世紀の大激戦となった今回のアメリカ大統領選挙は、先の展開が全く読めないテレビドラマのようだ。二人の大統領候補の討論会は、まさに『アプレンティス/セレブたちのビジネス・バトル』(2004〜2017年)で描かれた役員室の1シーン。実は本作のシーズン1からシーズン14(2004〜2015年)までの製作を手がけたのは現アメリカ大統領が有する制作会社であり、さらにトランプ自身が番組のホストを務めていた。
2名の70代男性政治家が火花を散らしている今回の大統領選は、新型コロナウイルスのパンデミックという混沌のさなかで行われたという意味でも、異様な様相を呈していた。一方で、新型コロナウイルスは奇しくも女性の政治家に光を当てるきっかけともなった。
日本の内閣に占める女性閣僚は2名にとどまるが、今後、政界で活躍する女性がもっと増えることを期待しながら、政治の世界で奮闘し活躍する女性たちが主人公のドラマを集めてみた。『ザ・ポリティシャン』のグウィネス・パルトロウから、『コペンハーゲン/首相の決断』のシセ・バベット・クヌッセンまで、もしこれが現実なら『VOGUE』読者の票を獲得すること間違いなし、の女性たちが躍動する、政治ドラマのベスト5を紹介していこう。
アーマンド・イアヌッチがイギリスで手がけた政治コメディ『官僚天国!~今日も ツジツマ合わせマス~(原題:The Thick of It)』(2005〜2012年)をもとに、舞台をアメリカの政界に移したドラマ。その主役は、女性のアメリカ副大統領、セリーナ・マイヤー(ジュリア・ルイス=ドレイファス)だ。副大統領と彼女のスタッフたちは、自分の政治的力量を示そうと足を引っ張り合うが、ささいな問題に足を取られてミスを犯す。7シーズンにわたって放映され、その間、主演のルイス=ドレイファスはエミー賞で主演女優賞を6年連続で受賞した。
ライアン・マーフィー、ブラッド・ファルチャック、イアン・ブレナンという、『glee/グリー』(2009〜2015年)、『POSE/ポーズ』(2018年〜)、『スクリーム・クイーンズ』(2015〜2016年)などのヒット作を生み出すトリオが原案・制作を手がけたこのドラマは、政治の世界に大志を抱くお金持ちの御曹司、ペイトン・ボバートを取り巻く世界を、ポップな映像美で描くドタバタコメディだ。主役はベン・プラット演じるペイトンだが、グウィネス・パルトロウ演じる母親ジョージナのキャラの濃さは特筆ものだ。特にシーズン2では、ひょんなことからカリフォルニア州知事選に立候補する彼女から目が離せない。いかにもライアン・マーフィー作のドラマらしい現実離れした展開で、1999年にMTVフィルムズが製作したリース・ウィザースプーン主演の秀作コメディ『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』(1999年)の影響も散見される。2020年に入って第2シーズンが配信され、マーフィー自身は最終となる第3シーズンも構想しているとのことだが、あと数年はかかりそうだ。
シセ・バベット・クヌッセン演じるビアギッテ・ニュボー・クリステンセンは、デンマーク初の女性首相という設定。しかしこのドラマの撮影期間中に、現実の世界でもヘレ・トーニング・シュミットが女性として初めてデンマーク首相に選ばれたのは偶然だろうか。凝ったストーリーと出演者の演技力が光るドラマだが、今の状況で見るとより意義深く感じられるはず。新型コロナウイルスのパンデミックへの対処で、フィンランドのサンナ・マリン首相やデンマークのメッテ・フレデリクセン首相など、北欧の女性リーダーが高い評価を受けているからだ。さらに最近になって、Netflixがこのドラマの権利を取得。2022年に第4シーズンを配信する意向を明らかにしている。
ドラマの主役は、ジュリアナ・マルグリーズ演じるアリシア・フロリック。州検事だった夫(『セックス・アンド・ザ・シティ』の“ミスター・ビッグ”役で知られるクリス・ノース)がセックス・スキャンダルと汚職疑惑で辞任し、逮捕、収監されたことをきっかけに、アリシアは弁護士に復帰する。スキャンダルまみれの男性政治家が刑務所行きになるというストーリーは、嫌になるほどリアルだ。怒りや困惑、いら立ちといった感情を完璧に表現するマルグリーズの演技も秀逸。7シーズンという長期にわたるシリーズの間には多くのストーリーが交錯したが、最も記憶に残るのは、常に冷徹な弁護士事務所の調査スタッフ、カリンダ・シャルマ(アーチー・パンジャビ)とアリシアの関係だ。並外れた技量を持つ俳優により、すばらしい役柄が生き生きと演じられている。
ションダ・ライムズの企画・構成による、アメリカの政界を舞台にしたサスペンスドラマ。ライムズは、『グレイズ・アナトミー 恋の解剖学』(2005年〜)や『殺人を無罪にする方法(原題:How to Get Away with Murder)』(2014〜2020年)などのヒット作で知られ、良質な長寿ドラマを数多く手がけてきた天才テレビプロデューサーだ。124エピソードにわたるロングランを記録した本作では、ワシントンDCを舞台に、政界の危機管理のエキスパート、オリヴィア・ポープ(ケリー・ワシントン)の生きざまが描かれる。今のアメリカ政治の悲惨な現実を見ると、オリヴィアが本当にいてくれたら、と願わずにいられない。7シーズン分ものエピソードがあるので、ステイホーム中にイッキ見するとしても1週間は見ておく必要がありそうだ。
Text: Danny Vikram Bell