BTSを生んだ韓国の芸能事務所Big Hitと、IZ*ONE、JO1を輩出した『PRODUCE』シリーズで知られるCJ ENM。両者が手がけたオーディション番組『I-LAND』が終わった(日本ではMnetで放送、ABEMAで配信)。まずはデビューした7人、ENHYPEN(エンハイプン)の皆さん、おめでとう!
この番組を観ながら、共に楽しみ、苦しみ、悩みもした。実は今も、心の奥での葛藤、胸の痛みが消えない。それでも特別な3カ月を過ごしたことに感謝しているし、コロナ禍真っ最中の夏を彩ってくれた思い出として一生忘れないと思う。
そもそも筆者はオーディション番組初心者で、朝のワイドショーでNizi Projectを見たことがある程度。K-POPだってさほど詳しくない。ただ、ダンスはバレエからHIPHOPまで大好物で、演劇ライターという仕事柄、オーディションはよく見学させてもらう。私はステージでのパフォーマンスはもちろん、稽古場や打ち合わせなどの舞台裏が大好きだ。ものを作る紆余曲折は刺激的だし、演者の素顔や影の努力に触れられるのもうれしい。
世界141カ国が投票に参加するというスケールの大きさに惹かれ、今をときめくBTSの事務所がどのように人材を育て選ぶのか、最初は興味本意だった。以下はあくまで筆者個人の感想なので、未熟な点はご容赦を。※大いにネタバレあり。
パート1では最初、14歳から22歳までの参加者23名が、豪華な建物「I-LAND」に住む12名と、隣の質素な建物を使う「GROUND」11名に分けられる。施設や服装などに王様と貧民くらいの差がある、歴然たる格差社会。その上、I-LANDでGROUND行きのメンバーを決めるのは参加者自身の投票という、何とも世知辛いシステムだ(逆にGROUNDからI-LANDに上がるメンバーはプロデューサーが選ぶ)。
オーディション番組って、みんな仲間で助け合って頑張るぜ!という青春モノだと思っていたので、その鬼畜さにひっくり返った。何でもこのシステム、最強アイドルを作るためにメンタルの専門家が監修しているらしいが、本当に組みたい相手を見極める?自分の生存をかけてライバルを蹴落とす?その真意は何なのだろう。
ミッションは基本、1曲をチームでパフォーマンスする。I-LANDではプロデューサーが個人を採点し、合計点によってGROUND送りになる人数が決まる。課題曲が出ると、参加者は自分たちで話し合いパートを決め、練習もトレーナーがつかずに自分たちで。ほほう、積極性や自主性が求められているのか!と思いきや、そんな単純な話ではなかった。
初めての課題曲「Into the I-LAND」では、日本人の天才ダンス少年、14歳のNI-KI(ニキ)が本人の希望通りにセンターを務めたが、その結果評価点が全体的に低く、半数の6名がGROUNDに落ちることとなった。(彼本人も評価点は悪くなかったにも関わらず、投票によりGROUNDへ)。つまり、センターをやって失敗するとチーム全員に迷惑をかけるし、自分がGROUNDに落とされる可能性大。
そんな思惑から、次第に他薦によって決まるケースがほとんどになった。多分、積極的にセンターを取りにいったのは最年長22歳の日本人K(ケイ)と、イケメンながらいじられキャラのJay(ジェイ)くらい(パート1の最終テストで、崖っぷちGROUND勢がこぞって手を挙げた。それが唯一の激しいセンター争いだったといえる)。
複雑な心理戦がありながらも、I-LANDでは優秀で有名な練習生ヒスンとダンスに長けたK、GROUNDではNI-KIが練習でのリーダー的役割を果たすようになる。
課題曲はオリジナルやBTSの曲など、カッコ良い系がほとんどだった。I-LAND内にあるステージはLEDをがっつり使い、ダンサブルな曲ばかりでどのパフォーマンスも見応えたっぷり。毎週、どんなステージが繰り広げられるのかワクワクした。個人の歌の披露がほとんどなかったのは残念だが、振付を分析したり、ダンス好きにはたまらない楽しさがあった。
もう一つ、I-LANDとGROUNDにはCAMと呼ばれるカメラがあちこちに設置されていて、番組では放送されない裏側を見ることができる。スタジオやリビング、ダイニング、寝室など。私は何より、スタジオでの稽古風景を見るのが好きだった。ステージに至る過程や成長が見られるから。番組では殺伐としているように見えても、CAMでメンバー同士が仲良くわちゃわちゃしていたりして、そんな姿を見ると安心したものだ。
