ブラッド・ピットは今夏、映画『ブレット・トレイン』のプレスツアーで世界中を飛び回った。数々のレッドカーペットスタイルを披露し、中でもベルリンでの試写会で着用したリネンスカート姿が話題を集めた。そんなファッションコンシャスでもある彼は、俳優活動の傍ら、親友でありジュエリーデザイナー、そしてホリスティック・ヒーラーとしての顔を持つサット・ハリとともにカシミヤブランド、ゴッズ・トゥルー・カシミヤ(GOD'S TRUE CASHMIRE)を2019年にローンチ。これまでは大々的にプロモーションすることなく静かに成長をし続けてきたブランドだが、9月1日、イギリスの大手百貨店のセルフリッジで取り扱いがスタートした。ブランド拡大についてピットは、「セルフリッジは、キュレーションにとてもこだわりのある百貨店。このパートナーシップは、ブランドにとって自然な進化のような気がします」と語る。
2019年にソフトローンチし、2020年に商品販売をスタートしたゴッズ・トゥルー・カシミヤは、典型的なブランド設立ストーリーとは異なる誕生秘話を持つ。「とある火曜の夜、ピットがスタイリストと話す夢を見たんです。夢の中で彼は緑のカシミヤ製のニットを着ていて、『僕の人生にもっと緑と柔らかさが欲しい』と言いました。その数日後、彼にその奇妙な夢について話をしたら、『おかしいな。確か火曜日、もっと緑と柔らかさが欲しいとスタイリストに話した』と言われたんです」とハリは語る。
2人はこの偶然を宇宙からの暗示だと受け止め、一緒にカシミヤブランドを始めることに。「楽しみながら、どんどんアイディアを膨らませていきました」とピットは言う。
エシカルな農場から調達されたものを厳選
アイテムはすべてイタリア製で、100%カシミヤからなる。繊維は、エシカルなカシミヤ山羊農場から調達されたもののみを厳選して使用してている。「いつかブランドの農場を持つのが夢です」
得意とするのは、トラックスーツやボタンダウンのシャツといったデイリーアイテム。中でも、ボタンダウンはさまざまなチェック柄で展開されており、ベストセラー品だ。「トラベルコーデにも良いですし、自宅でくつろぐときにも重宝しています」とピット。
彼らにとって、もっとも重要なのは素材の柔らかさと肌触りの良さだそう。「私はインドで育って、パシュミナに目がないんです。柔らかい手触りが、とっても心地よく感じます。(パシュミナに)包まれると、本当にコージーです」とハリ。ピットは、カシミヤ製品は性別、年齢、サイズに関係なく、ワードローブの定番であると付け加た。「カシミヤはエレガントで高品質、そして何よりコムフォータブルです。また、一生モノでもあります。世代を超えて愛用できますし、譲り渡すこともできます」
「自分が心地よいものを着るべき」
カシミヤの分野を極めるブランドだが、ピットとハリはブランドを輝かせるために特別な工夫を凝らしている。「すべてのアイテムは、ブラッドとともに糸から選び抜いています。その後のパターン作りや色選びなども、すべて共同でチェックしています。すべてのアイテムに多くの時間とエネルギーを費やしました。一番難しかったのは、男女ともに着られるようなチェック柄を見つけることでした」
ピットも服選びは、ジェンダーで縛られるものではないと話す。「(誰もが)自分が心地よいものを着るべきです。気分が楽しくなるようなものを着てほしい」
また、服のデザイン工程に携わることは、ピットにとって学びの多い経験だったそうだ。「色選びや組み合わせは、本当に無限大です。(ハリと)たまに口論になったりもしました。私はトマトレッドが好きなのですが、彼女はチェリーレッドが好みだったり(笑)」
チャクラを開く、ジェムストーンのボタン
ホリスティック・ヒーラーで、アムリット(AMRIT)のジュエリーデザイナーでもあるハリは、ゴッズ・トゥルー・カシミヤのデザインにウェルネスに焦点を当てた装飾的なディテールを取り入れたいと、ブランド設立当初から考えていた。そこで誕生したのが、インドで手作業で作られたジェムストーン付きのスナップボタンだ。例えば、シャツには前身頃に7つ、ポケットと袖口に4つ、計11個のスナップボタンが付いており、そのすべてがストーン付き。「人の体には7つのチャクラがあります。それにちなんで、シャツの前身頃に7つのボタンを配しました」
タイガーアイ、ムーンストーン、アメジスト、ローズクォーツ、エメラルドなど、シャツによって異なるストーンを使用。どのストーンも色合いが違い、富うあ愛、知恵などさまざまな性質を表している。 「彼女がすごく頑張ってくれました。私は何もしませんでした(笑)。重要なところは、すべてハリが担当したんです」
ブランド設立から3年足らずだが、すでにカルト的な人気を博しており、特にパンデミックによるステイホーム中に成長を遂げた。ハリは「家にこもりっきりの生活の中で、多くの人がコージーで楽、そしてエフォートレスなアイテムを探していたんだと思います。(私たちの)シャツはパジャマ代わりにしてもいいし、デニムやスカートとも合わせやすい。TPO問わずで活用できるのが特徴的です」と、ブランドの成長を独自に分析する。
さらに、ジェニファー・ガーナーやメアリー・ケイト・オルセンなど、多くのセレブにも愛用されている。「オルセン姉妹は才能がありますよね。彼女たちが着てくれたなんて、本当に光栄です」とピット。
目指すのは、スローファッション
将来的には、アイテムのバリエーションを増やすことを考えているそうだが、現時点ではふたりは焦りを感じていない。「ブランケットやハット、ソックスをリサイクル製のカシミヤで作りたいと思います。スローファッションにするのは、最初からのビジネスプランでした。ふたりともファッション業界に携わるのは、初めてでしたので」とハリは話す。
ピットも彼女に同意し、これまで通りのゆっくりとした成長ペースを保つことが目標だと加えた。「ふたりとも本業があります。だから、ファッション業界に革命を起こすような大きなプランはありません。重要なのは、楽しんで作ること。それが続く限り、ビジネスも続きます。私たちは商品に“ハイプ”をもたらす達人ではありません── むしろ、それは苦手分野です(笑)」
Text: Christian Allaire Adaptation: Sakurako Suzuki
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