静かな嵐のようにファッション業界に影響を与える女性。
ベティ・ジャクソンは喜んで取り上げたいデザイナーの一人。なぜなら彼女は実に独特なやり方でファッション業界に影響を与える、いわば静かな嵐のような女性だからだ。1949年、イギリス・ランカシャーに生まれたベティ・ジャクソンは英国デザインの歴史において、極めて独特の特徴を浮かび上がらせてきた。ベティという一人のファッションデザイナーを語るうえで、彼女が人生で直面した大きな障害について触れないまま、このストーリーを書くことは不可能だろう。たったの6歳で片足を失った彼女が、虚栄心そのものともいえるようなファッション業界でキャリアを積んでいくのはどれほど大変なことか想像に難くない。だがベティはその道を選んだ。派手やかな衣装に身を包んだモデルたちに囲まれ観客からの拍手喝采の中、ランウェイショウのフィナーレに登場する彼女の姿を見るたびに、私はただただ感動を覚えるのである。そのクリエイションとともに、彼女の人生における粘り強さと勇気、そしてポジティブなスピリットに敬意を表したい。
感性に磨きをかけた、60年代のロンドン全盛期。
ベティといえば、1990年代にイギリスBBCで放映され人気を博したコメディ番組『アブソリュートリー・ファビュラス(Absolutely Fabulous)』(または略してアブ・ファブ。ぜひともDVDでチェックしてほしい)の衣装をデザインしたことで知られているが、バーミンガム・カレッジ・オブ・アートを卒業した彼女はファッションデザインに関心を寄せるまではイラストレーターの仕事をしていた(もともとは、彫刻家を目指していた)。 ファッション界で仕事をするようになってからは、彼女は才能あるウェンディ・ダグワーシー(英国王立美術学院RCAファッション学科長)と一緒に働く機会を得た。その後、アリス・ポラック(1960〜70年代にロンドンで大流行したデザイナー。後述のオジーを発掘した人物でもある)や才気あふれるオジー・クラーク(1960年代、ロンドンのスウィンギング・シックスティーズを流行させたデザイナーの一人)たちがキャリアをスタートさせるきっかけとなった、ロンドン・キングスロードのショッ「Quorum」のチーフデザイナーに就任。しかし彼女には自身の会社、自身のブランドを立ち上げる日が来るとわかっていた。そして1981年、フランス人の夫、デヴィッド・コーエンとともに自身のブランド「ベティジャクソン」を設立する。実用性重視のベティは、当初からお洒落でリアルな服をデザイン
した。信頼のおけるファッションを必要とする女性たちのための服、美しいけれどもある意味控えめな服、黒のイブニングウェアからスポーティなセパレートまで、すべてが彼女の名を冠した服なのである。それは女性の社会進出にともなって、働く女性たちの日常を支え、ささやかな楽しみを与える服だといえるだろう(やがてメンズラインまで、デザインの幅を広げることになる)。彼女がデザインする服は一見シンプルだが、彫刻を学んだ彼女がそのスキルをデザイン倫理にどう置き換えているかが容易に見て取れる。彼女の服は年齢を超越している。というのも、すべての女性たちは地位も年齢も関係なく認められて当然であり、彼女たちにはスタイリッシュでありながら、着心地の良さも提供されるべきだとベティは信じているし、それが女性たちに対する彼女の姿勢だからだ。彼女はそういった信念に自身のキャリアのすべてを捧げてきた。そしてその活力や情熱や精神力によって、同業者たちの称賛の的だということは変えられない事実である。女性たちがコレクションに何を望んでいるのか、彼女ははっきりと理解している。それはリッチなファブリックと鮮やかな色彩をコレクションで、女性の美しさを表現することだ。ベティは自身の会社を設立したいと願っていた頃から、手袋、スカーフ、ハンドバッグ、ジュエリーすべてを大胆な洗練さでデザインを続けてきた。
不屈の精神で障害を乗り越え、心に描くヴィジョンを実現。
ベティはまた、CBE(大英帝国勲章)保有者で英国ファッション大賞も数回受賞している。彼女は─といっても彼女は否定するだろうが─私たちが困難にもめげず、努力を続けることで、自らの目標を必ず達成できることを体現していると思う。ある意味、彼女はデザイナーをはるかに超えた存在だ。人は夢を追い続けるべきであり、決して障害の犠牲になってはならないという象徴なのである。私は以前から彼女のファッションやメッセージに強い関心を抱いてきたが、イギリスに滞在していた60年代からその後数年間で私が愛しリスペクトするようになった女性─それがベティ・ジャクソンだ。
Betty Jackson(ベティ・ジャクソン) 1949 年、イギリスのランカシャー生まれ。1971 年、バーミンガム・カレッジ・オブ・アートを卒業。その後、パートナーのデヴィッド・コーエンとともに自身のブランドを立ち上げ、英国ファッション大賞を受賞。現在でもロンドンのファッション界を支える一人として活躍を続ける。
Text: Gene Krell