピソードもあった。「うまく撮影ができなくなってしまって。心が折れてしまい、もう無理かもという状況になってしまった。その時、太賀くんがとりあえず飲みに行こうと誘ってくれたんです。そんな状況のときって励まされすぎても恥ずかしいじゃないですか。ずいぶん自分が年上だし、いじけてしまったような状況で。でも、飲みながら(もちろんギャグで)『正直めんどくさい』みたいなことを言ってくれて、すごく心がラクになったんです。その後、大阪の夜の中、とてもいい作品が撮れました」(上の作品)
ダメな部分をさらけ出せたことで、より深い関係値を築けたという小鳥さん。太賀さんへの感謝はたくさんあったそうだ。「ヨーロッパの旅では僕がチケットやホテルの予約をしていましたが、食事をする場所や『こんな場所に行こう!』と扇動してくたのは太賀くん。この海良さそう、と向かった海辺では夕焼けがすごくて、本当にキレイで。かなり冷たい海だったのですが、『せっかくだから入ろう』と提案してくれて、海に入って撮影をしました。ある意味、禊の後のような感じになって、それくらいのとんでもない寒さでしたね」
俳優の写真集は、多くの場合、日程を決めてその時間内で撮影されたものを一冊にまとめる。今作は、その逆の発想だ。切り取る側の4年間、被写体の4年間をシンクロさせることで、唯一無二の作品となっている。「写真は何万枚撮影したかわかりません。数えてないけど、本当にたくさんのフィルムで撮影し、たくさんのデジタルカメラで撮影しました。ヨーロッパや大阪はデジタル、ほかはフィルム。フィルムも35mmだけではなく、ブローニー判のモノクロも使って、たとえば表紙はモノクロ写真。それを青に重ねて印刷をしました。さまざまな方法で撮影できたのは、太賀くんが“試行錯誤させてくれる人”だからなんです」
小鳥さんは太賀さんを、ニュートラルな人である、と話す。「写真のセレクトに関してもすべて託してくれた」と言う通り、俳優という存在でありながらも太賀さんが作品への強い敬意を持っていることがわかる。「太賀くんは有名人だけど、ここでしか見られないパーソナルな面を出したかった。だから、いわゆる“キメ顔”のような一般的なかっこいい顔は今回の写真集にはありません。すべて、ふいをついた自然な表情。前作『道』よりも大人になっているけど、少年性は今回もある。でもかっこよさはあきらかに増しています。その太賀くんの“男性”としての魅力、新しいかっこよさを、デザインや装丁でも表現したかったという気持ちはあります」
そう語る通り、今作はハードカバー。当初はやわらかなソフトカバーにして、手に取りやすい存在感にしようと思っていたそうだ。でも、「ギリギリで、かっこいい方向性の本にしたいという気持ちが大きくなり、電話で相談をしました。そしたら、太賀くんもハードカバー案に賛同してくれて」と、直前の変更があった。出来上がった写真集の中には2人が眺めてきた景色が、ノートリミングで収められている。
クイックに多くのプライベートを覗くことができる今の時代。そんな中、SNSをまったくやらない俳優・仲野太賀が、“本当の素顔”を長い時間をかけて、写真集という方法で一気にむき出しにする。この時代だからこそ、ものすごく贅沢なアウトプットの方法だと感じる。どの表情もありのまま。役者としては見ることができないリアルな姿がここにある。野望と現実の狭間で呼吸するかのような姿と、20代ならではの探究心とかすかな憂いが満ち溢れているようだ。仲野太賀はどの作品に出演していても、瞬間風速がビュン!と上がるくらいにハイライトを作る男だ。そんな彼のむきたまごのような状態の姿は、なんとも愛らしく、人間味に溢れている。
写真集の後半、一枚の写真がある。海、砂浜に寝転がり空を見つめる姿。彼がこの世界とつながっているようにも見える。そこには孤独もあるし、たくましさもあるし、とにかく美しさに溢れている。その感想を伝えると、小鳥さんは最後にこう答えてくれた。「すばらしい映画を観たとき、すばらしい本を読んだとき。何か強く惹かれるものに触れたり、体験したとき。そんな体験が写真集でもできるのではないか、と考えてるし、この『(世界)²』もそうあって欲しいと思っています」
90年代、一定の距離感と親密な熱量を表すリアルな写真は、数多く存在した。それが“現在”に存在することが嬉しすぎる。そして、素顔にフォーカスし続ける写真家・川島小鳥が大切にする圧倒的なリアリティが俳優、仲野太賀と重なったことはすごいことだ。とある2人による個人の記憶を眺める贅沢な時間。写真集『(世界)²』、また、今作のスピンオフとして順次各地で開催される展覧会で、それを存分に感じてみてはいかがだろう。永遠に輝く一瞬の連続は、まるで映画のオムニバスだ。
Information
写真集『(世界)²』(読み:せかい・piyo piyo press刊)¥3,900
全200ページ、ポストカード付き。
「川島小鳥×仲野太賀 / (世界)² 展」が順次開催中。現状の日程は以下。
パドラーズコーヒー(東京)開催中。〜12月28まで
ル・プリュー(大阪)2022年1月15日〜1月30日まで。
スタンダードブックストア(大阪)2022年1月15日〜1月30日まで
Profile
川島小鳥 写真家。『BABY BABY』(2006)で第10回新風舎・平間至写真賞大賞受賞。その後、『未来ちゃん』(2010)や第40回木村伊兵衛写真賞受賞作『明星』(2015)など、次々とヒット作を生み出す。2017年は仲野太賀出演作『南瓜とマヨネーズ』でスチール撮影を担当。被写体へ接近し、みずみずしい姿を刻み込む作風に多くのファンが集まる。