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ヴァレンティノのテーマはナイトクラブ。表現の自由が寛容される世界を願って【2023年春夏クチュール速報】

ヴァレンティノ(VALENTINO)2023年春夏オートクチュールのテーマは、なりたい自分になることが許される場所、ナイトクラブ。「ヴァレンティノ ピンクPP」をはじめとする色の魔法が、「個」を尊重する寛容な世界を描いた。

1月25日の夜、ピエールパオロ・ピッチョーリ率いるヴァレンティノ(VALENTINO)が、2023年春夏オートクチュールコレクションを発表した。「ヴァレンティノ ル クラブ クチュール」と題された今シーズンのテーマは、文字通りクラブだ。ゲストは、ポン・アレクサンドル3世に隣接するパリのナイトスポット「ブリッジクラブ」に招待された。

暗闇の中から現れたのは、身体とコントラストを描く大胆なプロポーションや、繊細な手仕事の数々。煌びやかなラインストーン、大きく波打つラッフル、リボンなどの装飾は、ウィメンズとメンズともに採用され、「着飾る」という人間のもっともピュアな歓びを呼び起こす。全82ルックは、一人ひとり異なる人間の個性を映し出しているようだが、どれも根底にはヴァレンティノならではのエレガンスが光っている。

そして、ピエールパオロのヴァレンティノといえば色の魔法。昨年発表され、世界中のファッションラバーを魅了したメゾンのオリジナルカラー「ヴァレンティノ ピンクPP」がここでも、ボールガウンやコート、オペラグローブなどバリエーション豊富に登場し、暗闇の中で一段と存在感を放っていた。また、ベビーピンクとグラスグリーン、ライラックとチョコレートブラウンなど意外な色合わせの手腕も健在だ。

クラブとクチュール、この二つは対極にあるように思うかもしれない。だが、ショーノートには、「贅沢さの表現、変身ツールとしての衣服の概念、本当の自分自身の構築、表示と表出という矛盾が両立する二面性を持ったボキャブラリー、生活を通してのパフォーマンス。これらは、クチュールとクラブが持つ共通の価値です」と説明されている。

1980年代にボーイ・ジョージやリー・バウリーが、ファッションやジェンダーアイデンティティを実験していたように、クラブカルチャーはデザイナーたちをインスパイアし続けてきた場所。なぜなら、社会の境界線が存在せず、人々がなりたい自分になることが許されるから。世界もそういう場所であってほしいというのが、ピエールパオロの願いなのだ。

ピエールパオロにとってのオートクチュールは、実際に買うことのできるごく一部のエリート層のためだけのものではない。メゾンのコードを守りながら、人種や性別などの違いを超えた「個」をたたえる、新しい価値を世界に向けて発信している。

※ヴァレンティノ 2023年春夏オートクチュールコレクションを全て見る。

Photos: Courtesy of GoRunway(Finale), GoRunway(Looks)  Text: Maki Saijo