更新されない、女性の「孤独」の定義
世界中でロックダウンが実施され、日本では緊急事態宣言が出されていたころ。シングル女性たちの価値観が二極化していた。感染リスクの低さから「ひとり暮らし最強!」と力強く語る人がいる一方で、強い孤独感と不安を口にする人も少なくなかった。そして、多くのシングル女性たちが、出会いのチャンスが激減したこの3年間を「恋愛や結婚の機会損失」と受け止めている。
そもそも「孤独感」が芽生える根底には「何をもって『孤独』とするか」という定義が前提にある。そして、この「孤独の定義」は主観的なものでもある。
「オンラインカウンセリングでも『結婚しなければ』『子供を産み、育てなければ』という思いが強く、シングルであることにロンリネスな感情を覚えている人も少なくありません」(ヒカリラボ代表 清水あやこさん)。
この場合、「シングルであること」「子供を持たないこと」を「孤独」と定義しているといえる。なぜ、多くの女性がシングルであることを「孤独」に感じるのか? その背景を検証すると「女はひとりでは生きていけなかった時代」の存在が浮かび上がってくる。
30年ほど前まで結婚は「永久就職」と言われていた⁉
男女雇用機会均等法が施行されたのが1986年。それ以前の時代、女性の人生は「結婚して専業主婦になり子供を産み、育てる」というモデルが王道だった。「女性の就職は結婚までの腰かけ」であり「寿退社する」という前提ありきの社会。企業によっては女性の定年を30歳前後と定め、寿退社すると退職金が上乗せになる制度もあった。要するに、「独身のまま30歳を迎えると定年退職となり生活に困る」という“生存の危機”だったのだ。
つまり、結婚は転職のようなもの。「結婚は女性にとっての永久就職」という言葉も当たり前のように使われていた。就職と言い切ってしまうあたり「愛情は二の次! 結婚は生きるためのもの」という印象だ。「女性はひとりでは生きていけない」ということは、言い換えれば「女性の未婚、独身は生存の危機」という意味でもある。そして、信じられないことにこの価値観は1980年代ごろまで「スタンダード」だった。結果、独身女性は生存の危機を回避するために孤独感を発動して、結婚へのモチベーションを高める必要に迫られていたのだ。
祖母、母親世代がこのスタンダードモデルを生きてきたのなら、娘や孫も「女性は結婚しなければ生きていけない」という理由を含んだ「結婚して家庭を持つべし」という価値観を刷り込んでいる可能性が高い。
この「独身は生存の危機」という価値観に、パンデミックはリアリティを持たせる役割を果たした、といえるだろう。新型コロナウイルス感染症を発症した、ひとり暮らしの人が亡くなったというニュースもしばしば流れた。もともと「女性はひとりでは生きていけない」という価値観の刷り込みが強かった人ほど、不安と孤独感を増していったであろうことは、想像に難くない。
結婚の在り方が変化した30年、生活が一変した3年
現代を生きる私たちを取り巻く状況は、この30年ほどの間に大きく変化している。「永久就職」が死語となった今、女性が仕事を持つことは当たり前。事実婚という選択もありだし、LGBTQに対する理解も深まっている。もはや人生モデルなど存在せず、生き方の選択肢は限りなく多様化しているのだ。
そこに加えて、この3年で生活が一変した。誰一人として経験したことがなかった世界的なパンデミックを乗り越えた今、あなた自身の価値観も多少なりとも変化しているはずだ。結婚にまつわる、もはや“呪い”と呼ぶにふさわしい古い価値観を脱ぎ捨てて、アップデートするべきとき、ともいえる。
この3年を機会損失ととらえるのか。それともアップデートするきっかけととらえるのか。それによって、孤独の感じ方にも変化がみられるはず。
Text: Takako Kurihara