家族4人が失業中のキム一家は、半地下で極貧生活をおくっている。長男のギウ(チェ・ウシク)は、元クラスメイトの代わりに、IT企業CEOのパク家の豪邸で家庭教師をすることに。パク家の事情を知ったキム一家は、紹介と偽って次々と職を斡旋し、裕福な生活に寄生していく。
両家のやり取りは、テンポがよく共感できる箇所が各々にあり引き込まれる。しかし、ある出来事をきっかけに事態は変わり、物語もコメディからホラーへ変化。想像を絶する展開に目が離せない。
作中に登場する豪邸は、本作のために建てられたという。この“丘の上の豪邸”と実際に存在する“半地下”という住居形態は、韓国社会問題の何を指すのか。ポン・ジュノ監督による隙のない映画の構成であっという間の130分だ。
・作品賞ほか、監督賞(ポン・ジュノ)、国際長編映画賞、脚本賞、美術賞、編集賞の6部門にノミネート。→作品賞、監督賞(ポン・ジュノ)、国際長編映画賞、脚本賞の4部門受賞。
公開中
配給/ビターズ・エンド
http://www.parasite-mv.jp/
『バッドマン』、『ダークナイト』などのDCコミックや映画シリーズでお馴染みの悪役、ジョーカー。彼の出生とともに、“普通の人間”として生活していたアーサー・フレック時代を初めて描いた作品。
大道芸人として働きながら母と貧しい暮しのアーサー(ホアキン・フェニックス)。自らも汚言症で周囲に誤解を招きやすい。逆境の中生きる原動力となるのは、スタンドアップコメディアンになって憧れマレー・フランクリン(ロバート・デニーロ)のトークショーに出演すること。
目を見張るのが、5代目のジョーカーを演じるホアキン・フェニックスの怪演だ。社会的弱者だった主人公が悪のカリスマになるまでの姿は痛快。作中でオマージュされた『タクシードライバー』(76)や『モダン・タイムス』(36)などの作品も、改めてチェックしたい。
・作品賞ほか、主演男優賞(ホアキン・フェニックス)、監督賞、作曲賞、脚色賞、撮影賞、録音賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、編集賞、音楽編集賞の最多11部門にノミネート。→主演男優賞(ホアキン・フェニックス)、作曲賞の2部門受賞。
2020年2月7日より日本再上映予定
配給/ワーナー・ブラザース映画
http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/
1969年のハリウッドは、カウンターカルチャーの影響で西部劇が時代遅れになり過渡期を迎えていた。人気に陰りが出始めた俳優のリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と専属スタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)も仕事の悩みを隠せない。そんな中、時代の寵児である映画監督ポランスキーと若手女優シャロン・テート夫妻が引っ越してくる。
鑑賞前にシャロン・テート殺人事件について調べておくのが、登場人物を把握しやすくおすすめだ。長編10作目で引退を公言している、クエンティン・タランティーノ監督の9作目で、自身が幼少期を過ごしたハリウッドへのノスタルジーと映画スターへの憧憬が詰まった大作。主演2人の魅力も余すことなく写し出している。
・作品賞ほか、主演男優賞(レオナルド・ディカプリオ)、助演男優賞(ブラッド・ピット)、監督賞(クエンティン・タランティーノ)、脚本賞、撮影賞、録音賞、衣裳デザイン賞、美術賞、音響編集賞の10部門にノミネート。→助演男優賞(ブラッド・ピット)、美術賞の2部門で受賞。
デジタル配信中
http://www.onceinhollywood.jp/
>『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、タランティーノが用意した秀逸な結末。
女優のニコール(スカーレット・ヨハンソン)と劇団を主宰する演出家、チャーリー(アダム・ドライバー)は離婚を決めた夫婦。穏便に手続きを進めていたが、1人息子をめぐり弁護士も巻き込んだ泥沼代理戦争に発展する。
協力的な姿勢を見せながらも憎み合い、言い争うシーンは息を吐くことも忘れる緊張感が。しかし、ふとした瞬間に長年の夫婦生活で培ったお互いを思いやる姿もあり、涙を誘う。
裁判の決着がつき各々の人生を歩むことになるものの、男女の温度差は歴然だ。また、スカーレット・ヨハンソンが演じる“等身大の女性”の姿には胸を打たれるだろう。
ラストシーンでは、なぜ離婚を描きながら『マリッジ・ストーリー』という題名なのか明らかになる。
・作品賞ほか、主演男優賞(アダム・ドライバー)、主演女優賞(スカーレット・ヨハンソン)、助演女優賞(ローラ・ダーン)、作曲賞、脚本賞の6部門にノミネート。→助演女優賞(ローラ・ダーン)受賞。
Netflixにて独占配信中。
https://www.netflix.com/jp/title/80223779
>『マリッジ・ストーリー』──結婚、いや離婚で幸せになれるのか?
