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Happy Birthday トム・フォード! 彼が愛するミューズとインスピレーション源をプレイバック。

8月27日、59歳を迎えたトム・フォード。彼はこれまでに、どんな場所や人物から影響を受けてきたのか? 少年時代を過ごしたニューメキシコや、デザイナーへの道筋をたてたNYやLA。そして彼のクリエーションに不可欠な存在である個性豊かなミューズたちを振り返ってみよう。
デザイナー、映画監督etc... マルチな才能を引き出してくれる発想源とは?
Photo: J. Kempin

センシュアルの王、リップスティックの王、そしてクールの王。トム・フォードはいつもそう呼ばれてきた。グッチサンローランを10年かけて復活させたのち、自身の名を冠したレーベルを作り上げ、アカデミー賞にノミネートされた映画『シングルマン』(2009)では映画監督デビューを果たした。

その後、2017年11月にも映画『ノクターナル・アニマルズ』を手がけている。彼のマルチプレイヤーぶりは周知の事実だが、誰が、何が彼をかき立てるのか? 彼が情熱を注ぎ信頼を寄せるミューズたちと、インスピレーション源を紐解いてみたい。

映画『ノクターナル・アニマルズ』(17)より。

青春時代を過ごした70年代のNY。自身のジェンダーを自覚することに。
Photo: Patrick McMullan

眠らないNYの街は、トムの性意識──「私はNYに引っ越すまで、自分がゲイだとは気づかなかった」と2015年に『The Guardian』紙の取材に対して語った──だけではなく、彼の美的な鑑賞力をも覚醒させた。ニューヨーク大学でアートの歴史を学ぶため17歳で上京。ドラッグ、音楽、スタジオ54のレザーアイテムなど、大学以外での刺激がインスピレーション源に。そうして、デザイナーに不可欠な美に関する幅広い知識を身につけ、70年代スタイルへの永続的な愛を形成していった。

70年代 NYの街並み。 Photo: Trinity Mirror / Mirrorpix / Alamy
ビアンカ・ジャガーのクールなタキシード姿に夢中になった10代。
Photo: Express Newspapers

1980年代のLAで、まだ10代だったトムはとてつもなくクールなビアンカ・ジャガーに出会った。彼女の特徴でもあるホワイトタキシードは、のちに“King of Suits”として知られることになる彼に大きな印象を与えた。しかし、彼が最も魅了されたのは彼女の目だったという。彼は青春時代のミューズの名を取り、「ビアンカ」というアイコニックなサングラスを誕生させている。

デザイナー人生に大きな影響を与えたロイ・ホルストン・フローイック。
Photo: Alamy Stock Photo

1980年代、LAで俳優として活動している頃、大きな出会いを果たす。ファッションデザイナーのロイ・ホルストン・フローイックだ。ホルストンと友情と信頼関係を築き、デザイナーとしても影響を受けたトムは、何度も印象的なコレクションを発表。

最も有名なものはグッチの1995年秋冬と2001年春夏だろう。サテンやビロードなど、ホルストンの顕著な特徴がいたるところに散りばめられていた。「私のデザインを通して、ホルストンの直接的なラインを見ることができる」と、2012年にWWDの取材で語っている。

グッチ1995年秋冬コレクション。ブルーのシルクサテンシャツとベロアパンツを纏ったケイト・モス。 Photo: Ben Coster/Camera Press/AFLO
ニットのボディスーツにサングラスを合わせたグッチ 2001年春夏のルック。 Photo: REUTER/AFLO
『シングルマン』にも出演したジュリアン・ムーアはトムのドレスを愛用。
映画『シングルマン』(2009)より。 Photo: AF archive / Alamy Stock Photo

トムの伝説的なキャリアを支えてきたミューズは、そばかすがチャームポイントだ。ジュリアン・ムーアは、『ブギーナイツ』(1997) や『アリスのままで』(2014) などの作品において、約15年に渡りハリウッドのレッドカーペットをトムのドレスを纏って歩いている。

レッドヘアやグリーンアイ、シャープなフェイスラインなど、彼女の控えめな美しさは女優としての洗練さを演出。言葉では表現できない彼女のキャラクターに魅せられたトムは、映画監督デビュー作『シングルマン』に登場する女性の役柄に、彼女を思い浮かべながら形作っていったという。

『シングルマン』で主演のコリン・ファースに演技指導するトム。 Photo: Weinstein Company/Fade To Black/Kobal/REX/Shutterstock
2010年『シングルマン』のプレミアにて。 Photo: Newscom/AFLO
ローレン・ハットンの普遍的な美しさに魅了されて。
Photo: Ron Galella

時代を超越したスタイルについて語るとき、私たちは誰を思い浮かべるだろうか? それは、トムの長年のミューズにしてランウェイの常連であるモデルのローレン・ハットンに違いない。『アメリカン・ジゴロ』(1980) に出演した女優でもある彼女は、2010年に66歳という年齢で、トム フォードのウィメンズデビューコレクションでビヨンセとともにキャットウォークに登場し、年齢や性的魅力についての世間一般の見方に公然と反抗してみせた。現在76歳を迎えてもなお美しい彼女は、トム フォードのすらりとしたビロードのドレスを依然として着こなしている。

幼少期を過ごしたニューメキシコへの郷愁。
Photo: Witold Skrypczak / Alamy Stock Photo

ロンドン、パリ、ミラノがファッション界における主要都市ではあるが、トムは長年ニューメキシコに思いを馳せてきた。彼の家族は彼が11歳のときにテキサスからアメリカで5番目に大きい州であるニューメキシコへ転居しており、それ以来、自然豊かな風景に影響を受けている。1990年代初頭、最初の高額小切手を当時のグッチ・グループから得たあと、彼はサンタフェにある祖母の家を買い戻した。祖母のグリーンの宝石と演劇のセンスは、彼の2001年のイヴ・サンローランのコレクションに着想を与えることとなる。

しかし、ニューメキシコという地は、かけがえのない存在である祖母よりもいっそう、“永続的な女神”であった。サンタフェの郊外に約2万4千エーカーの広大な牧場用地を購入したとき、彼はいつかそこに埋葬されたいと願った。その後、彼はその土地を売却リストに載せている。しかし彼が帰郷するまでは、LAの自宅に飾られている画家ジョージア・オキーフのモビール作品が、“母なる大地”であるニューメキシコを思い起こさせるだろう。

2019年よりCFDAの会長に就任。ファッション界の未来に向けて奮闘。

Photo: Getty Images

2019年6月、トムはCFDA(米国ファッションデザイナー協議会)の会長に就任。それまで13年間会長を務めていたダイアン・フォン・ファステンバーグの仕事を引き継いだ。

今、ファッション界は新型コロナウイルスの影響で、数々の大きな問題に直面している。2020年5月、トム率いるCFDAと英国ファッション協議会(BFC)は、ファッション業界のシステムをあらゆるレベルで改革すべく、「ファッション業界のリセット(The Fashion Industry’s Reset)」と題する共同声明を発表した。コレクションのスケジュールをはじめ、生産や販売に関する既存の概念を見直していくという。さらには、サステナビリティダイバーシティなど、課題は山積みだ。

デザイナーや映画監督など、マルチに活躍してきた彼の手腕やアイデアが、ファッション界の明るい未来に繋がることを期待したい。

Text: Julia Cooper