「TripTideThud」/プラスティックマン
ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズによるプラダ(PRADA)は、メンズ、ウィメンズ共にテクノ界のレジェンドDJリッチー・ホウティンことプラスティックマン(PLASTIKMAN)を毎シーズン起用している。
“デジタルショーと音楽は共生している”とショー音楽の重要性を語るプラスティックマン。今回は音数を極限まで削ぎ落とした究極のミニマルサウンドに、激しいバイブレーションが入り混じった「TripTideThud」を発表。同曲は「内向的な狭い場所から連れ出し、広い空間の美しさを再認識させ、自信を持って一歩を踏み出し、勇敢な新しい世界を受け入れることを目的としている」のだという。
無観客で行われたショーはサルデーニャのビーチを会場に、MEDSEA財団の海洋生態系回復プロジェクトへの支援の意も含まれていた。ボックスのような真っ赤な空間を抜けると美しいリゾートの風景が広がる、アートと自然を融合させた異空間演出が見事だった。
約1年半ぶりにパリでメンズのショーを行った今シーズンのディオール(DIOR)。アーティストコラボを得意とするキム・ジョーンズが新たにタッグを組んだのは、ラッパーのトラヴィス・スコット(TRAVIS SCOTT)だ。トラヴィスのレーベル「Cactus Jack」を全面に打ち出した「Cactus Jack Dior」と題したコレクションは、ランウェイミュージックも自身の楽曲をメインとしたアレンジで、トラヴィスファンからも注目を集めた。
オープニングを飾ったのは、ジェームス・ブレイクの「f.o.r.e.v.e.r」をサンプリングして、ラッパーのウエストサイド・ガン(WESTSIDE GUNN)をフィーチャーしたメロウなラップ。同曲は、近日リリース予定のニューアルバム『UTOPIA』に収録予定だという。他にも、2019年にリリースされたサイハイ・ザ・プリンス(CYHI THE PRYNCE)とスウェイ・リー(SWAE LEE)をフィーチャーした「In My Head」など、砂漠やサボテン、荒野に咲く花といったテキサスを彷彿させる会場に、トラヴィスサウンドが響き渡った。
ゴールディー(GOLDIE)、ジザ(GZA)、ソウル・ウィリアムズ(SAUL WILLIAMS)といった多数の黒人アーティストをゲストモデルに起用し、ショートフィルム形式で発表した今シーズンのルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)。「アーメン・ブレイク」と題したコレクションは、1969年にリリースされたウィンストンズ(THE WINSTONS)の楽曲「アーメン・ブラザー」からネーミングされており、黒人カルチャーや歴史へのリスペクトを表している。
ゴールディーが手掛けた楽曲「Dassai Menace」がオープニングで流れる中、謎のサムライ姿に扮したソウル・ウィリアムズをミステリアスに写し出していく。他にも、GZAの楽曲「4th Chamber」などが起用され、ブラックミュージック一色となった。
最先端テクノロジーを駆使して作られたクローンモデルが登場するフェイクランウェイにて、スプリングコレクション(男女合同)を発表したバレンシアガ(BALENCIAGA)。クローンの観客は全員ブラックのファッションに身を包み、片手に持ったスマホで撮影するといったユニークな演出だ。
前シーズンに引き続き、ボーイフレンド(BFRND)ことロイク・ゴメス(LOIK GOMEZ)がサウンドを担当。サンプリングに使用している楽曲は1946年にリリースされたエディット・ピアフの代表曲「La vie en rose」だが、一度聴いただけでは分からないほどにアレンジされている。コレクションテーマである“クローン”からインスパイアされたかのように、アンドロイドなボーカルが歌詞を繰り返す。テクノロジーとは無縁だった時代の名曲との対比か融合か?
18分に渡る映像でコレクションを発表したヨウジ・ヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)。スローモーションでモデルがウォーキングする映像はまるで映画の回想シーンのようで、全編で流れるアコースティックギターの音色が哀愁を誘う。エンディングには、テレサ・テンの「別れの予感」のアレンジバージョンが流れ、更なるメランコリックな世界を作り出している。
音楽を手掛けているのは、長年に渡りヨウジ・ヤマモトのランウェイミュージックを制作してきたギタリストの網元次郎だ。過去のサウンドトラックをまとめたアルバム『Yohji Yamamoto Collection Tracks』もリリースしている。映像の中盤では、アコースティックギターに合わせて、山本耀司本人の弾き語りが流れだし、和とダンディズムを感じさせるコレクションとなった。
Text: Kana Miyazawa
