ポール・エルバースと最近会ったときのこと。展示会でダブルフェイスコートを目にした彼は、「フェルトの質感が際立っていて、とても“ヨーゼフ・ボイス”的だ」と口にした。20世紀を代表するドイツ人アーティストを服の形容詞として用いる人は珍しいが、彼がクリエイティブ・ディレクターを務める新ブランドで、業界のベテランであるラウラ・ヴァスケスとニナ・コウスラが立ち上げたフォーム(FFORME)の本質を言い表しているようだった。
建築的な“形”を身に纏うことの楽しさ
「私たちがやっているのは、主張しすぎないボリュームと抽象的なフォルム、そしてそれらと身体の関係を探ることです」と、エルバースは説明する。彼が手がけるコレクションは、「建築的な形や構造を身に纏うことの楽しさや、容易さを表現したもの」だという。足首をさりげなく覗かせるカットアウトパンツや、計算し尽くされた動きを加えたチュニックなどは、ラックに吊るされていても、その縫い目までが生き生きとして見える。手に取ってその重みを感じ、ドレープの流れを目にしたい──空気のように軽やかなニットドレスに触れたい──といった私たちの欲求を掻き立てる。エルバースは縫い目を途切らせることなく服を作るという試みも行っており、太いウエストバンドとダーツを施した黒のロングスカートは、その例のひとつだ。
この技術の高さを目で見れば、エルバースがザ・ロウ(THE ROW)のメンズウェアの立ち上げに携わり、それ以前はメゾン マルタン マルジェラ(MAISON MARTIN MARGIELA)、ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)ではマーク・ジェイコブスの下で働いていたことは、驚くにはあたらないだろう。
力強いシルエットと美しいファブリックの組み合わせを本能的に理解している彼の手にかかれば、クリーム色のタンクトップはパンクなムードを放ち、ライラックはフューチャリスティックにさえ見えてくるのだ。
メンズウェア特有の厳密さがもたらす、多くの可能性
「メンズウェア特有の厳密さが、ウィメンズウェアにはとても美しく見えると思うんです」と、エルバースは考える。「メンズウェアの生地がドレーピングで解放されると、形を描き始めます。これはメンズウェアではできないこと」。彼は実際にサイドのドレープが誇張されたシンプルなコットンTシャツを見せながら、こう続けた。「私たちは形を固定しません。与えられた素材の特徴を生かして仕事をする。そうしてデザインしたものが、現代女性たちの装いに多くの可能性をもたらすのです」
Text: Laia Garcia-Furtado Adaptation: Motoko Fujita
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