始まりの地へ立ち返ったヴァレンティノ。時を超えた“美”を追い求めて。【22-23年AW クチュール速報】
「VALENTINO THE BEGINNING」と題されたヴァレンティノ（VALENTINO）の2022-23年秋冬オートクチュールショーは、メゾン誕生の地であるローマで発表された。原点回帰したクリエイティブ ディレクターのピエールパオロ・ピッチョーリは、メゾンの精神を隅々にまで反映させたコレクションを展開した。
ヴァレンティノ（VALENTINO）が2022-23年秋冬オートクチュールショーの発表の場に選んだのは、ヴァレンティノ・ガラヴァーニがメゾンを設立したローマ。クリエイティブ ディレクターのピエールパオロ・ピッチョーリは、「とてもパーソナルなコレクションです。ヴァレンティノが最後にスペイン階段でショーを行ったのは1990年代でした」と話す。始まりの地に戻ることで、いつまでも変わらないものの中にある価値や、時を超えた美しさを見出した。
1/5メゾン誕生の地、ローマのスペイン階段で。
黄金の夕日に照らされるスペイン階段、トリニタ・デイ・モンティ教会から響き渡るロマンチックな歌声──ピッチョーリが今回のロケーションに選んだのは、ヴァレンティノ・ガラヴァーニがメゾンを設立した地であるローマだ。そして彼はこのコレクションを、変化とともに歩んできた場所への回帰を意味する「VALENTINO THE BEGINNING」と題した。ショーの数日前にパリで行われたプレビューで、彼は次のように語っている。「私はいつもフィナーレから始めます。私が心に描いているのは、スペイン階段から降りてくる色とりどりの雫、光と動きのあるボリュームです」。ピッチョーリのヴァレンティノがそうであるように、ローマをローマたらしめる要素は変わらないかもしれないが、その“価値”は永遠に進化し続けている──過去、現在、そして未来へと繋がれる“ヴァレンティノとの対話”を描いたショーには、そんな思いが込められていた。
2/5過去と現在を結ぶ架け橋。
ピッチョーリは長きに渡って、18世紀に建てられたこの階段でショーを開催することを夢見ていたという。「とてもパーソナルなコレクションです。ヴァレンティノが最後にスペイン階段でショーを行ったのは1990年代でした。そしてその当時のファッションは、今とは異なる存在意義を持っていたと思います。当時は、ライフスタイルと完璧な美、グラマー、スーパーモデルにフォーカスしたものだった」と彼は話す。「私はヴァレンティノの精神、つまり生きる喜びを表現したかったのです。なぜなら、それが時を超えた美を可能にする唯一の方法だと思うから。一方で、45年前とは違う、私が届けたいイメージがあります。それは、私たちが生きている時代のイメージ。オートクチュールの伝統を守りたいと思っていますが、昔と今の違いは、キャスティングにあると考えています。ストーリーを語り、この世界の異なる瞬間を伝えることができるキャスティング、つまり“人間”です。私は彼らに力を与え、声を与え、彼ら自身の物語を紡ぐ機会を与えたい」
3/5ヴァレンティノとピッチョーリが築いてきたもの。
ヴァレンティノ・ガラヴァーニが数十年に渡って築いたヘリテージを詩的に表現するだけでなく、ピッチョーリ自身の貢献も反映させたこのコレクションは、彼のショーへのアプローチが明確に表れている。新しさを追求するのではなく、クリエイティブ ディレクターとして14年（メゾンでの在籍期間は23年）もの間、向き合ってきたこのメゾンが、何を目指してきたかを振り返ったのだ。そしてそれは、ドレス、スーツ、コートのボリューム感、ジュエルカラーの魅惑的な色合い、そしてローマの夜風に吹かれて揺らめくフェザーをあしらったヘッドピースなどから、はっきりと見て取れる。「ヴァレンティノの中にどれだけ私の存在があるのか、そしてヴァレンティノがどれだけ私のアイデンティティの中にあるのか、見つめ直したかった。私がすでにやってきたことのすべてを、違う場所で挑戦するのです」
4/5美しく闘うアクティビズム。
ヴァレンティノにおけるピッチョーリの時代は、政治的な分裂が続いている。彼のキャスティングに代表される多様性、包括性、自己表現といったピッチョーリが突き詰めてきたものに反して、最近ではアメリカと全世界を騒がせた「ロー対ウェイド」判決を覆す判断でも浮かび上がった反動的な思想の台頭が著しい。この美しく壮大な演出は、そういった現実に対するピッチョーリのアクティビズムの表れだ。丹念に作られたタフタドレス、ローマのモザイク画を想起させるような立体的なヘッドピース、あるいはボリューム感のあるスパンコールスーツであっても、ピッチョーリが手がけるオートクチュールの根底にあるのは、クラフトマンシップよりも深いところにある“夢”のようだ。
5/5オートクチュールの心臓部。
ナオミ・キャンベル、ケイト・ハドソン、アン・ハサウェイなどのフロントローを彩るセレブやクライエントは、最新コレクションを纏ったモデルたちがゆっくりと歩く姿に目を輝かせた。このショーは、ピッチョーリによるオートクチュールが世界に与える影響を証明するものだ。しかし彼は、業界での位置付けや名声といったものに関わらず、あらゆることに対して現実的で、地に足の着いたアプローチを取り続ける。この落ち着きこそが、彼の作品の核心にあるものなのかもしれない。
※ヴァレンティノ2022-23年秋冬オートクチュールコレクションをすべて見る。
Text: Anders Christian Madsen Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.CO.UK