今、改めてローマ出身のファッションデザイナーに注目が集まっている。パリ装飾美術館では、モード界のシュルレアリストで知られるローマ生まれのエルザ・スキャパレリの功績を讃えた展覧会が開幕。ヴァレンティノ(VALENTINO)を率いるピエールパオロ・ピッチョーリは、7月上旬に発表した2022-23年秋冬クチュールコレクションをローマの観光名所、スパニッシュ・ステップスで行なった。さらに、グッチ(GUCCI)を率いるアレッサンドロ・ミケーレは、常に挑戦的なローマスピリットを発揮している。
次世代を発掘すべく、ピッチョーリとミケーレはともに、アルタ・ローマとイタリア版『VOGUE』が主催するデザイナーコンテスト「Who Is on Next」に審査員として参加した。今年で第18回目を迎えた本コンテストは、メイド・イン・イタリー(イタリア製)をコンセプトに掲げる。ファイナリストには、ふたりのアクセサリーデザイナーと9つのブランドが選ばれ、そのうち5人はイタリア国外の出身者だ。海外エントリーの人々は、イタリアの職人と協力し合い自身のクリエイションを作り上げた。
最終コレクションは、19人の豪華審査員たちとともにカンピドリオ広場で盛大に発表。今年のフランカ・ソッツァーニ賞(最優秀賞)には、セッチュウ(SETCHU)のサトシ・クワタ(桑田悟史)、モックウ(MOKOO)のク・ボンモ、そしてリカルド・スキャブッリ、アリス・カーティ、アルベルト・ペッティロの3人によるレシコ ファミリエア(LESSICO FAMILIARE)の3ブランドが選ばれた。さらに、メンズウェアデザイナーのアレッサンドロ・マーケットと、靴デザイナーのカリム・ダオウディがピッティ・イマジン・チューターリング・アンド・コンサルティング・アワードに選出。
昨年の受賞者たちと同様、今回の参加者たちもほとんどが若手デザイナーだ。しかし、学校を卒業したばかりの若者ではなく、その多くは何年もあらゆるメゾンで経験を重ね、一人前になるまでスキルを磨いたプロばかりだ。
最優秀賞に輝いた3ブランドをチェック!
1 セッチュウ(SETCHU)
日本出身のサトシ・クワタ(桑田悟史)は、パンデミック中に自身のブランド、セッチュウ(SETCHU)をスタートした。祖父の服や洋裁師であった叔母の作品に触れ、ファッションに目覚めた彼は、ロンドンの名門ファッション・スクール、セントラル・セント・マーチンを卒業。サヴィル・ロウのテーラーで働いた後、ニューヨークのエデン(EDUN)、パリでリカルド・ティッシやカニエ・ウェストのもとで勤務する。最終的にイタリアにたどり着き、さまざまなメゾンで働いた彼は、ローマでセッチュウ(SETCHU)を立ち上げた。
「和洋折衷」に由来するブランド名通り、和の要素と、西洋の文化を巧みに組み合わせたエレガントな世界観が特徴的だ。2Dから3Dへとシフトするシルエットはまるで折り紙のようで、ボタンをカスタムできるドレスは着物のシルエットからインスパイアされたそうだ。「東洋と西洋をミックスしたスタイルで、無駄のないシンプリシティを意識しています」と、ショーの後に彼は説明した。
2 モックウ(MOKOO)
韓国にルーツを置くモックウ(MOKOO)のク・ボンモは、広大な視野を持つデザイナーだ。彼の美学は前衛的で、ファッションのみならず、アート活動も今後は平行で取り組みたいと語っている。彼はシカゴ、ソウル、そしてイタリアなど、各国都市でファインアートや金属加工といったスキルを培ったのちに、2017年にブランドをスタート。
2023年春夏は「未来を今に具体化すること」をテーマに掲げ、自由な曲線や型にはまらないシルエットが展開された。ショーノートは「無意識に蓄積された感情が個人の周波数波(HZ:ヘルツ)を左右する」と説明され、それらを自由な曲線が表している。
3 レシコ ファミリエア(LESSICO FAMILIARE)
教師でありデザイナーでもあるリカルド・スキャブッリとアリス・カーティ、そしてアーティザンでタトゥーアーティストのアルベルト・ペッティロの3人が立ち上げたブランド、レシコ ファミリエア(LESSICO FAMILIARE)。「家庭用衣服プロジェクト(Domestic Clothing Project)」というテーマのもと2020年にスタートし、カーテンやテーブルクロス、シーツなど、既存の素材をアップサイクルしたアイテムのみを製作する。
ユニークな製作プロセスが故、二つと同じものはない。だが、ブランドの目印となるモチーフやディテールを取り入れ、そのほかのアップサイクルブランドとの差別化を目指している。中でも多くのアイテムにビッグリボンを配し、それがブランドアイコンとなっている。
Text: Laird Borrelli-Persson Adaptation: Sakurako Suzuki
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