Vol.8 自分や他者をLGBTQ……というアルファベットでカテゴライズする前に。
先週の「容姿で品定めされ、恋ができないことに思い悩む」に続く第8回目は、「既存のジェンダー観や性的規範から解放されたい」という相談だ。
今回は37歳、会社員(女性)からのお悩み──「子どもの頃からスカートやピンク色、お人形遊びが嫌いで、半ズボンを履いて男の子と一緒に戦隊ごっこをして遊ぶのが好きで、密かにいつか男性になりたいと思っていました。でも私は女だから男の子を好きにならなければいけないと思って生きてきました。最近LGBTQという言葉を耳にする機会が増えて、私は自分の性に対して偏見を持って、自ら封じ込めていた部分があるような気がしてきました。もっと自分の性に素直に向き合いたいと思うのですが、未知の領域に尻込んでしまいます。凝り固まった偏見をほぐして背中を押してくれるような本があったら教えていただきたいです」
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子ども時代は常に半ズボンにショートヘア。北斗の拳のキャラクターに真剣になりたいと思っていたという西は、それでも社会から無言の矢印として向けられるジェンダー規範を知らずしらずのうちに受け取り、受け入れ、“社会が認める女の子”として生きてきたとふりかえる。自分が本当はどんな性指向を持つのか深く自問することなく、何の疑問も持たずに男性と恋愛してきた。そして「疑問を持たない」というその残酷な意識で、どれだけの人を傷つけてしまったのかと考えることがあるとも。
女性に惹かれる自分がいると周囲に語ると、「じゃあSEXできるの?」とたびたび聞かれたが、なぜすぐにセックスに集約するのだろう、というわだかまりが残ったという。誰かに惹かれる気持ちや性指向を「性愛だけでカテゴライズできるわけではない。ようやく最近、何ものにも囚われずに何ものにも属さない自分だけのものがあってもいいと思えるようになった」と、その境地を語る。
そんな西が相談者へすすめる処方箋ブックは、ジョン・アーヴィング著『ひとりの体で』と、李琴峰著『ポラリスが降り注ぐ夜に』。前書に登場するミス・フロストという魅力的なキャラクターが物語のなかで発する「ねぇあなた、私にレッテルを貼らないでちょうだい。私のことを知りもしないうちから分類しないで」という一言を紹介する。ときに無意識レベルでも、レッテル、レーベルを貼り、分類し、一般化することが何を招き得るのか──。
“性的マイノリティ”といわれる人々を鮮やかに描く処方箋ブックから、読み手が受け取ることができるメッセージの大切さ、そして人々が得ることができる“気づき”の重さとは? そして、西がこれらの書籍を通じて気付かされた事実から得た教訓とは。“マイノリティ”の権利はなぜ、守られるべきなのか、に対する西の強く鋭い訴えも含め、詳細はぜひポッドキャストで。
西加奈子
作家。イラン・テヘラン生まれ。エジプト・カイロと大阪で育つ。2004年『あおい』でデビュー。直木賞受賞作『サラバ!』(14)や近著『おまじない』(ちくま文庫)ほか、自身が絵も手掛けた絵本など、著書多数。現在は家族でカナダに暮らす。プロレス好き。
Text: Yaka Matsumoto