第一次世界大戦の西部戦線。若き英国の伝令兵、スコフィールド(ジョージ・マッケイ)とブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)に、作戦中止を味方に伝えるという指令が与えられる。罠が待つとは知らず、作戦のために控える兵士1600人の中にはブレイクの実兄が配属されていた。朝が来るまでに命をかけて戦地を走る2人の姿を追う。
監督は『アメリカン・ビューティー』(99)でアカデミー賞を受賞し、『007スカイフォール』(12)『007スペクター』 (15)を手がけたサム・メンデス。驚くべきことに、本作は全編を通してワンカットで物語が進行する。
主演の若手俳優のほか、コリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチ、マーク・ストロングなど英国を代表する俳優たちも出演。
・作品賞ほか、監督賞(サム・メンデス)、作曲賞、脚本賞、撮影賞、録音賞、視覚効果賞、美術賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、音響編集賞の10部門にノミネート。→撮影賞、録音賞、視覚効果賞の3部門で受賞。
2020年2月14日より日本公開
配給/東宝東和
https://1917-movie.jp/
>サム・メンデス監督が、『1917 命をかけた伝令』を全編ワンカットで撮った理由。
19世紀の女性作家、ルイザ・メイ・オルコットの『若草物語』を次女、ジョーの視点でリメイク。ストーリーは4姉妹がすでに成長したところから始まる。
作家志望のジョーの頑固で不器用なキャラクターこそ変わらないものの、彼女の夢への想いを通じ結婚や仕事、男性との格差など、現代社会にも通じる“女性の人生”について切り込んでいく。
主演は『レディ・バード』(17)での熱演が記憶に新しいシアーシャ・ローナン。彼女に求婚する幼馴染は、今をときめくティモシー・シャラメが好演。その他にも、三女役にエマ・ワトソン、愛情深い母役にローラ・ダーン、裕福な叔母役にメリル・ストリープなど、魅力的な女優陣が名を連ねる。
・作品賞ほか、主演女優賞(シアーシャ・ローナン)、助演女優賞(フローレンス・ピュー)、作曲賞、脚色賞、衣裳デザイン賞の6部門にノミネート。→衣装デザイン賞受賞。
2020年3月27日より日本公開
配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
https://www.littlewomen.movie/
>若草物語のグレタ・ガーウィグが監督賞候補入りを逃したのは女性だから?【アカデミー賞ノミネートを逃したセレブvol.1】
主人公はナチスに傾倒する10歳の少年、ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)。心優しい少年だが青少年集団ヒトラー・ユーゲンの仲間にはいじめられてばかり。心の支えは空想上の親友、アドルフ・ヒトラーだけ。ある日、彼は母ロージー(スカーレット・ヨハンソン)と暮らす家に、ユダヤ人の少女エルサが匿われていることに気づく。嫌悪しながらも彼女と交流し人間関係を築くことを知る。
自身もユダヤ人の血を引くタイカ・ワイティティ監督本人がヒトラーを演じるのは皮肉たっぷり。子どものアイドル的なヒトラーと、ファンタジーだった戦争の実態が、話が進むにつれて明かされていく描写は実にユニーク。
・作品賞ほか、助演女優賞(スカーレット・ヨハンソン)、脚色賞、衣装デザイン賞、美術賞、編集賞の6部門にノミネート。→脚色賞受賞。
公開中
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン
http://www.foxmovies-jp.com/jojorabbit/
>主人公の友人はヒトラー? タブーに挑んだ『ジョジョ・ラビット』。
時は1960年代。24時間耐久レース、ル・マンを制した唯一のアメリカ人、キャロル・シェルビー(マッド・デイモン)は第一線を退き、フェラーリの買収に失敗したフォードからレース出場の相談を受ける。修理工場を営み、ならず者のレーサー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)と手を組み、絶対王者フェラーリに挑むことに。
車の組み立てまで職人による手仕事の徹底を貫く、フェラーリの車体、工房の美しさには惚れ惚れする。見どころは、CGを使用していないドライビングシーン。臨場感たっぷりのレースでは、ガソリンやタイヤの焦げつく匂いがしてきそうなほど。脚本は実話ベースで、作中で出てくる「ピュアなレーサー」が何を表すのか、見届けてほしい。
・作品賞ほか、編集賞、録音賞、音響編集賞の4部門にノミネート。→編集賞、音響編集賞の2部門受賞。
公開中
http://www.foxmovies-jp.com/fordvsferrari/
>マット・デイモン×クリスチャン・ベイルで魅せる『フォードvsフェラーリ』。
フランク・シーラン(ロバート・デニーロ)はトラック運転手として働いていたが、組織犯罪に気に入られヒットマンとして活動することに。米大統領の次に影響力があるともいわれる全米トラック運転手組合の長、ジミー・ホッファ(アル・パチーノ)とも家族同然の仲。しかし年齢を重ねるにつれ、得たものと失ったものの間で苦悩する。
巨匠マーティン・スコセッシ監督が初めてNetflixと手を組んで制作した本作は、ギャング映画の往年のスターが集結。実在の人物、事件を基にしたシナリオと迫力ある演技による群像劇はもちろん、齢80近い演者たちが数十年間を経る物語を演じるために施されたデジタル加工にも驚くこと間違いなしだ。
・作品賞ほか、監督賞、助演男優賞(アル・パチーノ、ジョー・ペシ)、脚色賞、撮影賞、視覚効果賞、衣裳デザイン賞、美術賞、編集賞の10部門にノミネート。→受賞なし。
Netflixにて独占配信中
https://www.netflix.com/jp/title/80175798
>『アイリッシュマン』──レジェンドたちが見せた凄みと、その見どころ。
Text: Aika Kawada