I-LANDには先輩アイドルも訪れた。実はBTSは曲しか知らず、やんちゃな個性派集団のイメージだったが、参加者の質問に丁寧に答える姿勢が素晴らしかった。その答えがまた芯の通ったもので、人気の理由がわかった気がする。参加者一人ひとりに合わせて、メッセージ付きのプレゼントを用意していたのも素敵だった。
SEVENTEENが訪れた際は、参加者が彼らの前でヒット曲「HIT」「Pretty U」を披露、一緒に踊ったりもした。第一線の先輩たちとの交流は、刺激そしてエネルギーになったに違いない。
パート2ではI-LANDに残った12名がデビュー組7名の枠を競う。プロデューサー評価とグローバル視聴者投票を織り交ぜながら、一つのミッションにつき1名ずつ候補者を脱落させていった(最終回のみ2名)。
ベッドには数字がつき、参加者は順位が変わるたびに部屋を移る。1位には立派なベッドやマッサージチェアなどが与えられた。またデビュー圏内の7位まではバッヂをつける。常に自分の順位を意識せざるを得ない。
そして番組のラストには“脱落式”と呼ばれるセレモニーがあり、下位2人は中央のお立ち台に立ってどちらか脱落するのか、その宣告を聞く。なんとも残酷な演出だ。
こうなると、 “推し”を脱落させたくない。何としてでも自分の手でデビューさせる!と視聴者は投票に燃えるようになる。自分も1日1回、ポチっと投票して参加した気分になっていた。そんな牧歌的な話じゃないと気づいたのは、ツイッターで大量のSIMカードの写真を目にしてから。
国によってはSIMカードが1枚150円程度で購入できるらしく、お金さえあれば簡単にアカウントを増やすことができる。電波法の厳しい国(日本もそう)では無理な話で、ファンダムによっては現地の人と組んで万単位でアカウントを増やすらしい。裏技だろうが……うーん、複雑。
放送のたびに参加者の順位は大きく変動した。上位にいたと思ったら次の回では急降下、また一気に上位へ駆け上がることもあり、まるでジェットコースター。ファンとして放送のたびに一喜一憂し、最高潮のスリルを味わった。
同時に、違和感もあった。ベトナム人のハンビンはパート1ではずっとGROUND、パート2でやっとI-LANDに上がれたので見るのを楽しみにしていた。だが、取り上げられないし映らない。尺が圧倒的に少ないのだ。やっとスポットが当たったと思ったら、プロデューサーにパフォーマンスについてとやかく言われ、その回のプロデューサー判断により脱落。また歌が上手な最年少のダニエルはとてもポテンシャルが高くて注目していたが、後半どんどん映らなくなって歯がゆい思いをした。視聴者投票を打ち出しているのだから、ある程度均等に見せて欲しいと思うのはワガママなのだろうか。
番組の見せ方によっても、視聴者の反応は変わる。Kは高いパフォーマンス力の持ち主で、高得点を上げてたびたびセンターを務めた。スポットが当たる時間も長かった。CAMではみんなのよき兄貴分であり献身的、他の参加者にダンスを教える姿がよく見られた。しかし番組でパート決めでのKのいざこざが描かれたことがあり、日本人をデビューさせたくないアンチファンが偽情報をネットに流布、それが広まってしまう(最終回後にそのアンチがネット上に謝罪文を掲載)。
それが原因かどうかはわからない。Kはパフォーマンスがプロデューサーに絶賛されて1位を獲得、デビュー圏と思われたにも関わらず、その次の最終回でダニエルとともにデビューを逃すこととなる。
正直、最終回では、デビューできた者、届かなかった者。その光と陰の差があまりにも大きくて、みんなを応援していた身としては切り裂かれるような痛みを感じてしまった。今もそう。大衆を巻き込んでのオーディションには疑問も残るし、リアリティーショーの功罪という側面も肌で感じる。
しかしそんな気弱じゃ、韓国芸能界でやっていけないのだろうなぁ、とも。もともと芸能界は不条理なものだし、彼らはそこに望んで飛び込もうとしているわけだ。デビュー組はこの先ますます数字で評価されるだろう。脱落者には再びゼロからデビューを目指す人もいるだろう。茨の道はまだまだ続く。
それでも青春の真っ只中、全身全霊で夢を目指す姿は、ひたすら尊くて美しいと『I-LAND』は教えてくれた。このきらめきは永遠。今は参加者全員の幸せを願うのみ。この先の彼らの動向を注視したい。
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Text: Maki Miura Editor: Saori Asaka